質問を通じた部下育成の効果
はじめに:あなたは「説明しすぎ」ていませんか?
部下やスタッフに何かを教えるとき、あなたはどんなふうに伝えていますか?
「こうやってやるんだよ」「これはこういう意味だから」「次はこうすればいい」—丁寧に、わかりやすく、順序立てて説明している。
そういう方がほとんどではないでしょうか。
でも、あなたが丁寧に説明すればするほど、部下は「うんうん」とうなずきながら、実はほとんど頭に入っていない—そんな経験はありませんか?
「ちゃんと説明したのに、また同じミスをする」
「わかった?と聞いたら『はい』と言うのに、できていない」
これ、実は説明した側の問題ではなく、「教える構造」そのものに原因があるかもしれません。
なぜ「説明」だけでは伝わらないのか
人間の脳は、受け身で聞いた情報をあまり記憶に定着させません。
たとえば、学校の授業を思い出してみてください。
先生が黒板の前で一生懸命説明していても、ぼんやりしていた記憶はないでしょうか。
一方で、自分が発表した内容や、友達に教えた内容は、不思議とよく覚えているものです。
これは脳の仕組みと深く関係しています。
人は「受け取る(聞く)」より「考えて発信する(話す・書く)」ほうが、記憶の定着率が格段に上がるとされています。
教育心理学の世界では「アウトプット学習」と呼ばれ、自分の言葉で説明することで理解が深まることが、長年の研究で明らかになっています。
つまり、あなたがどれだけ上手に説明しても、相手が「受け身」のままでは、情報は片耳から入って、もう片方から出ていってしまう。
それが現実なのです。
「教えない教え方」とは何か
では、どうすればいいのか。
答えはシンプルです。
教える側が「説明」するのではなく、「質問」する。
相手に考えさせ、自分の口で説明させる。
これが「教えない教え方」の本質です。
たとえば、新しい業務フローを覚えてほしいとき—
従来のやり方
「このフローはね、まずAをして、次にBを確認して、最後にCを報告するんだよ」
「教えない教え方」
「このフロー、自分なりにどんな手順でやろうと思う?」
「なんでそう考えたの?」
「もし途中でトラブルが起きたら、どうする?」
最初は「え、自分で考えるの?」と戸惑う部下もいます。
でも、自分で考えて、自分の言葉で答えたことは、脳が「主体的に処理した情報」として記録されます。
だから記憶に残る。
だから次も自分で考えようとする。
これが「自発的に動く部下」が育つメカニズムです。
事例:飲食店オーナーが気づいた「質問の力」
東海地方で小さなラーメン店を営むAさん(40代・従業員8名)の話です。
Aさんはもともと、新人スタッフへの指導を丁寧にやることで評判でした。
仕込みの手順、接客の言葉遣い、クレーム対応—すべてを自分でマニュアル化し、一から説明していました。
ところが、いくら説明してもスタッフは同じミスを繰り返す。
接客でトラブルがあっても、自分で判断できずにAさんに頼ってくる。
「なんで自分で考えないんだろう」と、Aさんは長年悩んでいました。
転機は、あるベテランスタッフとの会話でした。
そのスタッフが後輩に「なんでそう思う?」「お客さんはどう感じると思う?」と質問しているのを見かけたAさん。
「ああ、あの子の教え方、うちとは全然違うな」と気づいたそうです。
それから、Aさんは指導のスタイルを変えました。
たとえば、お客さんがクレームを言ってきたとき。以前なら「こういう場合はこう対応するんだよ」と答えを教えていたところを、こう変えました。
「今日のお客さん、何に困ってたと思う?」
「あなただったら、どんな言葉をかけたかった?」
「次に同じことが起きたら、どうしようと思う?」
最初、スタッフは戸惑いました。でも2〜3回繰り返すうちに、スタッフは自分で考えて答えを出すことに慣れてきました。
半年後、Aさんは気づきます。
「あれ、最近、俺に聞きにくるスタッフが減ったな」と。
スタッフが自分で考え、自分で判断し、自分で動くようになっていたのです。
Aさんはこう言います。
「説明をやめてから、お店がまわるようになった。私が休みを取れるようになったのも、スタッフが育ったからです」と。
「質問する」ときの3つのコツ
では、実際にどんな質問をすればいいのか。
3つのポイントをお伝えします。
「どう思う?」から始める
「正解を知ってる?」ではなく、まず「あなたはどう思うか」を聞く。
正解・不正解ではなく、考えること自体を促すのが目的です。
答えを否定しない
部下が答えを出したら、まず「なるほど、そう考えたんだね」と受け止める。
すぐに「違う」と言ってしまうと、次から考えることをやめてしまいます。
「次どうする?」で前に進める
振り返りで止まらず、「じゃあ次はどうしようか?」と未来に向けた質問をセットにすることで、考えることが行動につながります。

まとめ:「教えない」ことが、最高の人材育成になる
「教えないほうが、人は育つ」——これは一見、矛盾しているように聞こえます。
でも、人間の脳の仕組みから見ると、これはとても理にかなっています。
あなたが丁寧に説明すればするほど、部下は受け身になります。
あなたが質問して考えさせるほど、部下は主体的になります。
小さな会社ほど、経営者がすべてのことに関わらざるを得ない場面があります。
でも、一人ひとりが自分で考えて動けるようになれば、経営者は本来やるべき仕事—新しいお客さんの開拓、会社の方向性を考えること—に集中できるようになります。
今日から、説明の代わりに「どう思う?」という言葉を一度使ってみてください。
それだけで、あなたとスタッフの関係が、少しずつ変わっていくはずです。
