利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「売っているもの」は何ですか?─Airbnb創業者が発見した居場所という価値

「売っているもの」は何ですか?─Airbnb創業者が発見した居場所という価値

顧客が本当に求めている価値を見つける

はじめに:あなたの会社が本当に提供しているもの

「うちは何を売っている会社ですか?」

こう聞かれたら、どう答えますか。
建設会社なら「家を建てています」、飲食店なら「料理を提供しています」、税理士事務所なら「確定申告のお手伝いをしています」─そう答えるのが普通でしょう。

でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
お客様は本当に「家」や「料理」や「確定申告」そのものを求めているのでしょうか。

今回ご紹介するのは、民泊サービス「Airbnb(エアビーアンドビー)」の創業者ブライアン・チェスキーが、この問いに向き合い、会社の方向性を大きく変えた物語です。
この話には、従業員10名前後の会社を経営されている皆さんにとっても、きっとヒントになる考え方が詰まっています。

背景:ピンチから生まれた民泊サービス

Airbnbは2008年、アメリカ・サンフランシスコで誕生しました。
創業者のブライアン・チェスキーと友人のジョー・ゲビアは、当時デザイナーとして働いていましたが、家賃が払えないほど生活に困っていました。

そんなとき、サンフランシスコで大きなデザインの展示会が開かれることになり、周辺のホテルはどこも満室に。
「うちの部屋に泊まりたい人がいるかもしれない」と思いついた二人は、自宅にエアーベッド(空気で膨らませる簡易ベッド)を並べ、朝食付きで宿泊客を募集しました。

これがAirbnbの始まりです。
名前の由来も「エアーベッド」と「朝食(ブレックファスト)」を組み合わせた造語でした。

その後、サービスは急成長を遂げましたが、創業から数年が経った頃、ブライアンはある壁にぶつかります。
「うちの会社は、いったい何を提供している会社なのだろう?」という問いです。

原体験への立ち返り:最初の3人のお客様

思案する中で、ブライアンは最初の3人のお客様─グスト、キャサリンとアモル、そしてマイケル─のことを思い出しました。

あのとき、ブライアンは3人をただ部屋に泊めただけではありませんでした。
地元で評判のカフェに連れて行ったり、夜はバーで一緒にお酒を飲んだり。
見知らぬ他人だった3人は、別れる頃にはすっかり友人になっていたのです。

「あの原体験こそが、エアビーアンドビーの持つ本当の価値かもしれない」
ブライアンは、そう考え始めました。

「Belonging」という言葉との出会い

時を同じくして、Airbnbのチームは数ヶ月をかけ、世界各地からおよそ500人のユーザーを選び、サービスに対するヒアリングを開始しました。

インタビューを重ねる中で、チームはあることに気がつきます。
ユーザーの口から、ある言葉が何度も出てくるのです。

それは「Belonging(ビロンギング)」という英単語でした。
「居場所になる」「所属する」「一員になる」といった意味を持つ言葉です。

この単語との出会いが、ブライアンの思想に明瞭な輪郭を与えました。

ホテルとは違う、まったく新しい価値

世界中どの街へ行っても同じ品質が約束されるホテルチェーンの宿泊体験は、確かに素晴らしい。
しかしエアビーアンドビーなら、ホテルとは全く異なる価値を提案することができる─ブライアンはそう確信しました。

ニューヨークでは、ソーホーの路地裏のロフト(天井の高いおしゃれな部屋)を独り占めする。
南仏では、農家の一軒家を間借りして暮らすように過ごす。
旅先の街に住むように時間を過ごし、カルチャーに溶け込み、ときに現地の人と交流し、新しい友だちをつくる。

それらはすべて、金太郎飴のように画一的な旅行プランからはこぼれ落ちていた、旅本来の楽しみ方でした。

ブライアンは「世界中を自分の居場所にする」をエアビーアンドビーの企業コンセプト(会社が大切にする考え方の柱)に据えることに決めます。

ただ違う街に「行く」(Going)のでもない。
「旅する」(Traveling)のでもない。
「宿泊する」(Staying)のでもない。
「居場所を求める」(Belonging)ということ。

