利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「お金を払わなくても協力してくれる時代」に経営者が知っておくべきこと

「お金を払わなくても協力してくれる時代」に経営者が知っておくべきこと

やる意味を感じる仕事が人を動かす

変わりゆく「働く」と「参加する」の境界線

かつて、会社のチラシを作るにも、ホームページの写真を編集するにも、必ず専門の業者に依頼する必要がありました。
デザイン会社に数万円を支払い、数週間待って納品される―それが当たり前の時代でした。

ところが、ここ10年ほどで状況は大きく変わりました。
今では「私がやりたいです」と自ら手を挙げて、無償で会社の活動に協力してくれる人が現れるようになったのです。
これは単なるボランティア精神とは少し違います。
もっと根本的な、人々の「働くこと」に対する価値観の変化が背景にあります。

なぜ「お金を払わなくても」協力してくれるのか

環境の変化が生んだ新しい参加のかたち

この変化を支えているのは、まず技術の進歩です。
今では誰もがスマートフォンを持ち、無料や安価なアプリで写真加工も動画編集もできるようになりました。
少し前まではプロの道具だったものが、今では電車の中でも使えるほど身近になったのです。

さらに重要なのは、こうした活動に「強制されて」参加しているわけではないという点です。
昔の工場労働のように、決められた時間に決められた場所で働かされているのではありません。
本業の合間に、自分の好きな時間に、趣味のように楽しみながら参加できる―そんな新しい「参加のかたち」が生まれたのです。

新しい価値観を持つ世代が求めるもの

ここで注目したいのが、最近の働き手、特に20代から40代の人々が仕事に求めるものの変化です。

この世代の特徴は、高度経済成長期のように「とにかく稼いで、出世して、成功したい」という一本道の価値観とは違う生き方を求めているという点です。
もちろんお金も大切ですが、それだけではない、もっと多様な充実感を仕事に求めているのです。

この世代が仕事に求めるのは、大きく分けて3つあります。

1つ目は「良好な人間関係」です。

一緒に働く人が好きで、信頼できて、楽しく過ごせるかどうか。
給料が少し高くても、人間関係がギスギスした職場は避けたいと考える人が増えています。

2つ目は「意味合い」です。

自分がやっている仕事が、誰かの役に立っているのか。
社会に良い影響を与えているのか。
そういった「やる意味」を感じられるかどうかが重要なのです。

3つ目は「没頭」です。

時間を忘れて夢中になれるか。
自分の能力を発揮できているという実感があるか。
こうした「フロー状態」と呼ばれる体験を求めています。

興味深いのは、この3つが揃えば、たとえお金をもらわなくても、その活動自体が「楽しい遊び」であり「幸福な時間」になる、ということです。
つまり、報酬としてのお金よりも、活動そのものの質が重視されるようになったのです。

実際の経営現場で起きていること

ある雑貨店の事例

東京近郊で小さな雑貨店を営むAさん(40代女性)の例を紹介しましょう。

Aさんのお店では、月に1回、店内でワークショップを開催しています。
お客さん同士が手作りアクセサリーを作ったり、お茶を飲みながら趣味の話をしたりする場です。

当初、Aさんはこのイベントの告知チラシを作るのに苦労していました。
デザインの外注は予算的に厳しく、自分で作ろうにもセンスに自信がない―そんな悩みを抱えていたのです。

ところがある日、常連客の一人が「私、デザインが好きなので、チラシ作りを手伝いたいです」と申し出てくれました。
その方は普段は事務職をしているのですが、学生時代にデザインを学んでいて、週末に趣味で作品を作っているとのことでした。

Aさんは当然、報酬を支払おうと考えました。
しかしその方は「お店の雰囲気が好きで、ここに集まる人たちと繋がれるのが嬉しいんです。お金よりも、自分の作ったものが実際に使われて、誰かが喜んでくれることの方が嬉しいです」と言って、無償での協力を申し出たのです。

