利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「おたく」に推されると、売れる時代

「おたく」に推されると、売れる時代

個人の「おすすめ」が売上を変える理由

「〇〇年の歴史」では、もう誰も動かない

少し想像してみてください。

居酒屋の入口に、こんな看板が2枚並んでいます。
「創業50年の老舗が誇る、本格もつ鍋」
「毎月福岡に食べに行く大将が、3年かけて辿り着いた、もつ鍋」

どちらのお店に入ってみたいですか?
おそらくほとんどの方が、後者の「大将が辿り着いた」という言葉に引っかかりを感じるはずです。

「創業50年」という言葉は、長い実績と安定を示しています。
客観的に見れば、こちらのほうが安心感があるようにも思えます。
ところが、実際には逆の効果が起きる。
なぜでしょうか?

理由はシンプルで、「誰が、なぜそうなったか」が見えないからです。

「創業50年」というのは、組織としての年数です。
その間に何があったのか、どんな思いで作り続けているのかが、その言葉からは伝わってきません。
一方、毎月わざわざ福岡まで食べに行き、3年かけて自分の味を作り上げた大将の話には、顔があり、執念があり、ストーリーがある。

これが、現代のマーケティングにおいて非常に重要な「人格の信頼」という考え方です。

なぜ今、「個人の推薦」が強いのか

かつては、大きな会社や有名なブランドが「おすすめ」と言えば、それだけで売れました。
情報が少なく、消費者は「大きな組織=信頼できる」という感覚を持っていたからです。

ところが今は、情報が溢れかえっています。
テレビCMでも、ウェブ広告でも、「おすすめ」という言葉が氾濫しすぎて、もはや誰も信じなくなってしまいました。
広告を見て「これは売りたいから言っているんだろう」と感じる人がほとんどです。

そこで力を持ち始めたのが、「その道のおたく」による推薦です。

「おたく」という言葉には、昔はネガティブなイメージもありましたが、今では「特定の分野に異常なほど詳しい、情熱を持った人」という意味で、むしろポジティブに使われるようになっています。

たとえば、こんな2つの表示を比べてみましょう。
「当ジム推薦のプロテイン10選」
「元マラソン選手・佐藤トレーナーが本気で選んだプロテイン10選」

後者のほうが断然、気になりますよね。
「どんな基準で選んだんだろう」「実際に走ってきた人が選ぶなら間違いないかも」という気持ちになる。
これは居酒屋の例とは全く異なるジャンルですが、同じ心理が働いています。
顔と実績のある人間の言葉には、組織の言葉にはない説得力があるのです。

本屋大賞が教えてくれること

この「おたくの推薦」を、巧みにビジネスに応用した事例があります。
それが「本屋大賞」です。

本屋大賞は、作家や評論家ではなく、「本を売る書店員さんたち」が選ぶ文学賞です。
2004年にスタートしたこの賞は、今では直木賞や芥川賞と並ぶほどの影響力を持つようになりました。

なぜこれほど力があるのか。
それは、書店員さんが「本のおたく」だからです。
毎日何百冊もの本と向き合い、お客さんに手渡してきたプロフェッショナル。
その人たちが「本当に面白い」と思った本を選ぶ。
消費者はその背景を知っているから、「本屋大賞の受賞作」というだけで、「読んでみようか」という気持ちになるのです。

中小企業・個人事業主だからこそ、できること

ここで、「うちは小さな会社だから関係ない」と思った方、少し待ってください。
実はこの「おたくの推薦」という仕組みは、大企業よりも中小企業や個人事業主のほうが活かしやすいのです。

大手チェーンストアは、全国に何百店舗もあり、均一なサービスを提供しなければなりません。
店員の個性を前面に出すことが、逆に難しかったりします。
でも、従業員が10名前後の小さなお店や会社なら、特定の人の顔と名前と情熱を、まるごとお客さんに届けることができます。

具体的な事例を見てみましょう。
ある地方の小さな釣り具店では、長年バス釣りに通い続けるスタッフが、仕入れた商品の中から「自分が実際に使って釣れたルアー」だけを手書きのカードで紹介しはじめました。
「釣り歴20年・中村が今月実釣で使ったルアー3本」というスタイルです。

最初は常連客への話のタネくらいのつもりでしたが、やがてそのカードを目当てに来店するお客さんが現れるようになりました。
「中村さんのカードがついてるルアーは外れがない」という口コミが広がり、近隣の釣り具量販店には置いていない商品でも、そのカードがついているだけで飛ぶように売れるようになったといいます。
価格でも品揃えでも大型店に勝てない中で、「中村さんという人の信頼」が、店そのものの価値になっていったのです。

自社の「おたく」を前に出す3つの方法

では、この考え方を自分のビジネスに取り入れるには、どうすればいいでしょうか。

社内の「詳しい人」を発掘する

どんな小さな会社にも、特定のことに人一倍詳しい人がいます。
それはあなた自身かもしれませんし、長年勤めているスタッフかもしれません。
その人が持つ知識や情熱を、まず言語化することから始めましょう。
「〇〇なら誰にも負けない」という強みを持つ人を、積極的に表に出していく意識が大切です。

「推薦」に顔と名前をつける

商品紹介や、ホームページの記事、SNSの投稿において、「当社おすすめ」という表現を「〇〇担当の△△が選んだ」に変えてみてください。
たったこれだけで、読む人の受け取り方が大きく変わります。
顔写真を添えられれば、さらに効果的です。
人は「顔が見える情報」に、自然と親しみと信頼を感じるものです。

「なぜ好きなのか」を語らせる

おたくの推薦が信頼されるのは、その熱量と理由が伝わるからです。
「おすすめです」という一言より、「私がこれを好きな理由は〇〇で、特に△△な方には絶対に響くと思います」という言葉のほうが、はるかに心を動かします。推薦する人自身の言葉で、情熱を語ることを大切にしてください。

まとめ:「大きさ」ではなく「深さ」で勝負する時代

「創業50年の老舗」より「3年かけて辿り着いた大将の味」のほうが刺さる。
「当ジム推薦」より「元マラソン選手の推薦」のほうが響く。
「釣り具店のおすすめ」より「釣り歴20年の中村さんのおすすめ」のほうが売れる。

この3つの例に共通しているのは、「組織の声」より「人の声」が信頼されるという現代の消費者心理です。

企業の規模や知名度で信頼を得ることが難しくなった今、人々が求めているのは「誰かの顔が見える言葉」です。
広く浅く届けようとする大企業のアプローチに対抗するには、一点に深く刺さるおたくの熱量が最大の武器になります。

幸いなことに、中小企業や個人事業主には、顔の見えるコミュニケーションができるという大きな強みがあります。
あなたの会社の中にいる「おたく」を見つけ、その人の言葉を前に出してみてください。
お客さんは、組織の声よりも、人の声に動かされます。

「当社おすすめ」という言葉を、今日から「〇〇の推薦」に変えることが、最初の一歩です。

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