エアビーアンドビーに、そして旅そのものに、新しい意味が生まれた瞬間でした。

「テックの会社」から「おもてなしの会社」へ

ブライアンはコンセプトの決定をきっかけにして、エアビーアンドビーを「テックの会社」から「おもてなしの会社」に変えていくことを決意します。

具体的には、新しい国にサービスを導入する際、手間とお金がかかったとしても、まずスタッフを現地に派遣し、理念に共感するホストのコミュニティをつくるようにしました。

そこで繰り返し強調されたのは、次のメッセージです。

「ホストが提供しているのは、物理的な『ハウス』(住宅)ではありません。家族の居場所である『ホーム』(家庭)なのです」

建物としての「家」ではなく、心のよりどころとしての「家庭」。
この違いは、英語では「House」と「Home」という二つの単語で明確に区別されます。
ブライアンは、この違いをホストたちに何度も伝え続けました。

新サービス「エクスペリエンス」の誕生

また、コンセプトを象徴するサービスとして、新たに「エクスペリエンス」が開始されました。

これは現地に暮らす人がガイドとなって、その土地でしか味わえない体験を旅行客に楽しんでもらうためのサービスです。

例えば日本であれば、「地元の銭湯に入ってから、近所の居酒屋で食事をする」といった体験が提供されています。
現地に友達がいなければできないような、特別なひととき。
ガイドブックには載っていない、その街の「日常」に溶け込む体験です。

宿泊だけでなく、旅全体を「居場所を見つける体験」に変えていく─エクスペリエンスは、まさにそのコンセプトを形にしたサービスでした。

別の事例:町の電器屋さんが届ける「安心」

Airbnbの話は、実は私たちの身近な商売にも通じています。

ある地方都市で小さな電器屋さんを営むAさんの話をご紹介しましょう。

大型家電量販店やネット通販の普及で、町の電器屋さんは厳しい状況に置かれています。
価格で勝負すれば、大手にはかないません。
品揃えでも太刀打ちできません。

そんな中、Aさんのお店は地域のお年寄りから絶大な支持を得ています。
なぜでしょうか。

Aさんは、家電を売るだけではありません。
「テレビのリモコンの使い方がわからない」と電話があれば、すぐに駆けつけます。
「エアコンの調子が悪い気がする」と言われれば、点検に伺います。
ときには「最近どう?」と様子を見に立ち寄ることもあります。

お客様がAさんのお店で買っているのは、実は「家電」ではないのです。
「困ったときに頼れる人がいる安心感」であり、「自分のことを気にかけてくれる人とのつながり」なのです。

Aさん自身、最初は「うちは家電を売る店だ」と思っていました。

でもあるとき、常連のおばあさんからこう言われたそうです。
「あんたのお店があるから、一人暮らしでも安心していられるんだよ」

この言葉が、Aさんの商売に対する考え方を変えました。
「自分が届けているのは家電ではなく、安心なんだ」と気づいたのです。
それ以来、Aさんは「地域の暮らしの安心を届ける」ことを商売の柱に据えています。

Airbnbのブライアンが「ハウス」ではなく「ホーム」だと気づいたように、Aさんも「家電」ではなく「安心」だと気づいた。
売っているものは違っても、本質は同じです。

まとめ:あなたの会社の「Belonging」は何ですか?

Airbnbのブライアンは「宿泊場所」ではなく「居場所」を、町の電器屋さんのAさんは「家電」ではなく「安心」を届けていることに気づきました。

では、あなたの会社はいかがでしょうか。

お客様に届けているのは、目に見える商品やサービスだけではないはずです。
その奥には、お客様が本当に求めている「何か」があります。

それを見つけるヒントは、意外とシンプルです。

まず、創業したときのこと、あるいは最初のお客様のことを思い出してみてください。
ブライアンがグスト、キャサリンとアモル、マイケルとの日々を振り返ったように。
あのとき、お客様はなぜあなたを選んでくれたのでしょうか。

次に、今のお客様に「うちのどこを気に入ってくださっていますか?」と聞いてみてください。
Airbnbのチームが500人のユーザーにヒアリングしたように。
きっと、あなた自身が気づいていなかった言葉が返ってくるはずです。

その言葉の中に、あなたの会社だけが届けられる本当の価値─お客様にとっての「Belonging」が隠れているかもしれません。

ただ商品を「売る」のでもない。
サービスを「提供する」のでもない。
お客様の「居場所になる」ということ。

それを見つけ、言葉にし、会社の柱に据えること。
それが、大手にはできない、中小企業ならではの強みを生み出す第一歩になるのではないでしょうか。

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