顧客ターゲットの「ちょうど良いサイズ」の見つけ方
はじめに:なぜ「お客様を絞る」ことが大切なのか
「うちの商品は、誰にでも喜んでもらえます」
こうおっしゃる経営者の方は少なくありません。
しかし、実はこの考え方には大きな落とし穴があります。
「誰にでも向いている」は、裏を返せば「誰にも特別に響かない」ということでもあるからです。
限られた経営資源(人、お金、時間)しか持たない中小企業や個人事業にとって、「誰に売るか」を明確にすることは、事業の成否を分ける重要な決断です。
この「誰に売るか」を決めるための考え方が、今回お話しする「セグメンテーション」です。
セグメンテーションとは、市場(お客様になりうる人々)をいくつかのグループに分けることを指します。
年齢、性別、住んでいる地域、趣味、仕事、収入など、さまざまな切り口で分けることができます。
ただし、この「分け方」には大切なコツがあります。
細かく分けすぎても、大雑把すぎても、うまくいきません。
今回は、この「ちょうど良い分け方」について、一緒に考えていきましょう。
細かく分けすぎると、どうなるか
セグメンテーションでは、分け方の軸を増やしたり、刻み幅を小さくしたりすることで、対象をいくらでも細かく分けることができます。
たとえば、年齢で分ける場合を考えてみましょう。
10歳刻み(20代、30代、40代…)で分けていたものを5歳刻み(25〜29歳、30〜34歳…)にすれば、グループの数は2倍になります。
地域で分ける場合も同様です。
都道府県別(47通り)で分けていたものを市区町村別(約1,741通り)にすれば、グループの数は37倍にも膨れ上がります。
さらに、「年齢」と「地域」と「性別」を組み合わせれば、グループの数は掛け算で増えていきます。
一見すると、細かく分ければ分けるほど、お客様一人ひとりにピッタリ合った商品やサービスを届けられるように思えます。
しかし、ここに大きな問題があります。
グループを細かくすればするほど、一つのグループに入るお客様の数は少なくなります。
お客様の数が少なければ、そこから得られる売上も当然小さくなります。
一方で、細かく分けたグループそれぞれに対応しようとすると、商品の種類を増やしたり、宣伝の方法を変えたり、営業の仕方を変えたりする必要があります。つまり、コストはどんどん上がっていくのです。
売上は小さく、コストは大きい。
これでは、よほど高い価格を設定しないと、商売として成り立ちません。
たとえるなら、お弁当屋さんが「塩分控えめで、辛いものが好きで、卵アレルギーがあって、ご飯は玄米がいい30代男性向け」のお弁当を作るようなものです。
確かにその条件にピッタリ合う人には喜ばれるかもしれませんが、該当するお客様はごくわずか。
それなのに、そのお弁当を作るための手間は大きく増えてしまいます。
大きすぎるグループも、うまくいかない
では、細かく分けすぎるのがダメなら、大きなグループにすればいいのでしょうか。
残念ながら、これもうまくいきません。
グループを大きくしすぎると、さまざまな好みや事情を持つ人々が一緒くたになってしまい、結局「誰にもフィットしない」商品やサービスを提供することになってしまうからです。
【事例:「働く女性向け」をうたったフィットネスジムの苦戦】
ある地方都市で、「働く女性のためのフィットネスジム」をオープンした経営者がいました。
「働く女性」という大きなくくりでターゲットを設定し、仕事帰りに立ち寄りやすい駅前に店舗を構えました。
しかし、オープンしてみると、思うように会員が集まりません。
よく考えてみると、「働く女性」と言っても、実に多様な人々が含まれています。
20代の独身女性は、ダイエットや体型維持に関心があり、夜遅くまで通いたいと考えています。
仕事終わりに友達と一緒に来ることも多く、おしゃれな雰囲気を求めます。
30代の子育て中の女性は、限られた時間で効率よく運動したいと考えています。
託児サービスがあるかどうかが重要で、通える時間帯は平日の昼間に限られることも多いです。
40代以上の女性は、健康維持や肩こり・腰痛の改善を目的としていることが多く、激しい運動よりも、ゆったりとしたプログラムを好む傾向があります。
このジムは、これらすべての層に対応しようとした結果、どの層にも「ここは自分のための場所だ」と感じてもらえませんでした。
設備もプログラムも中途半端になり、「なんとなく物足りない」という評価に終わってしまったのです。
結局、このジムは方針を転換し、「40代以上の女性の健康づくり」に特化することにしました。
ゆったりとしたストレッチプログラムを充実させ、血圧測定や健康相談ができるコーナーを設け、インストラクターも同年代の女性を中心に採用しました。
