顧客が気づかない価値を見つける経営戦略
はじめに:なぜ頑張っても利益が出ないのか
「うちは他社と同じことをやっているのに、なぜか利益が出ない」
「お客さんの要望に応えているのに、値引きばかり求められる」
こんな悩みを抱えている経営者の方は多いのではないでしょうか。
実は、この悩みの根っこには共通の原因があります。
それは「自社だけが提供できる価値」がはっきりしていないことです。
今回は、この問題を解決するための考え方「バリュープロポジション」についてお話しします。
難しそうな横文字ですが、中身はとてもシンプルです。
一言でいえば「お客さんが欲しがっていて、ライバルには出せなくて、自分の会社だけが出せる価値」のことです。
背景:なぜ「同じことをやる」と苦しくなるのか
まず、多くの会社が陥りがちな状況を整理してみましょう。
たとえば、近所に人気のラーメン屋ができたとします。
そのお店が「こってり系」で繁盛していると聞くと、「うちもこってり系を始めよう」と考えるお店が出てきます。
さらに別のお店も「うちも」と追随します。
すると何が起きるでしょうか。
どのお店も似たようなメニューになり、お客さんから見ると「どこで食べても同じ」に見えてしまいます。
そうなると、お客さんが選ぶ基準は「価格」しかなくなります。
結果として、値下げ合戦が始まり、みんなが苦しくなっていく。
これは飲食店に限った話ではありません。
製造業でも、サービス業でも、建設業でも、同じことが起きています。
「他社がやっていることは、うちもやらなければ」という発想が、実は自分の首を絞めているのです。
3つの円で考える「自社だけの価値」
では、どうすれば価格競争から抜け出せるのでしょうか。
ここで役立つのが、3つの円を使った考え方です。
紙に3つの円を描いてみてください。
1つ目の円:「お客さんが望んでいること」
2つ目の円:「ライバル会社が提供できること」
3つ目の円:「自社が提供できること」
この3つの円を重ねてみると、いくつかの領域ができます。
注目すべきは、「お客さんが望んでいて」「ライバルには提供できなくて」「自社だけが提供できる」という3つが重なる部分です。
この小さな領域こそが、あなたの会社だけの「勝負どころ」なのです。
逆に言えば、「お客さんが望んでいて、ライバルも自社も提供できる」という部分で勝負しても、価格競争になるだけです。
ここは思い切って「やらない」という選択肢もあるのです。
「え? 他社がやっていることを、やめちゃっていいんですか?」
はい。お客さんが本当に必要としていないなら、やめてもいいのです。
むしろ、やめることで、本当に大切なことに時間とお金を集中できます。
事例:ある町工場の逆転劇
ここで、ある金属加工の町工場の話をご紹介します。
その会社は従業員8名の小さな工場で、主に大手メーカーの下請けとして部品を作っていました。
しかし、海外の工場との価格競争が激しくなり、受注単価はどんどん下がっていきます。
「このままでは会社がもたない」と社長は頭を抱えていました。
ある日、社長は自社の強みを改めて考えてみることにしました。
「うちは何が得意なんだろう?」
よく考えてみると、自社には「試作品を短納期で作る技術」がありました。
通常なら2週間かかる試作品を、3日で仕上げることができたのです。
これは長年の経験と、職人たちの腕があってこそできることでした。
一方で、大量生産のコストでは海外工場に絶対に勝てません。
そこで社長は思い切った決断をしました。
「大量生産の仕事は断って、試作品専門の会社になろう」
周囲からは「仕事を減らしてどうするんだ」と言われました。
でも社長は続けました。
試作品を急いでいるお客さんはどこにいるか。
それは新製品の開発を急いでいるメーカーです。
彼らにとって、試作品が1週間早くできることは、ライバル会社より1週間早く市場に出られることを意味します。
それは価格では測れない価値があります。
結果、どうなったか。
大量生産の仕事を減らした分、売上は一時的に下がりました。
しかし、「試作品なら、あの会社」という評判が広がり、開発部門を持つメーカーから次々と依頼が来るようになりました。
しかも、「急ぎだから」と言って、価格交渉はほとんどありません。
3年後、売上は以前より少し減りましたが、利益は2倍以上になっていました。
大切なのは「お客さんも気づいていない価値」を見つけること
ここで一つ、大切なことをお伝えします。
「お客さんの声を聞けば、答えがわかる」と思っていませんか?
