利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「うちの会社は何のために存在しているのか?」—忙しい毎日の中で立ち止まって考える5つの問い

「うちの会社は何のために存在しているのか?」—忙しい毎日の中で立ち止まって考える5つの問い

中小企業のミッション再定義と環境変化への対応

はじめに—なぜ今、「存在意義」を問い直すのか

「毎日、目の前の仕事をこなすだけで精一杯」
従業員10名前後の会社を経営されている方なら、そう感じることが多いのではないでしょうか。
売上を確保し、従業員の給与を払い、お客様からのクレームに対応し、資金繰りを考える。
気がつけば、あっという間に一日が終わっています。

しかし、そんな忙しい日々の中でふと立ち止まり、「そもそも、うちの会社は何のためにあるのだろう?」と考えてみることには、大きな意味があります。

これは決して哲学的な話ではありません。
むしろ、非常に実践的で、経営の方向性を定めるための「羅針盤」のような役割を果たすものです。

経営学者のピーター・ドラッカーは、組織が健全に成長し続けるために、定期的に自分たちに問いかけるべき質問を整理しました。
今回は、その中でも特に重要な問いかけについて、一緒に考えていきたいと思います。

4つの問いかけ—自社の「軸」を見つめ直す

ドラッカーが提唱した問いかけを、もう少しかみ砕いてご紹介します。

問い1:「私たちは何を実現しようとしているのか?」

これは、会社の「ゴール」や「目指す姿」を確認する問いです。

たとえば、あなたが町の小さなパン屋さんを経営しているとします。
「パンを売ること」がゴールでしょうか? 
もちろん、それも大切です。
しかし、もう一歩踏み込んで考えると、「朝の食卓に幸せな時間を届けること」かもしれませんし、「地域の人が気軽に立ち寄れる場所を作ること」かもしれません。

この「実現したいこと」が明確になると、商品開発やサービスの方向性、さらには従業員の採用基準まで、すべての判断に一貫性が生まれます。

問い2:「私たちの会社の存在理由は何か?」

これは、問い1とも関連しますが、もう少し根本的な問いです。

「なぜ、この会社が世の中に存在しているのか?」

別の言い方をすれば、「もし明日、うちの会社がなくなったら、誰が困るだろうか?」と考えてみることです。

お客様が困るでしょうか。
従業員が困るでしょうか。
地域社会が困るでしょうか。

この問いに答えられると、自社が本当に提供している「価値」が見えてきます。

問い3:「今やっていることは、なぜやっているのか?」

日々の業務に追われていると、「昔からやっているから」「なんとなく続けているから」という理由で続いている仕事があるものです。

この問いは、そうした惰性で続いている仕事を見直すきっかけになります。

「この業務は、私たちの目指す姿に近づくために必要なことだろうか?」

もし答えが「NO」なら、思い切ってやめるか、やり方を変える必要があるかもしれません。

問い4:「私たちは何をもって憶えられたいか?」

これは、いわば「会社の遺言」のような問いです。

将来、お客様や地域の方々に「あの会社といえば〇〇だったよね」と思い出してもらうとしたら、どんな言葉で憶えられたいでしょうか。

「安さで憶えられたい」のか、「品質で憶えられたい」のか、「親切さで憶えられたい」のか。
この答えが、日々の経営判断の基準になります。

事例—町の畳屋さんが見つけた「新しい存在意義」

ここで、ある中小企業の事例をご紹介します。

愛知県にある創業60年の畳店、Aさんの会社です。
従業員は社長を含めて8名。
かつては新築住宅の畳需要で忙しかったものの、フローリングの普及とともに、売上は年々減少していました。

Aさんは「このままでは廃業するしかない」と追い詰められていたとき、ふと立ち止まって考えました。

「うちの会社は、何のために存在しているのだろう?」

畳を売ることが目的だと思っていました。しかし、よくよく考えてみると、お客様が本当に求めているのは「畳」そのものではなく、「畳のある暮らしがもたらす心地よさ」ではないか。
もっと言えば、「日本の住文化を通じた、心安らぐ空間」を提供することが、自分たちの存在意義ではないか。

そう考えたAさんは、事業の方向性を大きく転換しました。

新築住宅向けの畳製造だけでなく、「畳のある暮らし方」を提案する事業を始めたのです。
具体的には、フローリングの上に置くだけの「置き畳」の開発、赤ちゃんやお年寄りにやさしい畳素材の研究、さらには畳を使ったインテリアコーディネートの相談サービスまで展開しました。