すると、「ここなら自分も気後れせずに通える」「同じ悩みを持つ仲間がいる」と、口コミで評判が広がり、会員数は着実に増えていきました。
「ちょうど良い大きさ」を見つける
ここまでの話をまとめると、セグメンテーションには「ちょうど良い大きさ」があるということがお分かりいただけると思います。
細かすぎれば、売上が小さくコストが大きくなる。
大きすぎれば、誰にも響かない中途半端な商品・サービスになってしまう。
このバランスを見極めることを、世界的な経営コンサルティング会社であるBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)は「戦略的セグメンテーション」と呼びました。
では、「ちょうど良い大きさ」とは、具体的にどのくらいなのでしょうか。
残念ながら、「このサイズが正解」という万能の答えはありません。
業種や商品、地域によって異なります。
ただし、判断の目安となる考え方はあります。
目安その1:自社の経営資源で対応できる範囲か
せっかくターゲットを絞っても、そのお客様に届けるための人手や資金、時間がなければ意味がありません。
「このグループのお客様なら、自分たちの力で十分にサービスを届けられる」と思える範囲に収めることが大切です。
目安その2:そのグループのお客様に「自分のことだ」と感じてもらえるか
ターゲットを設定したら、「〇〇な方のための商品です」と説明してみてください。
それを聞いたお客様が「あ、それは私のことだ」と感じられるかどうか。
感じてもらえないほど大きなくくりでは、効果が薄れてしまいます。
目安その3:そのグループだけで、事業として成り立つ売上が見込めるか
いくらピッタリのターゲットでも、そこから得られる売上で事業を継続できなければ本末転倒です。
「このグループのお客様が、これくらいの頻度で、これくらいの金額を使ってくれれば、事業として成り立つ」という計算が合うかどうかを確認しましょう。
ターゲットが曖昧だと、組織は迷走する
ターゲットを明確にすることは、商品開発や宣伝だけでなく、組織を動かすうえでも極めて重要です。
ターゲットが曖昧なまま「とにかく売ってこい!」と号令をかけても、営業担当者は困ってしまいます。
攻め先がわからなければ、どこかで時間をつぶすか、行きやすい馴染みの取引先ばかり回るか、最悪の場合は「この会社では成果を出せない」と感じて辞めてしまうかもしれません。
逆に、ターゲットが明確であれば、営業担当者は迷いなく動けます。
「うちのお客様は、〇〇な課題を抱えている〇〇な方々だ」とわかっていれば、どこに行けばそういう方に出会えるか、どんな話をすればいいか、自分で考えて行動できるようになります。
ターゲットを見定め、組織全体をそこへ向かわせること。
これこそが、事業経営の第一歩なのです。

まとめ:「誰に届けるか」を決めることから始めよう
今回のポイントを整理します。
セグメンテーションとは、お客様をいくつかのグループに分ける考え方です。
細かく分けすぎると、売上が小さくなりコストが増えてしまいます。
かといって大きくしすぎると、誰にも響かない中途半端なものになってしまいます。
切なのは、自社の力で対応でき、お客様に「自分のことだ」と感じてもらえ、事業として成り立つ「ちょうど良い大きさ」を見つけることです。
「うちは小さな会社だから、お客様を選んでいる余裕はない」と思われるかもしれません。
しかし、実は逆です。
小さな会社だからこそ、限られた資源を集中させるために、お客様を絞る必要があるのです。
大企業は、たくさんの人手とお金を使って、幅広いお客様に対応できます。
でも、中小企業や個人事業がそれを真似しようとしても、体力が持ちません。
「誰に届けるか」を明確にし、その方々に全力で向き合う。
それが、中小企業ならではの強みを発揮する道なのです。
まずは、「自分たちのお客様は、どんな人だろう」と、具体的に思い描くところから始めてみてください。

コメント Comments
コメント一覧
コメントはありません。
トラックバックURL
https://wakaruto.jp/%e3%80%8c%e3%81%a1%e3%82%87%e3%81%86%e3%81%a9%e8%89%af%e3%81%84%e3%81%8a%e5%ae%a2%e6%a7%98%e3%81%ae%e7%b5%9e%e3%82%8a%e6%96%b9%e3%80%8d%e3%82%92%e7%9f%a5%e3%81%a3%e3%81%a6%e3%81%84%e3%81%be%e3%81%99/trackback/