専門性を絞った事業展開の重要性
はじめに:情報があふれるほど、シンプルさが輝く
インターネットが普及し、スマートフォンが手放せなくなった今、私たちの周りには毎日膨大な量の情報が飛び交っています。
何か困りごとがあれば検索すれば答えが出てくる。
飲食店を探せば、その日の気分に合わせたお店を瞬時に見つけられる。
そんな時代に、消費者の選び方も大きく変わってきました。
かつては「なんでもそろっている」お店や「幅広く対応できます」というサービスが安心感を与えていました。
しかし今は違います。むしろ逆です。
たとえば、うどんが食べたい気分のときのことを想像してみてください。
近所に「何でもある定食屋」と「カレーうどん専門店」があったとしたら、カレーうどんを食べたい人はどちらに向かうでしょうか。
きっと専門店のほうです。「ここに来れば間違いない」という確信が持てるからです。
これは飲食店に限った話ではありません。
情報があふれかえる現代社会だからこそ、逆にモノやサービスを提供する私たちは、「何を売っているのか」「何が得意なのか」を、シンプルに、わかりやすく発信することが強く求められています。
背景:「選ばれる理由」がないと、埋もれてしまう時代
なぜ、専門性をわかりやすく伝えることがこれほど重要になったのでしょうか。
その背景には、大きく3つの変化があります。
検索社会の到来
人は何かを探すとき、今やほぼ必ず検索エンジンを使います。
「離婚 弁護士 相談」「腰痛 整体 〇〇市」といったキーワードで探すとき、何でも対応できる事務所や整体院よりも、そのテーマに特化しているところのほうが目に留まりやすくなります。
検索する側が「専門」という言葉に安心感を覚えるからです。
口コミとSNSの広がり
人が誰かに紹介するとき、「あそこはいい整体院だよ」よりも「あそこは腰痛専門の整体院で、先生がすごく詳しいんだよ」のほうが、相手に伝わりやすく、実際に足を運んでもらいやすくなります。
専門性の明確さは、口コミの「伝わりやすさ」にも直結しているのです。
選択肢が増えすぎた
サービスも商品も、以前とは比べ物にならないくらい選択肢が増えました。
選ぶ側にとっては、選択肢が多すぎると逆に迷ってしまいます。
そこで「専門家に任せよう」という判断が生まれます。
「なんでもできます」という会社よりも、「これだけは誰にも負けません」という会社のほうが、迷えるお客様の心に刺さるのです。
事例:「子ども向け体操教室」に特化した小さなスタジオの成功
東京・神奈川エリアで、「運動が苦手な子どものための体操教室」を運営するスタジオがあります。
定員は各クラス8名ほどの、こぢんまりとした教室です。
このスタジオのユニークなところは、「運動が得意な子をもっと伸ばす」のではなく、あえて「運動が苦手で、体育の授業が憂鬱な子ども」に絞って教室を展開していることです。
レッスン内容も、鉄棒・跳び箱・マット運動など学校の授業で出てくる種目を中心に組み立て、「学校で少し自信が持てるようになること」をゴールに設定しています。
ホームページやSNSにも「運動が得意ではないお子さまのための体操教室」と明記し、体験レッスンの申し込みも「うちの子は逆上がりが一度もできたことがない」「水泳と体育だけが通知表で低い」といった悩みを持つ保護者に向けて発信を続けました。
その結果、口コミと検索からの問い合わせが増え、今では半年先まで体験レッスンの予約が埋まっている状態が続いています。
運動が得意な子を対象にした大手スポーツクラブとは真正面からぶつかっていないため、価格競争も起きにくく、安定した経営が続いています。
この教室の成功のポイントは、「誰のための教室か」「どんな悩みを解決できるか」を、非常にわかりやすく、かつ正直に伝え続けたことにあります。
核心:「片付け専門」を掲げた、ある整理収納サービスの話
大阪府内で活動する、スタッフ数名の小さな整理収納サービス会社の話です。
もともとはハウスクリーニングや引越し作業の補助など、幅広いサービスを手がけていました。
しかしどれも大手と比べると価格で太刀打ちできず、問い合わせは散発的で、経営は常に不安定な状態が続いていました。
そこで代表者が思い切って決断したのが、「遺品整理と生前整理だけに絞る」という方針転換です。
高齢化が進む中で、亡くなった家族の遺品をどう片付けるか、あるいは自分が元気なうちに身の回りを整理しておきたいという需要が、確実に増えていることに気づいたからです。
サービス名も、会社のキャッチコピーも、ウェブサイトの構成も、すべてをこのテーマに沿って作り直しました。
「遺品整理・生前整理のことなら、まずここに相談」というポジションを、地道に発信し続けたのです。
すると変化が起きました。「親が亡くなって、実家の片付けをどこに頼めばいいかわからない」という方が検索で辿り着くようになり、地元の葬儀社や不動産会社からの紹介も入るようになりました。以前は「安くしてほしい」という値引き交渉が多かったのに、「専門家に任せたい」という気持ちで来る方が増えたため、価格ではなく信頼で選んでもらえるようになったのです。
「何でもやります」から「これだけに絞ります」へ。
その一言の転換が、会社の空気をまるごと変えました。

まとめ:「絞ること」は捨てることではなく、選ばれることへの近道
「専門を絞ってしまったら、お客さんが減るんじゃないか」と心配される経営者の方もいます。
その気持ちはよくわかります。
しかし実際には逆のことが起きます。
絞ることで、「まさに自分のことだ」と感じるお客様が増えます。
そして、そのお客様はすでに「ここに頼みたい」という気持ちを持って来てくれるため、成約率が上がり、値引き交渉も少なくなり、紹介も生まれやすくなります。
小さな会社や個人事業が、大手と同じ土俵で戦う必要はありません。
むしろ、専門性と独自性こそが、小さな会社の最大の武器です。
まず一度、自社のことを振り返ってみてください。
「うちは何が一番得意か」「どんなお客様の悩みを、一番うまく解決できるか」。
その答えを、シンプルな言葉でお客様に伝える。それだけで、あなたのビジネスは大きく変わり始めるはずです。
カレーうどんが食べたい人は、カレーうどん専門店に行きます。
あなたのお店や事務所や会社は、誰が「行きたい」と思う場所ですか?
