利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「新しいアイデア」のハードルを下げる ― 身近な視点の転換で、経営は変わる

「新しいアイデア」のハードルを下げる ― 身近な視点の転換で、経営は変わる

自社にとって新しければそれで十分

はじめに ― なぜ私たちは「新しさ」に縛られるのか

「何か新しいことを始めなければ」「他社と差別化するアイデアが必要だ」

経営者として日々お仕事をされていると、こうした思いが頭をよぎることはありませんか。
特に競争が激しい時代、「新しいアイデア」を求める声はあちこちから聞こえてきます。
経営セミナーでも、ビジネス書でも、「イノベーションを起こせ」「差別化が大切だ」といった言葉が並びます。

しかし、ここで多くの方が陥りやすい落とし穴があります。

「新しいアイデア」と聞くと、どうしても「世の中にまだ存在しない、画期的な発明」を想像してしまうのです。
スティーブ・ジョブズがiPhoneを生み出したような、誰も思いつかなかった革新的なもの。
そんなものを自分も考え出さなければならない、と無意識のうちにハードルを上げてしまいます。

そして、「自分にはそんな天才的な発想力はない」と諦めてしまう。
あるいは、「うちのような小さな会社には無理だ」と最初から可能性を閉ざしてしまう。
実は、この「新しさ」に対する誤解が、多くの経営者の方々を不必要に苦しめているのです。

本当の「新しさ」とは何か

ここで、発想を少し変えてみましょう。

「新しい」とは、一体誰にとっての「新しい」なのでしょうか。

世界中の誰も思いつかなかったことだけが「新しい」のでしょうか。
実は、そうではありません。
私たちは大発明家でも、ノーベル賞を目指す科学者でもありません。
求めているのは、自分の会社や仕事で実際に役立つ、地に足のついたアイデアです。

つまり、「自社にとって新しければ、それは立派に『新しい』」のです。

たとえば、ある業界では当たり前のように行われていることが、別の業界ではまったく知られていない、ということは珍しくありません。
その「当たり前」を自社に取り入れるだけで、お客様から見れば「あの会社は何か違う」「新しいことをやっている」と感じてもらえるのです。

この考え方を受け入れると、途端に気持ちが楽になります。
「誰も考えつかなかったこと」を必死に探す必要はなくなります。
むしろ、すでに世の中にある良いやり方に目を向け、「これ、うちでもできないかな」と考えるだけでいいのです。

身近な事例 ― 町の電器店がホテルから学んだこと

ここで、ある町の電器店の話をご紹介します。

全国チェーンの家電量販店が次々と進出し、価格競争では太刀打ちできない状況が続いていました。
「安さ」で勝負しようとしても、仕入れ力で大手にはかないません。
何か別の価値を提供しなければ、生き残りは難しい。
店主はずっと頭を悩ませていました。

あるとき、店主が家族旅行で泊まったホテルで、ふと気づいたことがありました。
ホテルには「コンシェルジュ」と呼ばれるスタッフがいて、宿泊客のあらゆる相談に乗ってくれるのです。
レストランの予約、観光地への行き方、ちょっとした困りごと。
何を聞いても、親切に対応してくれます。

「この『なんでも相談に乗る』というやり方、うちの店でもできるんじゃないか」

店主はそう考えました。

帰宅後、さっそく実行に移します。
まず、お店の看板に「電器のことなら何でもご相談ください」と大きく掲げました。
そして、テレビの購入相談だけでなく、「録画の仕方がわからない」「リモコンの使い方を教えてほしい」「古い扇風機、まだ使えるか見てほしい」といった、売上に直接つながらないような相談にも丁寧に対応するようにしたのです。

さらに、高齢のお客様には、購入後も定期的に「お変わりありませんか」と電話をかけるサービスを始めました。

結果はどうだったでしょうか。

最初は売上への効果が見えにくかったものの、少しずつ変化が現れました。
「あの店は親切だ」という評判が口コミで広がり、近所の高齢者を中心に常連客が増えていったのです。
「量販店は安いけれど、使い方がわからないときに聞きにくい」「あの店なら、買った後も面倒を見てくれる」。
そんな声が集まるようになりました。