また、地元の小学校で「畳の歴史」を教える出張授業を始めたり、外国人観光客向けに畳作り体験を提供したりと、「日本の畳文化を伝える」という新たな役割も担うようになりました。

結果として、売上は以前の水準を回復。何より、従業員のみなさんが「自分たちの仕事には意味がある」と誇りを持って働けるようになったそうです。

Aさんはこう語っています。

「『畳を売る会社』ではなく『畳のある暮らしを届ける会社』と定義し直したことで、できることが一気に広がりました。存在意義を問い直すことは、可能性を広げることでもあるんですね」

新しい問題と機会—変化の中にチャンスがある

さて、自社の存在意義を確認したら、次に目を向けるべきは「外部環境の変化」です。

ドラッカーは、「新しい問題」と「新しい機会」の両面から、環境変化を捉えることを勧めています。

新しい「問題」を見つめる

問題と聞くとネガティブに感じるかもしれませんが、ここでいう「問題」とは、経営環境の変化によって生じる課題のことです。

たとえば、次のような変化があります。

人口の変化

少子高齢化により、若い働き手が減っています。
また、単身世帯や高齢者のみ世帯が増えています。
あなたの会社のお客様層は、この変化にどう影響を受けるでしょうか。

規制の変化

法律や業界ルールの改正により、これまでのやり方が通用しなくなることがあります。
逆に、規制緩和によって新規参入がしやすくなる分野も生まれています。

技術の変化

デジタル化やAIの進歩により、業務のやり方が大きく変わりつつあります。
これまで人の手でやっていたことが自動化される一方で、新しい技術を使いこなせる人材の確保が課題になっています。

競争環境の変化

インターネットの普及により、地域の小さな会社でも全国・海外の競合と戦う場面が増えました。
価格競争に巻き込まれやすくなった業種も少なくありません。

新しい「機会」を探す

一方で、変化は「機会」でもあります。

コラボレーションの機会

異業種との連携や、同業他社との協業など、一社ではできなかったことが、複数の会社が手を組むことで実現できる時代です。

技術活用の機会

かつては大企業しか使えなかった高度な技術やツールが、中小企業でも手軽に使えるようになっています。
たとえば、クラウドサービスやSNSを活用すれば、少ない予算でも効果的な情報発信ができます。

社会的トレンドの機会

環境への配慮、地産地消、働き方改革など、社会全体の関心が高まっているテーマがあります。
自社の事業がこうしたトレンドとつながる部分があれば、それは大きな機会になり得ます。

文化的トレンドの機会

「本物志向」「体験価値」「ストーリー消費」など、消費者の価値観も変化しています。
大量生産・大量消費の時代には埋もれていた、小さな会社ならではの強みが見直される機会でもあります。

先ほどの畳店Aさんの例でいえば、「畳需要の減少」は問題でしたが、「日本文化への関心の高まり」「健康志向」「外国人観光客の増加」は機会でした。
問題だけを見ていたら廃業していたかもしれませんが、機会に目を向けたことで、新たな道が開けたのです。

まとめ—定期的に立ち止まって、問い直す習慣を

今回ご紹介した問いかけは、一度答えを出したら終わりというものではありません。

会社を取り巻く環境は常に変化しています。
お客様のニーズも、社会の価値観も、技術も、競争相手も変わります。
だからこそ、年に一度、あるいは大きな節目のタイミングで、これらの問いに立ち返ることが大切です。

最後に、もう一度、4つの問いを整理しておきます。

1.私たちは何を実現しようとしているのか?
2.私たちの会社の存在理由は何か?
3.今やっていることは、なぜやっているのか?
4.私たちは何をもって憶えられたいか?

そして、外部環境については、

・新しい「問題」は何か?(人口、規制、技術、競争の変化)
・新しい「機会」は何か?(コラボレーション、技術、社会・文化トレンド)

これらの問いに向き合う時間を、ぜひ意識的につくってみてください。
答えは一人で考える必要はありません。
従業員のみなさんや、信頼できる外部の方と一緒に話し合うことで、思わぬ気づきが生まれることもあります。

日々の忙しさの中で、つい見失いがちな「自社の軸」。
その軸を定期的に確認することが、変化の激しい時代を乗り越えていく力になるはずです。

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