利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「何をやるか」より「誰とやるか」―経営を立て直すたったひとつの原則

「何をやるか」より「誰とやるか」―経営を立て直すたったひとつの原則

企業の再建は「人選び」から始まる

はじめに:マイクロソフト復活の本当の理由

2014年、マイクロソフトは「過去の会社」になりかけていました。
パソコンの時代をつくった巨大企業が、スマートフォンやクラウドの波に乗り遅れ、株価は長年低迷。
社内では部署同士が足を引っ張り合い、「隣のチームを出し抜くこと」にエネルギーが費やされる、いわゆる「社内政治」が蔓延していたのです。

そこに第3代CEOとして就任したのが、サティア・ナデラでした。

多くの人は、ナデラが最初にやったことは「クラウド事業への大転換」だと思っています。
たしかにその戦略は大成功を収めました。
しかし、ナデラ自身が真っ先に取り組んだのは、製品でも技術でもありません。「人」と「文化」を変えることでした。

ナデラが打ち出したメッセージは明快です。
「”何でも知っている人(Know-it-all)”の集まりから、”何でも学ぶ人(Learn-it-all)”の集まりに変わろう」。

それまでのマイクロソフトでは、「自分が一番賢い」と証明することが評価される風土がありました。
ナデラはそれを根本から変え、「好奇心を持って学び続ける人」「他者に共感できる人」が活躍できる文化をつくったのです。

注目すべきは、クラウド事業への転換という戦略が成功したのは、この文化の変革があったからこそだということです。
「学ぶ姿勢」を持った社員たちが、過去の成功体験にしがみつかず、新しい分野に果敢に挑戦できた。
正しい人材が正しい文化のもとで働く状態があってはじめて、戦略が力を発揮したのです。

就任から約10年で、マイクロソフトの企業価値は約10倍に成長しました。

背景:「まず人を選ぶ」原則とは

この「人が先、戦略はあと」という考え方は、経営学者ジム・コリンズが四半世紀以上にわたる研究の末にたどり着いた結論でもあります。
コリンズは、普通の会社から偉大な会社へと変わった企業に共通する法則を調べ上げ、こう述べています。

「あらゆる事業活動のなかで、正しい人材をバスに乗せること以上に重要なものはない」

「バスに乗せる」という表現は、会社を一台のバスに見立てたたとえです。
まず「どこへ行くか(事業の方向性)」を決めてから人を集めるのではなく、「一緒に旅をしたい仲間」を先にバスに乗せる。
行き先は、そのあと一緒に考えればいい―という発想です。

これは直感に反するかもしれません。
普通は「まず戦略を決めて、それに合う人を採用する」と考えるからです。
しかしコリンズの研究は、逆のアプローチが正しいことを示しています。

なぜでしょうか。理由はシンプルです。
事業環境は常に変わるからです。

どんなに優れた戦略も、市場の変化や競合の出現で見直しを迫られます。
そのとき、会社の価値観を共有し、自ら考え動ける「正しい人材」がいれば、新しい戦略を一緒に生み出せます。
逆に、特定の戦略にだけ合う人しかいなければ、方向転換のたびに組織が揺らぎます。

料理に例えるなら、レシピ(戦略)が変わっても、「おいしい料理を届けたい」という情熱と基礎力を持つ料理人がいれば、どんなメニューにも対応できます。しかし、一つの料理しか作れない人ばかり集めてしまうと、メニューを変えるたびに厨房が混乱するのです。

事例:星野リゾートの「人が先」の経営

この原則を体現している日本の事例として、星野リゾートが挙げられます。

星野佳路社長が家業の旅館を引き継いだとき、経営は厳しい状況にありました。
多くの経営者なら、まず「どんなホテルにするか」「どの客層を狙うか」といった戦略から手をつけるでしょう。

しかし星野社長が重視したのは、「フラットな組織文化」と「自分で考えるスタッフ」を育てることでした。
上からの指示で動くのではなく、現場のスタッフ一人ひとりが「お客様にどんな体験を届けたいか」を自ら考え、提案し、実行する組織をつくったのです。

その結果、星野リゾートは温泉旅館の再生にとどまらず、ラグジュアリーリゾート「星のや」、カジュアルな「BEB」、さらには海外展開と、次々に新しい業態を生み出していきました。

注目すべきは、こうした多様な展開が可能になったのは、「正しい人材」が「正しい文化」のもとで育っていたからだということです。
事業の形は変わっても、「その地域ならではの最高の体験を届けたい」という価値観を共有するスタッフたちが、それぞれの現場で主体的に動けた。
だからこそ、一つの旅館から始まった会社が、多彩な業態で成功を収めることができたのです。

これはまさに、ナデラがマイクロソフトで実践し、コリンズが研究で裏付けた「まず人を選ぶ」原則の好例といえます。

中小企業の経営者にとっての意味

「でも、うちはマイクロソフトや星野リゾートとは規模が違うし……」と思われるかもしれません。
実は、この原則はむしろ中小企業や個人事業にこそ当てはまります。

従業員10名前後の会社では、一人ひとりの影響力が非常に大きいからです。
大企業なら一人の「合わない人材」がいても組織全体でカバーできますが、少人数のチームでは一人の存在が雰囲気も成果も大きく左右します。

具体的に、明日から意識できることを3つお伝えします。

採用では「スキル」より「価値観の一致」を重視する

もちろん基本的な能力は必要です。
しかし、足りないスキルは入社後に身につけられます。
一方、会社が大切にしている価値観―たとえば「お客様の困りごとに真剣に向き合う」「チームで助け合う」といった姿勢は、後から教えるのが非常に難しいものです。
面接では「これまでどんな場面でやりがいを感じましたか?」といった質問で、その方の根っこにある価値観を探ってみてください。

今いるメンバーの「学ぶ姿勢」に注目する

ナデラがマイクロソフトで見出したように、組織を変える力は「何でも知っている人」ではなく「学び続ける人」にあります。
普段は目立たなくても、お客様の声に耳を傾ける人、新しいやり方を試してみる人、失敗から素直に学べる人。
そういった社員にスポットライトを当て、活躍の機会を与えることが、組織を変える第一歩になります。

「合わない人」をバスに乗せ続けない勇気を持つ

これが最も難しい判断です。
しかしコリンズは、偉大な企業のリーダーは「合わない人材にはバスを降りてもらう」決断を先送りしなかったと指摘しています。
少人数のチームで一人が周囲のやる気を下げ続ける状況は、全員にとって不幸です。
もちろん、十分なコミュニケーションと改善の機会を設けたうえでの話ですが、最終的には組織全体の健全さを優先する覚悟が求められます。

まとめ:「誰と一緒にいるか」が会社の未来を決める

マイクロソフトを復活させたのは、クラウドという新戦略ではなく、その戦略を実行できる「人」と「文化」を先につくったことでした。
星野リゾートが多彩な業態で成功し続けているのも、自ら考え行動するスタッフが育つ土壌があったからです。

経営において「何をやるか」はもちろん重要です。
しかし、どんなに素晴らしい戦略も、それを一緒に実行する「正しい仲間」がいなければ、絵に描いた餅になります。

まず、一緒にバスに乗る仲間を選ぶ。
行き先は、その仲間と一緒に決める。

この順番を意識するだけで、経営の景色は変わっていきます。
今日、社内を見渡してみてください。
きっとあなたの会社にも、「学び続ける姿勢」を静かに持ち続けている頼もしい仲間がいるはずです。

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