実は、これは半分正解で、半分間違いです。
お客さんが教えてくれるのは「ヒント」であって、「答え」ではありません。
先ほどの町工場の例でいえば、お客さんは「もっと安くしてほしい」とは言いますが、「試作品を3日で作ってくれる会社を探している」とは言ってくれません。
でも、よく観察すると、開発部門のお客さんはいつも納期を気にしていて、「なんとか早くならないか」と相談してくることが多かった。
つまり、お客さん自身も「自分が本当に何を求めているか」をはっきり言葉にできていないことが多いのです。
だから、お客さんの話をよく聞きながら、「この人が本当に困っていることは何だろう?」「この人が気づいていない、でも喜んでもらえることは何だろう?」と、自分の頭で徹底的に考えることが大切なのです。
「業界が成熟しているから差別化できない」は言い訳
「うちの業界はもう成熟していて、どこも同じようなことをやっている。差別化なんてできない」
こう思っている方もいらっしゃるかもしれません。
でも、本当にそうでしょうか?
たとえば、クリーニング業界。どこも同じように見えますが、「朝出して夕方受け取れる」を売りにするお店、「高級ブランド専門」を売りにするお店、「宅配専門」を売りにするお店、それぞれが違う価値を提供しています。
成熟した業界だからこそ、「みんな同じ」と思い込んでいるお客さんに、「こんな選択肢もありますよ」と提案できるチャンスがあるのです。
「業界が成熟しているから差別化できない」のではなく、「どう差別化するか、まだ考えきれていない」だけかもしれません。
実践のための3つのステップ
最後に、この考え方を実践するための手順を整理しておきます。
ステップ1:お客さんが本当に求めていることを考える
お客さんの言葉をそのまま受け取るのではなく、「なぜそう言うのか」「本当に困っていることは何か」を深掘りしてみてください。
日頃の会話や、クレーム、何気ない相談の中にヒントが隠れています。
ステップ2:ライバル会社ができないことを探す
ライバル会社の強みと弱みを書き出してみましょう。
そして、「ライバルが絶対にマネできないこと」「マネするのに時間がかかること」は何かを考えます。
ステップ3:自社だけの「重なり」を見つける
ステップ1と2を踏まえて、「お客さんが望んでいて、ライバルにはできなくて、自社にはできること」を探します。
それが見つかったら、そこに会社の資源(時間・お金・人)を集中させましょう。

まとめ
今回お伝えしたことを整理します。
自社だけの価値、つまり「バリュープロポジション」とは、「お客さんが望んでいて、ライバルには出せなくて、自社だけが出せる価値」のことです。
この考え方のポイントは3つあります。
お客さんの言葉をそのまま受け取らない
お客さんが教えてくれるのはヒントだけ。
答えは自分の頭で考える。
他社と同じことを追いかけない
他社がやっていることでも、お客さんが本当に必要としていないなら、思い切ってやめる選択肢もある。
小さくても「自社だけ」の領域を作る
その小さな領域こそが、価格競争に巻き込まれない、あなたの会社の「居場所」になる。
「あれもこれも」とお客さんの要望すべてに応えようとすると、結局どこにでもある会社になってしまいます。
「これだけは絶対に負けない」という領域を作ることが、小さな会社が生き残る道なのです。
ぜひ一度、3つの円を紙に描いて、自社の「勝負どころ」を考えてみてください。

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