利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「何事もない日々の自分」だけを知っていても、本当の強さにはならない

「何事もない日々の自分」だけを知っていても、本当の強さにはならない

有事に備える経営者の自己認識

はじめに:順調な時ほど見えなくなるもの
「うちは順調にやっている」「特に大きな問題はない」

そう感じている時期は、経営者にとって心穏やかな時間です。
売上も安定し、従業員との関係も良好。
お客様からのクレームも少なく、毎日が淡々と過ぎていく。

しかし、こうした「何事もない日々」にいる時の自分をいくら理解していても、それだけでは十分とは言えません。
なぜなら、経営とは本質的に「変化の連続」だからです。

今回ご紹介するのは、「何事もない日々の自分」と「有事の自分」の違いを知ることの大切さについてです。
これは、経営者としての器を広げるうえで、とても重要な視点になります。

背景:なぜ「有事の自分」を知る必要があるのか

経営環境は必ず変化する

どんなに順調な会社でも、いつまでも同じ状態が続くことはありません。

たとえば、こんな変化が突然やってくることがあります。
・長年の取引先から「来月で契約を終了したい」と連絡が入る
・主力商品の売上が急に落ち込む
・信頼していた従業員が突然退職を申し出る
・予期せぬ設備の故障で大きな出費が発生する
・業界全体に影響する法改正や規制の変更

こうした出来事は、いつ起きてもおかしくありません。
むしろ、長く経営を続けていれば、何度かは必ず経験するものです。

何事もない日々と有事では、人は別人になる

ここで問題になるのは、「何事もない日々の自分」と「有事の自分」が、まるで別人のようになってしまうことがあるという点です。

普段は冷静に判断できる人でも、予期せぬ問題が起きると慌ててしまう。
いつもは部下の話をじっくり聞ける人でも、追い詰められると一方的に指示を出してしまう。
日頃は「お客様第一」と言っている人でも、資金繰りが苦しくなると目先の売上ばかり追いかけてしまう。

これは決して珍しいことではありません。
人間は誰でも、ストレスや不安を感じると、普段とは違う行動をとってしまうものです。

自分の「弱点」を知ることが、本当の強さになる

だからこそ、「有事の際に自分はどうなるか」を事前に知っておくことが大切です。

自分はプレッシャーがかかると、どんな反応をしやすいのか。
追い詰められた時に、どんな判断ミスをしがちなのか。
感情的になった時に、どんな言葉を発してしまうのか。

こうした自分の「傾向」を知っておけば、いざという時に「あ、今の自分は冷静ではないな」と気づくことができます。
気づくことができれば、一呼吸おいて、より良い判断をするための時間を作ることができます。

つまり、自分の弱点や短所を知ることは、弱さではなく、むしろ本当の強さにつながるのです。

事例:ある製造業の社長が経験した「想定外」

順調だった10年間

Aさんは、従業員8名の金属加工会社を経営しています。
創業から10年、地道に技術を磨き、地元の製造業者からの信頼を得て、安定した経営を続けてきました。

「うちは派手なことはしないけど、堅実にやってきた」

Aさんはそう自負していました。
資金繰りに困ったこともなく、従業員の定着率も高い。
取引先との関係も良好で、毎年少しずつ売上を伸ばしてきました。

突然の主力取引先の撤退

ところが、ある日、売上の約4割を占める主力取引先から連絡が入りました。
「親会社の方針で、来年度から海外調達に切り替えることになった」という内容でした。

Aさんは頭が真っ白になりました。
10年間、一度もこんな事態を想定したことがなかったからです。

何事もない日々とは違う自分が現れた

その後のAさんの行動は、普段の自分とはまるで違うものでした。

まず、従業員に対して急に厳しい態度をとるようになりました。
「もっと効率を上げろ」「無駄を減らせ」と、毎日のように小言を言うようになったのです。
普段は温厚で、部下の話をよく聞くタイプだったAさんが、です。

次に、焦って新規の取引先を開拓しようとしましたが、その際の営業トークが「うちは困っているので助けてほしい」というニュアンスになってしまい、相手に不安を与えてしまいました。

さらに、夜も眠れなくなり、判断力が低下。
本来なら慎重に検討すべき設備投資の話を、よく考えずに断ってしまったこともありました。

気づきと立て直し

転機になったのは、古くからの取引先の社長に相談した時のことです。
「Aさん、今のあなたは普段のあなたじゃないよ。焦っているのが外から見てもわかる」

そう言われて、Aさんは初めて自分の状態に気づきました。
確かに、自分は冷静ではなかった。
普段なら絶対にしないような判断や行動をしていた。

そこからAさんは、まず自分の心を落ち着けることから始めました。
そして、「有事の時の自分」がどんな傾向を持っているかを、改めて振り返りました。

・追い詰められると、周囲に当たってしまう
・焦ると、相手の立場を考えずに話してしまう
・不安が強くなると、新しい提案を受け入れられなくなる

これらを自覚したうえで、次に同じような事態が起きた時には、まず「自分は今、有事モードに入っている」と認識し、大きな判断は数日おいてから行う、というルールを自分に課しました。

結果的に、Aさんの会社は1年かけて新しい取引先を開拓し、売上を回復させることができました。

まとめ:有事に備える「自己認識」のすすめ

何事もない日々にこそ、有事の自分を想像する

今、順調に経営ができている方ほど、一度立ち止まって考えてみてください。
「もし今、売上の3割が突然なくなったら、自分はどう行動するだろうか」
「もし主力の従業員が辞めると言い出したら、自分はどんな反応をするだろうか」
「もし大きな設備トラブルが起きたら、自分は冷静でいられるだろうか」
こうした問いかけを自分にしてみることで、「有事の自分」の輪郭が少しずつ見えてきます。

弱点を知ることは、弱さではない

自分の弱点や短所を認めるのは、誰にとっても気持ちの良いことではありません。
しかし、経営者として長く会社を続けていくためには、この「自己認識」がとても重要になります。

自分の弱点を知っていれば、それをカバーする仕組みを作ることができます。
たとえば、「自分は焦ると判断を誤りやすい」と知っていれば、大きな決断の前には必ず信頼できる人に相談する、というルールを作っておくことができます。

「自分は追い詰められると周囲に当たりやすい」と知っていれば、ストレスを感じた時には一人で抱え込まず、早めに誰かに話を聞いてもらう、という習慣を持つことができます。

「本当の自分」を知ることが、経営者としての器を広げる

経営者は、会社の舵取りをする立場です。
何事もない日々はもちろん、有事の際にも、できるだけ良い判断をして、会社と従業員を守っていく責任があります。

そのためには、「何事もない日々の自分」だけでなく、「有事の自分」も含めて、自分という人間を深く理解しておくことが大切です。

自分の強みだけでなく、弱みも含めて受け入れる。
そうすることで、いざという時にも「今の自分は冷静ではないかもしれない」と気づき、一歩引いて状況を見ることができるようになります。

これこそが、経営者としての器を広げることにつながるのではないでしょうか。

「変わり続けるのが、経営の常」

この言葉を胸に、ぜひ一度、「有事の自分」について考える時間を作ってみてください。
それが、これからの経営をより確かなものにする、大切な一歩になるはずです。

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