指示のあいまいさと部下の自主性
はじめに:なぜ「ちゃんと伝えたのに」伝わらないのか
「何度言っても、思った通りにやってくれない」
「もっと細かく指示しないとダメなのか」
こんなふうに感じたことはありませんか?
実は、これは部下の能力の問題ではなく、「指示」というものが持つ宿命的な性質に原因があります。
どんなに丁寧に伝えたつもりでも、指示には必ず「あいまいな部分」が残ってしまうのです。
そして、このあいまいさにどう向き合うかで、チームの雰囲気や部下の成長が大きく変わってきます。
今回は、指示のあいまいさを「困りごと」ではなく「チャンスに変える考え方」についてお話しします。
指示は、どうしてもあいまいになる
言葉だけでは伝えきれないもの
たとえば、「お客様に丁寧に対応してね」という指示を出したとします。
これ、実はかなりあいまいです。「丁寧」とは具体的にどういうことでしょうか?
・敬語を使うこと?
・笑顔で接すること?
・お客様の話を最後まで聞くこと?
・困っていそうなら自分から声をかけること?
人によって「丁寧」のイメージは違います。
ある人は「きちんとした言葉遣い」を思い浮かべ、別の人は「親しみやすい雰囲気」を想像するかもしれません。
これは言葉の限界です。
私たちの頭の中にあるイメージを、100%正確に言葉で伝えることは、原理的に不可能なのです。
あいまいさは「手抜き」ではない
「もっと細かく指示すればいいのでは?」と思われるかもしれません。
確かに、ある程度は具体的にすることで改善できます。
しかし、すべてを事細かに指定しようとすると、今度は別の問題が起きます。
まず、指示を出すのに膨大な時間がかかります。
そして、想定外の状況が起きたとき、部下は「指示にないことはやってはいけない」と動けなくなってしまいます。
つまり、指示にあいまいさが残るのは、経営者の伝え方が下手なわけではありません。
仕事というものが複雑で、状況が常に変化するからこそ、ある程度の「余白」が必要なのです。
あいまいな指示を受けた部下は、自分で判断するしかない
さて、あいまいな指示を受けた部下は、どうするでしょうか?
「これでいいのかな?」と思いながらも、自分なりに考えて行動するしかありません。
ここで大切なのは、その「自分なりの判断」に対して、上司がどう反応するかです。
この反応次第で、部下の今後の行動パターンが大きく変わってきます。
事例:小さな判断が、大きな分かれ道になる
ケース:急なお客様への対応
ある小さな工務店でのできごとです。
社長が外出中に、以前お仕事をさせていただいたお客様がふらりと立ち寄られました。
「近くに来たから、ちょっと寄ってみたの」とのこと。
対応したのは入社2年目の事務スタッフ。
社長からは「お客様には丁寧に対応するように」とだけ言われていました。
彼女は迷いました。
社長はいない。
アポイントもない。
でも、せっかく来てくださったお客様を「社長がいないので」と帰すのも失礼な気がする。
そこで彼女は、自分の判断でこうしました。
・まず、お茶をお出しして少し休んでいただいた
・雑談をしながら、最近お家で気になるところはないか聞いてみた
・お客様が帰られた後、社長に「○○様がいらっしゃいました。お家の雨どいが気になるとおっしゃっていました」とメモを残した
分かれ道①:叱責する場合
社長が戻ってきて、こう言ったらどうでしょう。
「勝手に話を聞いてどうするんだ。余計なことを言って、あとで面倒になったらどうする。お客様対応は俺がやるから、次からは『社長に伝えておきます』とだけ言って帰ってもらって」
彼女はきっと、こう学習します。
「自分で判断してはいけないんだ」
「言われたこと以外はやらないほうが安全だ」
「何かあったら怒られるから、とにかく確認しよう」
次からは、些細なことでも「これはどうすればいいですか?」と確認するようになるでしょう。
そして、社長がいないときは「分かりません」「社長に聞いてください」としか言えなくなります。
分かれ道②:感謝する場合
一方、社長がこう言ったらどうでしょう。
「○○さん、来てくれたんだ。対応ありがとう。お茶まで出してくれたの? 気が利くね。雨どいの件もメモしてくれて助かるよ。今度こっちから連絡してみるわ」
彼女はこう感じます。
「自分の判断で動いても大丈夫なんだ」
「お客様のことを考えて行動するのは、いいことなんだ」
「社長は私を信頼してくれている」
次からは、もう少し自信を持って判断できるようになります。
「社長ならどう対応するかな」と考えながら、自分なりに工夫するようになるでしょう。
「指示があいまいだから、できなくて当然」という前提に立つ
ここで大切なのは、考え方の出発点を変えることです。
多くの経営者は、無意識のうちにこう考えています。
「指示を出した → 相手は理解したはず → できて当然」
しかし、現実はこうです。
「指示を出した → でも必ずあいまいな部分がある → 部下は自分で判断した → 結果が出た」
この流れを理解していれば、結果が思い通りでなかったとき、「なんでできないんだ!」ではなく、「そもそも完璧にできるほうがすごいよね」と思えます。
これは「甘やかし」ではありません。現実を正しく認識しているだけです。
「やってくれてありがとう」が生む好循環
部下が自分の判断で動いたとき、まず「やってくれてありがとう」と伝える。
これだけで、驚くほどチームの雰囲気が変わります。
好循環のサイクル
1.部下が自分で判断して動く
2.上司が「ありがとう」と感謝する
3.部下は「自分で動いてもいいんだ」と安心する
4.次はもう少し積極的に判断してみる
5.上司はまた感謝する
6.部下はさらに自信をつける
このサイクルが回り始めると、「指示待ち」だった部下が、少しずつ「自分で考えて動く」人材に変わっていきます。
悪循環のサイクル
逆に、叱責が続くとこうなります。
1.部下が自分で判断して動く
2.上司が「違う!」と叱る
3.部下は「勝手に動くと怒られる」と学習する
4.次からは細かいことまで確認するようになる
5.上司は「なんでも聞いてくるな」とイライラする
6.部下はますます萎縮する
こうなると、社長がすべてを決めなければならず、忙しさから抜け出せなくなります。
でも、間違いは正さないといけないのでは?
「感謝ばかりしていたら、間違いを直せないのでは?」
これはもっともな疑問です。
大切なのは、順番とバランスです。
まず感謝する → そのうえで改善点を伝える
先ほどの工務店の例なら、こんな言い方ができます。
「対応ありがとう。助かったよ。一つだけ、次からはこうしてくれるともっといいかな。お客様のお名前と、いらっしゃった時間もメモしておいてくれると、こっちから連絡するときに便利なんだ」
「ありがとう」が先にあると、改善点も素直に受け入れやすくなります。
これが逆になると、どんなに正しい指摘でも、部下の心には「怒られた」という記憶だけが残ってしまいます。
まとめ:あいまいさを受け入れることから始まる
今回お伝えしたかったことをまとめます。
指示には、どうしてもあいまいな部分が残ります。
これは避けられない現実です。
だからこそ、部下は自分で判断して動くしかありません。
その判断に対して、どう反応するかが分かれ道です。
叱責すれば部下は萎縮し、感謝すれば部下は成長します。
「やってくれてありがとう」から始めましょう。
改善点を伝えるのは、その後で十分です。
「指示があいまいだから、完璧にできなくて当然」
この前提に立つだけで、部下への見方が変わり、声のかけ方が変わり、チームの雰囲気が変わっていきます。
小さな会社だからこそ、一人ひとりが自分で考えて動けるチームは強い。
その第一歩は、経営者の「ありがとう」から始まるのです。

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