利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「最初は高く、だんだん安く」—賢い値づけが会社を強くする

「最初は高く、だんだん安く」—賢い値づけが会社を強くする

価格を段階的に下げて利益を最大化する戦略

はじめに

あなたは商品やサービスの「値段」を、どうやって決めていますか?

「相場より少し安くしておけば売れるだろう」「競合他社と同じくらいにしておこう」—そう考えている方は多いかもしれません。
でも実は、値段の決め方ひとつで、同じ商品でも得られる利益がまったく変わってきます。

今回ご紹介するのは、出版業界で長年使われてきた「段階的な値づけ」の考え方です。
本の世界では、まず価格の高い単行本を出し、それが売れ切ったころに安い文庫本を出す、という方法がとられています。
最初から安い文庫本だけを出してしまうと、「多少高くても買いたい」という熱心なファンやこだわりのある読者から得られるはずの利益を、みすみす逃してしまうことになります。

このように、最初は高い価格に設定しておき、だんだんと値段を下げながら幅広い層のお客さまに届けていく戦略のことを、専門的には「価格スキミング」と呼びます。
「上の層から順番にすくいとっていく」というイメージで、アイスクリームをスプーンで上から少しずつ食べ進めるような感覚です。
むずかしそうに聞こえるかもしれませんが、じつはこの考え方、小さな会社や個人事業の現場でもじゅうぶん活かせるものです。

なぜ「最初から安くしない」のか

値段を安くすれば、それだけ多くの人が買ってくれる—そう考えるのは自然なことです。
でも、少し立ち止まって考えてみてください。

お客さまには、大きく分けて二つのタイプがいます。

ひとつは、「価値を感じたら価格を気にせず買う人たち」です。
新しいものへの関心が高く、周囲より早く手に入れることに喜びを感じたり、品質やブランドへのこだわりが強かったりします。
こうした方々は、多少値が張っても「それだけの価値がある」と感じれば躊躇なく購入します。

もうひとつは、「価格をしっかり見比べて、納得できる値段になったら買う人たち」です。
慎重で堅実な方が多く、人数としてはこちらのほうがずっと多い層です。

もし最初から低い価格を設定してしまうと、前者のお客さまからも「安い値段」でしか売ることができません。
せっかく高い価値を認めてくれているお客さまがいるのに、その分の利益を受け取り損ねてしまうのです。

最初に適切な高値をつけ、前者のお客さまにしっかり買っていただいてから、価格を段階的に下げて後者のお客さまにも届ける—この順番がとても大切です。

事例:地元の工務店が実践した「段階的な価格設定」

静岡県内のある小さな工務店の話をご紹介します。
この工務店は、長年にわたって地域の住宅リフォームを手がけてきましたが、ある時期から「省エネ・断熱リフォーム」に力を入れるようになりました。

最初のころ、職人の技術力は高くても、「うちは中小だから安くしないと選ばれない」という思い込みがあり、価格をなかなか上げられずにいました。
ところが、エネルギー価格の上昇が話題になりはじめたころ、「光熱費が劇的に下がる断熱リフォーム」として積極的に情報発信を始めたところ、反応が変わってきました。

「多少費用がかかっても、長い目で見てトクになるならやりたい」という、いわゆる「価値重視」のお客さまが問い合わせてくるようになったのです。

そこでこの工務店は、まず「プレミアムパッケージ」として、最新の断熱材と換気システムをセットにした高品質プランを前面に打ち出しました。
費用は一般的な相場よりもやや高めでしたが、「10年後の光熱費削減効果」を具体的な数字でお伝えすることで、価値を感じてくださったお客さまに次々と選んでいただけました。

その後、施工実績と口コミが積み重なったタイミングで、「ライトプラン」として部分的な断熱改修の手頃なメニューも追加しました。
「本当は興味あったけど、価格的に迷っていた」という方々がこのプランに飛びつき、新たな顧客層が広がっていきました。

結果として、この工務店は「高価格帯で利益をしっかり確保しながら、低価格帯で客数を広げる」という二段構えの仕組みをつくることができました。
最初から値下げ競争に加わっていたら、品質を保ちながら利益を出すことは難しかっただろう、とオーナーはふり返っています。

あなたのビジネスで活かすには

この考え方を自分のビジネスに応用するとき、大切なのは次の三つです。

「価値を伝える」ことを先行させる

高い価格が受け入れられるためには、それだけの価値がお客さまに伝わっている必要があります。
「なぜこの値段なのか」を丁寧に説明できるようにしておきましょう。
実績、品質のこだわり、他との違い—言葉にして発信することが第一歩です。

段階は「2〜3段」が現実的

あまり細かく段階を設けると管理が複雑になります。
「まず高付加価値プランで先行し、その後スタンダードプランを展開する」という2段構えが、小さな会社では取り組みやすいでしょう。

値下げのタイミングを決めておく

「いつ、どんな条件になったら価格を下げるか」をあらかじめ決めておくことが重要です。
なんとなく値下げをすると、ブランドイメージが崩れたり、既存のお客さまに不信感を与えたりすることがあります。
季節の切り替わり、新商品の投入時期、一定の販売数を超えたとき—など、自分なりの基準を持っておきましょう。

まとめ

「最初は高く、だんだん安く」という値づけの考え方は、決して大企業だけのものではありません。
むしろ、地域に密着した小さな会社や個人事業だからこそ、お客さまとの信頼関係を丁寧に築きながら実践できる戦略です。

すべてのお客さまに最初から安く提供しようとすると、価値を認めてくれる方からの適正な対価を受け取れず、じわじわと体力を削られていきます。
一方で、「この人たちにはこの価格で、次にはこの層へ」という順番を意識するだけで、同じ商品・サービスでも得られる利益がぐっと変わってきます。

値段を下げることはいつでもできます。
でも、一度下げた値段を上げることは、なかなかむずかしい。
だからこそ、最初の価格設定に自信を持つことが大切です。

あなたの商品やサービスには、きっとそれだけの価値があります。
その価値を正当に受け取ることが、長く安定した経営への、確かな一歩になるはずです。

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