大目的思考で経営判断を深める
はじめに:毎日の判断、その「目的」を意識していますか?
経営者として、日々さまざまな判断を下していらっしゃることと思います。
「新しい設備を入れよう」「ホームページを作り直そう」「採用を増やそう」―こうした決断の一つひとつが、会社の未来を形づくっていきます。
ところで、そうした判断をするとき、「なぜそれをやるのか」をどこまで深く考えていらっしゃるでしょうか。
「売上を上げたいから」「人手が足りないから」といった理由は、もちろん大切です。
しかし、そこでもう一歩踏み込んで、「では、売上が上がったら何を実現したいのか」「人が増えたら、会社をどんな状態にしたいのか」まで考えると、見える景色がガラリと変わることがあります。
今回は、この「もう一段深く考える」という思考法についてお話しします。
難しい経営理論ではありません。
日常の中で誰でも実践できる、シンプルだけれど強力な考え方です。
思考の3つのレベル:「手段」「目的」、そして「大目的」
私たちが何かに取り組むとき、頭の中では大きく3つのレベルで考えていると言われています。
1つ目は「手段」のレベル
「何をやるか」「どうやるか」という、具体的な行動ややり方のことです。
たとえば「チラシを配る」「ホームページを作る」「新しいスタッフを採用する」といったものがこれにあたります。
目に見えやすく、すぐに取りかかれるので、私たちはここに意識が向きがちです。
2つ目は「目的」のレベル
「なぜそれをやるのか」という、直接的な理由です。
「チラシを配るのは、新規のお客様を増やしたいから」「ホームページを作るのは、会社の信頼感を高めたいから」といった具合です。
3つ目は「大目的」のレベル
これは、目的をさらにさかのぼった先にある「そもそも、どうありたいのか」という根本的な理想像です。
「新規のお客様を増やして、最終的にどんな会社にしたいのか」「信頼感を高めて、お客様とどんな関係を築きたいのか」―こうした、より大きな「ありたい姿」のことを指します。
この3つのレベルは、ピラミッドのような形をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。
一番下に「手段」、その上に「目的」、そして頂上に「大目的」があります。
なぜ「大目的」まで考える必要があるのか
正直なところ、私たちは普段、下の2つのレベル―「手段」と「目的」―の範囲で考えていることがほとんどです。
いえ、もっと言えば、一番下の「手段」だけで頭がいっぱいになっていることも多いのではないでしょうか。
これは決して悪いことではありません。
日々の仕事を回していくには、具体的な「やること」に集中する必要があるからです。
しかし、本質的な問題を解決したいとき、あるいは新しい発想が欲しいときには、「大目的」まで思考を引き上げることが大きな力を発揮します。
なぜなら、大目的までさかのぼることで、「今やろうとしていることは、本当に正しい手段なのか」を客観的に見直せるからです。
また、一つの方法にこだわらず、別のやり方や組み合わせも見えてきます。
大切なのは、いったん大目的まで上がってから、もう一度「手段」に下りてくるという「逆U字」の思考プロセスです。
上がるだけでも、下にいるだけでもなく、行ったり来たりすることで、より良い判断ができるようになります。
事例で考える:「求人を出したい」の裏にあるもの
ここで、中小企業でよくある場面を例に考えてみましょう。
ある製造業の会社で、社長がこうおっしゃいました。
「現場が忙しくて回らない。とにかく人を採用したい」
これは「手段」のレベルです。
「採用する」という具体的な行動ですね。
では、「目的」は何でしょうか。
聞いてみると、「納期に遅れが出始めていて、お客様に迷惑をかけているから」とのこと。
なるほど、直接的な目的は「納期を守ること」です。
ここで多くの場合、すぐに求人広告を出す、人材紹介会社に連絡する、といった行動に移ります。
もちろん、それも一つの正解です。
しかし、もう一歩踏み込んで「大目的」を考えてみましょう。
「納期を守ることで、最終的にどんな状態を実現したいのですか?」と問いかけてみます。
社長は少し考えて、こう答えました。
「うちは小さい会社だけど、『あそこに頼めば絶対に間に合う』という信頼で選ばれてきた。その信頼を守りたい。それがうちの存在価値だから」
これが大目的です。
「信頼される会社であり続けたい」という、この会社の根本的な「ありたい姿」が見えてきました。
さて、ここまで分かると、選択肢が広がります。
「信頼を守る」という目的を達成する方法は、人を採用することだけではありません。
たとえば、受注の段階でより正確な納期を提示する仕組みを作る。
あるいは、協力会社とのネットワークを強化して、繁忙期に助け合える体制を整える。
場合によっては、利益率の低い仕事を整理して、大切なお客様に集中する、という判断もあり得ます。
採用活動を進めるにしても、「ただ人手が欲しい」ではなく、「お客様との信頼を一緒に守ってくれる人が欲しい」という軸が明確になります。
面接での質問も変わってくるでしょうし、入社後の育て方も変わってくるはずです。
このように、大目的までさかのぼることで、当初は「人を採用する」一択だった選択肢が、いくつもの可能性へと広がっていくのです。
日常の仕事でも使える「さかのぼり思考」
この考え方は、大きな経営判断だけでなく、日々の仕事の中でも活かせます。
お客様から「○○が欲しい」と言われたとき。上司や取引先から「○○という資料を作ってほしい」と頼まれたとき。
言われたとおりに動くことももちろん大切ですが、少しだけ立ち止まって考えてみてください。
「なぜそれが欲しいのだろう」「その資料で、何を達成したいのだろう」「最終的に、どんな状態になれば成功なのだろう」
こうした問いを自分の中で持つだけで、仕事の質は変わります。
たとえば、「見積書を作ってほしい」と頼まれたとします。
言われたとおりに数字を並べることもできますが、「この見積書で、お客様にどんな判断をしてもらいたいのか」まで考えれば、載せる情報や見せ方も変わってくるでしょう。
「大目的」を常に意識している人は、同じ作業をしていても、出てくる成果が違います。
それは、表面的な「やり方」だけでなく、その奥にある「ありたい姿」を見ているからです。

まとめ:「そもそも、どうありたいのか」を問い続ける
今回お伝えしたかったことは、とてもシンプルです。
何かを決めるとき、何かに取り組むとき、「これは手段のレベルで考えていないか?」と、まず疑ってみること。
そして、「なぜ?」「その先に何を実現したいのか?」と、思考を上へ上へと引き上げてみること。
大目的までたどり着いたら、今度はそこから下りてきて、改めて「では、何をすべきか」「どうやるべきか」を考え直す。
この「逆U字」の思考プロセスが、より本質的な判断につながります。
もちろん、毎回すべての判断でここまで深く考える必要はありません。
日常のルーティンまで一つひとつ立ち止まっていたら、仕事が回らなくなってしまいます。
しかし、大きな投資を決めるとき、新しいことに挑戦するとき、あるいは何か行き詰まりを感じているとき。
そんなときこそ、「そもそも、自分は(うちの会社は)どうありたいのか」という問いに立ち返ってみてください。
その問いの先に、思いもよらなかった選択肢や、本当に大切にすべきことが見えてくるはずです。

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