目的を深掘りして経営の視座を高める
はじめに―「やり方」の議論に追われていませんか?
「売上が落ちてきたから、とにかく新規営業を増やそう」
「スタッフが定着しないから、給料を上げよう」
「SNSが流行っているから、Instagramを始めよう」
こうした判断、じつは多くの経営者が日々繰り返しています。
どれも間違いではありません。
でも、少し立ち止まって考えてみてください。
その「やること」は、本当に自分が目指したい姿につながっているでしょうか?
今回お伝えするのは、「なぜ(何のために)それをするのか?」をもう一段、二段深く掘り下げることで、経営の視界が劇的に広がるという考え方です。
難しい理論ではありません。
むしろ、シンプルで強力な思考の”くせ”を一つ身につけるだけです。
背景―「手段」と「目的」が入れ替わる落とし穴
人は忙しくなればなるほど、「とにかく動くこと」に意識が向きがちです。
特に小さな組織では、経営者自身が現場にも出ながら判断も下さなければならないため、「目の前の問題をどう解決するか」「何をするか」ばかりを考えてしまいます。
これは心理学的にも自然な反応で、「具体的な行動を考えると安心する」という人間の本能的な傾向です。
しかし、ここに落とし穴があります。
気づかないうちに、「手段」が「目的」に化けてしまうのです。
たとえば、「チラシを配る」という手段を取り始めると、いつの間にか「チラシをどう配るか」の話ばかりになり、「そもそも何のためにチラシを配っているのか」を問わなくなります。
本来の目的—たとえば「地域のお客様に存在を知ってもらい、信頼関係を築くこと」—が薄れてしまうのです。
このように、「やること」レベルの議論だけで止まってしまうと、視野が狭くなり、本来あるはずの選択肢が見えなくなってしまいます。
核心―「ありたい姿」までさかのぼる
大切なことは、「なぜ(何のために)それをするのか?」について、「どうありたいか」までさかのぼって考えることです。
「やること」の上には「なぜやるのか」があり、さらにその上に「どうありたいか」があります。
たとえば、「残業を減らしたい」「無駄な作業をなくしたい」というのは、まだ「やること」レベルの話です。
そこで止まらずに、「そうなったとき、自分たちはどんな状態でいたいのか?」「そもそも何のために、この仕事をしているのか?」と、もう一歩、二歩、根っこの方へ掘り下げてみてください。
木の枝を見ているうちは、枝ぶりのことしか考えられません。
でも根っこまで目を向けたとき、初めて「この木をどう育てたいのか」という本質が見えてきます。
「なぜ、何のために」という問いを深めることで、それまで気づかなかった選択肢が、自然と視界に入ってくるのです。
「やり方」の次元から「ありかた」の次元へと思考を引き上げることができれば、視野はおのずと広くなります。
霧の中で地図を見ていたのが、丘の上に登って周囲を見渡せるようになる—そんな感覚です。
選択肢もその組み合わせも、ぐっと豊かに広がっていきます。
事例―地元の小さなパン屋さんの話
イメージを具体的にするために、ある小さなパン屋さんの事例を紹介します。
静岡県内で10年以上、家族3人で営んできたパン屋さんがありました。
最近、売上が伸び悩んでいて、オーナーが出した答えは「SNSでPRを強化しよう」というものでした。
Instagramに力を入れ、映える写真を毎日投稿する。
確かに反応は少し増えました。
でも、売上にはほとんど結びつきませんでした。
そこでオーナーは、一度立ち止まって「本質的な問い」を自分に問いかけてみることにしました。
「なぜSNSを強化したいの?」
→ 「お客さんを増やしたいから」
「なぜお客さんを増やしたいの?」
→ 「売上を上げて、お店を続けていきたいから」
「なぜお店を続けたいの?」
→ 「この地域のお客様に、毎朝焼きたてのパンで笑顔になってもらいたいから。地域の”朝の風景”の一部でありたいから」
ここまでさかのぼって初めて、「ありたい姿」が見えてきました。
それは「地域の人たちの暮らしに溶け込んだ、なくてはならない存在であること」です。
すると、選択肢ががらりと変わりました。
・近所の高齢者施設に週2回、焼きたてパンを届けるサービスを始める
・地元の小学校の食育イベントにパン作り体験を提供する
・常連のお客様向けに「朝の定期便」サブスクリプションを提案する
SNSの投稿を頑張るよりも、これらの取り組みの方がずっと「ありたい姿」に直結していました。
実際にオーナーがこれらを実践すると、口コミが自然に広がり、「あのパン屋さん、いいよね」という評判が地域に根付いていったそうです。
「何をするか」の話からスタートしていたら、こうした発想は生まれなかったかもしれません。
「どうありたいか」から逆算したからこそ、本当に意味のある選択肢が見えてきたのです。

まとめ―「ありたい姿」が経営の羅針盤になる
経営の現場では、毎日のように「何をするか」の判断が迫られます。
そのスピード感の中で、「なぜそれをするのか」を深く問うのは、一見すると遠回りに感じるかもしれません。
でも実は、逆です。
「ありたい姿」を明確にしておくことは、迷ったときの羅針盤になります。
あれもこれも試して空回りするより、「自分たちはどうありたいか」という軸を持っていることで、判断がぶれにくくなり、行動の一つひとつに意味が宿ります。
今日からできる、シンプルな一つの習慣をお伝えします。
何か新しい施策や行動を考えたとき、「なぜこれをするのか?」を少なくとも3回、自分に問いかけてみてください。
1回目の答えはたいてい「手段」です。
2回目でようやく「目的」が見えてきます。
3回目でやっと「ありたい姿」に近づきます。
この「3回の問いかけ」を習慣にするだけで、あなたの経営の視座は確実に高くなります。
霧の中を手探りで進んでいたのが、丘の上に登って周囲を見渡せるようになる—そんな感覚で、新しい景色がきっと広がってくるはずです。
小さな組織だからこそ、この思考の深さが強みになります。
大企業には真似できない、オーナーだからこそできる「ありたい姿からの経営」—ぜひ、あなた自身の「本質的な問い」を見つけてみてください。
「やること」の前に、「ありかた」を問う。その一手間が、経営を大きく変えるきっかけになります。