エアコンや冷蔵庫といった大きな買い物も、「どうせ買うなら、あのお店で」と選んでもらえるようになったといいます。

この電器店がやったことは、ホテル業界では珍しくもない「コンシェルジュサービス」という考え方を、自分の業界に持ち込んだだけです。
世界初の発明ではありません。
しかし、その地域の電器店としては「新しかった」。
それだけで、十分にビジネスを好転させる力を持っていたのです。

他業界の「当たり前」は、宝の山

この事例からわかることがあります。

私たちが普段見ている景色は、どうしても自分の業界、自分の仕事の範囲に限られがちです。
同業者の動向は気になりますが、まったく別の業界で何が行われているかには、なかなか目が向きません。

しかし、少し視野を広げてみると、世の中にはすでに効果が実証されたやり方がたくさんあります。

たとえば、飲食業界の「セットメニュー」という発想。
これを別の業種に応用できないでしょうか。
美容室なら「カット+カラー+トリートメント」のセットだけでなく、「施術+ドリンク+肩のマッサージ」といった、お客様の満足度を高めるセットが考えられるかもしれません。

あるいは、カフェチェーンが大切にしている「居心地の良い空間づくり」という考え方。
これを病院やクリニックの待合室に取り入れたらどうでしょうか。
照明を柔らかくし、心地よいBGMを流し、雑誌の種類を増やす。
それだけで患者さんの印象は大きく変わるかもしれません。

製造業で使われている「見える化」の手法を、事務作業の進捗管理に活用することもできます。
工場で使われているカンバン方式を、ホワイトボードを使って簡易的に再現するだけでも、チーム内の情報共有は格段に良くなります。

このように、他業界の「当たり前」を自社に持ち込むこと。
これが、最も手軽で、最も確実な「新しいアイデア」の見つけ方なのです。

アイデアを見つける目を養う

では、どうすればこうしたアイデアの種を見つけられるようになるのでしょうか。

特別な訓練は必要ありません。
日常生活の中で、ほんの少し意識を変えるだけで十分です。

買い物に行ったとき、「この店、なんだか居心地がいいな」と感じたら、なぜそう感じたのかを考えてみてください。
照明の色でしょうか。
店員さんの声かけのタイミングでしょうか。
商品の並べ方でしょうか。

旅行先で泊まった旅館やホテルで、「このサービスは気が利いているな」と思ったら、自社に応用できないかを想像してみてください。

病院や銀行など、一見すると自社とは関係なさそうな場所でも、「この仕組みは面白い」と思うことがあれば、メモを残しておく。
そんな習慣を持つだけで、見える景色が変わってきます。

世の中の成功している会社や店舗は、すでに工夫を重ねています。
その工夫を「借りてくる」ことは、決して恥ずかしいことでも、ずるいことでもありません。
むしろ、優れたアイデアを見抜く目と、それを自社に応用する力こそが、経営者に求められる能力なのです。

まとめ ― 「少しだけ新しい」でいい

「新しいアイデア」と聞くと、どうしても大きなことを考えなければいけない気がしてしまいます。
しかし、実際のビジネスを動かすのは、そうした壮大なイノベーションではないことがほとんどです。

自社にとって新しければ、それは「新しい」。

この考え方を持つだけで、目の前の景色が一変します。
日常のあらゆる場所が、アイデアの宝庫に見えてきます。

他業界で成功しているやり方を、自社に持ち込んでみる。
それだけで、お客様には「新鮮」に映りますし、競合他社との差別化にもつながります。
何より、「画期的な発明をしなければ」という重荷から解放され、もっと自由に、もっと楽しくアイデアを考えられるようになるはずです。

今日から、少しだけ視野を広げて周りを見渡してみてください。
きっと、あなたの会社を変える「ちょっとだけ新しいアイデア」が見つかるはずです。

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