
信頼関係を築き、チームを育てる「かたまりをほぐす」会話術
社長、「あの件、どうなってる?」と部下に声をかけたとき、「うーん、ちょっとうまくいってません」といった、もんやりとした答えが返ってきて、もどかしい思いをした経験はありませんか?
「だから、何がどううまくいってないんだ!」とつい声を荒らげたくなりますが、ぐっとこらえてください。
実は、こうした曖昧な答えが返ってくるのは、ごく自然なことなのです。
人の言葉は、はじめは大きな「かたまり」
人は、自分の体験や考えを、まずは大きな「かたまり」として頭の中に記憶するクセがあります。
例えるなら、出来事が詰まった、まだ整理していない“段ボール箱”のようなものです。
「週末どうだった?」と聞かれたら、多くの人はまず「すごくリフレッシュできました!」とか「まあまあでした」というように、段ボール箱全体に貼られた“品名ラベル”を読み上げて答えます。
いきなり箱を開けて中身を一つひとつ取り出し、「土曜の朝に新しい釣具を試したくて、〇〇っていう港に行ったんだけど…」と具体的に話し始める人は少ないですよね。
特に、相手との間にまだ少し距離があったり、緊張感があったりすると、人はまずこの大きな段ボール箱(=かたまり)のまま、ポンと差し出す傾向が強くなります。
ここで、「そうか、リフレッシュできたんだね」と会話を終えてしまったり、「週末いいよね!僕も最近ゴルフにはまってて…」と自分の話に切り替えてしまっては、相手の段ボール箱の中身、つまり本当に伝えたい楽しかったことや、もしかしたらあったかもしれない発見を知ることは、永遠にできません。
宝探しのように、言葉の「かたまり」をほぐしていく
そこで重要になるのが、「かたまりをほぐす」というスキルです。
相手が差し出してくれた、ざっくりとした言葉の「かたまり」を、具体的な言葉に少しずつほぐしていく、共同作業のようなものです。
絡まった糸を一本一本丁寧にほどいていくような、あるいは、大きな岩を少しずつ砕いて中に隠された宝物を探すようなイメージです。
(会話例1:週末の過ごし方の話)
「リフレッシュできたんだ!それは良かった。具体的にはどんなことをして過ごしたの?」
「久しぶりに趣味のDIYに没頭したんです。それがすごく楽しくて」
「へぇ、DIY! どんなところが特に『楽しかった!』って感じたの?」
「設計図通りに本棚が組みあがった瞬間ですね。あの達成感がたまらなくて…」
相手の「かたまり」の言葉を受け止めて、それをほぐす質問を投げかける。
すると、少しほぐれた具体的な答えが返ってくる。その中にまた新しい「かたまり」(この例では「DIYが楽しかった」)を見つけて、さらにほぐしていく。
質問する側は、相手の話を聞きながら、頭の中でその情景を「絵」にしていくのがコツです。
「まだこの部分、絵がぼやけてるな」「どんな表情で作業してるんだろう」と感じた部分を、素直に質問にして返していくのです。
これを繰り返すことで、相手の体験を詳細に知ることができるだけでなく、相手は「自分の話をこんなに深く、真剣に聞いてもらえた」と、あなたに強い信頼感を抱くようになります。
部下指導でこそ、このスキルが活きる
この「かたまりをほぐす」スキルは、部下とのコミュニケーションで絶大な効果を発揮します。
「あの案件どうなってる?」という質問に、「B社からクレームが入ってまして…」という“問題”と書かれた固く閉じた箱を、部下が差し出してきたとします。
ここで、「クレームだって!?何をやったんだ!」と箱を揺さぶっても、フタはますます固く閉ざされてしまいます。
そうではなく、一緒に箱を開けるお手伝いをしてあげるのです。
(会話例2:取引先とのトラブル対応)
「そうか、B社からクレームか。報告してくれてありがとう。具体的には、今何が一番の問題になってる?」
「先方の担当者の方が、こちらの説明に納得してくれなくて…」
「なるほど、話が平行線なんだね。先方は、どの部分に一番納得がいかない様子なのかな?」
「納品した製品の仕様について、少し認識にズレがあったみたいでして…」
「そうなんだ。その『認識のズレ』というのは、どんな内容だったか、詳しく教えてもらえる?」
かたまりを見つけて、ほぐす。また次のかたまりを見つけて、丁寧にほぐす。
この繰り返しが、部下の置かれている状況の迅速で正確な理解につながり、的確なアドバイスを可能にします。
部下の言葉は「かたまり」が当たり前
「部下からの第一声は、必ず『かたまり』で返ってくるものだ。そのかたまりを優しくほぐしていくのが、上司である自分の役割だ」
最初からこう考えていれば、部下の曖昧な報告にイライラして、詰問口調になることもなくなるでしょう。
この会話は、単なる状況把握のテクニックではありません。
部下にとっては、自分の頭の中を整理し、課題を客観的に見つめ直す貴重な機会にもなります。
上司に話しているうちに、自分自身で問題の核心や解決策に気づくことさえあるのです。
これこそが、部下の主体性を引き出す「人材育成」の第一歩であり、お互いの状況が手に取るようにわかる、風通しの良い「強いチーム」作りの土台となります。
ぜひ、次回の部下との会話から、「かたまりをほぐす」ことを意識してみてはいかがでしょうか。