今では、その方を含めて3人の常連客が、チラシ作り、SNSの写真撮影、イベントの受付などを自主的に手伝ってくれています。
彼女たちは「お店のファン」であると同時に、「創る側の一員」でもあるのです。

この事例から見えてくるもの

Aさんの雑貨店で起きたことは、まさに「良好な人間関係」「意味合い」「没頭」の3つが揃った状態です。

好きなお店で、気の合う仲間と一緒に活動し、自分の得意なことで貢献できる。
そして、その成果が実際に使われて、喜ばれる―こうした体験は、単なるアルバイトよりもずっと充実感があるのです。

重要なのは、Aさんがこの関係を「搾取」ではなく「共創」として築いた点です。
手伝ってくれる人たちに感謝を伝え、その貢献を店内やSNSで紹介し、時にはちょっとしたプレゼントを渡す。
お金という対価ではなく、感謝と尊重、そして一緒に何かを作り上げる喜びを共有しているのです。

経営者として、この変化をどう活かすか

コミュニティを育てる視点を持つ

これからの経営では、「お客様」を超えた関係性を築くことが重要になります。
商品やサービスを提供する相手ではなく、一緒に価値を作る仲間として捉える視点です。

あなたの会社やお店のファンの中には、きっと「もっと深く関わりたい」「自分も貢献したい」と思っている人がいます。
そうした人たちが参加できる場や機会を用意することで、単なる顧客関係を超えたコミュニティが生まれます。

「参加する楽しさ」を設計する

ただし、ここで注意が必要です。
「無料で働いてもらえる」という発想で人を集めようとすると、必ず失敗します。

大切なのは、参加する人が「楽しい」「意味がある」「自分が成長できる」と感じられる環境を作ることです。

そのためには

・活動の目的や意義を明確に伝える
・参加者の自主性を尊重し、押し付けない
・貢献に対して感謝を表現する
・成果を共有し、達成感を味わえるようにする
・参加者同士の交流を促進する

こうした配慮があってこそ、健全で持続的な「参加型の経営」が可能になります。

小さく始めて、丁寧に育てる

いきなり大きな仕組みを作ろうとする必要はありません。
まずは、既存のお客様や取引先との関係を少し深めることから始めてみてください。

例えば

・商品開発のアイデアを募集する
・イベントの企画を一緒に考える
・SNSでの情報発信を手伝ってもらう
・新サービスのモニターになってもらう

こうした小さな「参加の機会」を作り、丁寧に関係を育てていくことで、自然とコミュニティが形成されていきます。

時代の変化を味方につける

かつて「外注すれば数万円かかった作業」が「ファンが楽しみながら協力してくれる活動」に変わる―これは単なるコスト削減の話ではありません。

もっと本質的には、人々の働き方や生き方の価値観が変わり、「お金をもらう仕事」と「やりがいを感じる活動」の境界線が曖昧になってきた、という大きな時代の流れなのです。

この変化は、資金的な余裕が少ない中小企業や個人事業主にとって、実は大きなチャンスでもあります。
大企業のように高い給料は出せなくても、「意味のある仕事」「良好な関係性」「没頭できる環境」は提供できるからです。

ただし、繰り返しになりますが、この関係を「安く使える労働力」として捉えてしまうと、すぐに見透かされて信頼を失います。
あくまでも、共に価値を創る仲間として、敬意と感謝を持って接することが何よりも大切です。

おわりに

技術の進歩と価値観の変化が重なり、「無償でも協力したい」と思える環境があれば、人は自ら参加してくれる時代になりました。

これは経営者にとって、新しい可能性であると同時に、新しい責任でもあります。
参加してくれる人たちの善意や情熱を大切にし、彼らにとっても価値のある体験を提供できるか―それが問われているのです。

あなたの会社やお店の周りにも、きっと「もっと関わりたい」と思っている人がいます。
その思いを受け止め、一緒に何かを作り上げる喜びを分かち合う。
そんな経営のあり方が、これからの時代には求められているのではないでしょうか。

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