心理的安全性は「行動」で作られる
はじめに:なぜ「頑張れ」では人は動かないのか
「もっと積極的に意見を出してほしい」「チームで助け合ってほしい」
経営者として、こうした言葉を社員に伝えたことがある方は多いのではないでしょうか。
そして、その言葉がなかなか届かず、もどかしい思いをされた経験もあるかもしれません。
言っていることは正しい。
でも、言っただけでは人は動かない。
これは多くの職場で起きている現実です。
近年「心理的安全性」という言葉が注目されています。
これは、チームの中で自分の意見を言っても否定されない、失敗しても責められないという安心感のことです。
Googleの研究でも、成果を出すチームに共通する最も重要な要素として挙げられました。
しかし、「うちも心理的安全性のある職場にしよう」と思っても、「みんな、遠慮なく発言してくれ」と号令をかけるだけでは、ほとんど変化は起きません。
なぜでしょうか。
そして、どうすれば本当にチームを変えることができるのでしょうか。
今回は、「気持ち」ではなく「行動」に目を向けるという、シンプルだけれど効果的な考え方をご紹介します。
背景:精神論が効かない理由
「やる気」や「自信」は目に見えない
「やる気を出せ」「自信を持て」「積極的になれ」
こうした言葉には、ある共通点があります。
それは、どれも目に見えない「心の中」のことを指しているという点です。
たとえば、「自信を持ってプレゼンしてこい」と部下に言ったとします。
でも、「自信を持つ」とは具体的に何をすればいいのでしょうか。
自信というのは、スイッチを押せばパッとつくライトのようなものではありません。
「持て」と言われて持てるものでもありません。
これは、料理を作ったことがない人に「おいしく作って」と言うようなものです。
おいしい料理を作るには、食材の選び方、火加減、味付けのタイミングなど、具体的な手順があります。
「おいしく」という結果だけを求めても、そこに至る道筋がわからなければ、料理は上達しません。
行動の「ラベル」という考え方
ここで発想を転換してみましょう。
「自信がある人」とは、どんな人でしょうか。
少し想像してみてください。
おそらく、はきはきと話す、背筋が伸びている、相手の目を見て話す、堂々とした身振り手振りをする……そんなイメージが浮かぶのではないでしょうか。
つまり、私たちが「自信がある」と感じるのは、その人の心の中を見ているのではなく、その人の「行動」を見ているのです。
逆に言えば、「自信」とは、いくつかの行動パターンに貼られた「ラベル」のようなものだと考えることができます。
「やる気がある」「積極的だ」「協調性がある」といった評価も同じです。
すべて、その人がとっている行動の「まとめ」に過ぎないのです。
本論:「行動」にフォーカスすると何が変わるか
心の中を変えなくても、結果は変えられる
この考え方のいいところは、「心の中を変えなくても、行動を変えれば結果が変わる」という点です。
たとえば、本人が「自分には自信がない」と思っていたとしても、大きな声で話し、姿勢を正し、相手の目を見て、笑顔でプレゼンをすれば、聞いている人には「自信を持って話している人」に見えます。
そして何より、その行動によって「話が伝わる」「提案が通る」という本来のゴールに近づくことができます。
大切なのは、「自信があるかどうか」ではなく、「ゴールに近づく行動がとれているかどうか」なのです。
「何をすればいいか」を具体的にする
行動にフォーカスすることの最大のメリットは、「何をすればいいかがはっきりする」ことです。
「もっと自信を持て」と言われても、何をしていいかわかりません。
でも、「声のボリュームを上げてみよう」「相手の目を見て話してみよう」「ゆっくり、はっきり話してみよう」と言われれば、具体的に取り組むことができます。
しかも、こうした行動は「練習」で上達します。
自信という曖昧なものを追い求めるよりも、具体的なスキルを一つずつ身につけていくほうが、はるかに確実で、成長も実感しやすいのです。
事例:電話対応が苦手だった新人が変わった話
ある小さな建設会社での話です。
入社2年目の事務スタッフAさんは、電話対応がとても苦手でした。
お客様からの電話が鳴るたびに緊張し、声が小さくなり、しどろもどろになってしまいます。
上司は「もっと落ち着いて」「自信を持って対応して」と声をかけていましたが、なかなか改善しませんでした。
あるとき、社長がアプローチを変えました。
「Aさん、電話対応で『落ち着いている』というのは、具体的にどんな行動だと思う?」
Aさんは考えました。「えっと……ゆっくり話すこと、でしょうか」
「そうだね。他には?」
「声を少し低くする、とか……あと、相手の話を最後まで聞く、とかですか?」
「いいね。じゃあ、まずその3つだけ意識してみよう。落ち着いているかどうかは気にしなくていい。この3つの行動ができているかどうかだけ、チェックしてみて」
社長は、電話対応のあとにAさんと短い振り返りをする時間を設けました。
「今の電話、ゆっくり話せてた?」「相手の話、最後まで聞けた?」と、行動だけを確認します。
2週間ほど続けると、Aさんの電話対応は見違えるように変わりました。
本人は「まだ緊張します」と言っていましたが、周囲から見ると、とても落ち着いた対応に見えるようになっていたのです。
ポイントは、「落ち着く」という曖昧なゴールを、「ゆっくり話す」「声を低くする」「相手の話を最後まで聞く」という具体的な行動に分解したことです。
そして、心の状態ではなく、行動ができたかどうかだけを振り返るようにしたこと。
これによって、Aさんは「自分にもできる」という手応えを感じながら、着実に成長することができました。
職場で「行動にフォーカスする」を実践するには
この考え方を職場に取り入れるには、いくつかのコツがあります。
まず、「なってほしい状態」を「行動」に翻訳することです。
「積極的になってほしい」→「会議で最低1回は発言する」「わからないことがあれば、その日のうちに質問する」
「協調性を持ってほしい」→「他の人が忙しそうなとき、手伝えることがないか声をかける」「チャットでお礼や感謝を伝える」
このように、求める姿を具体的な行動レベルに落とし込むことで、相手も「何をすればいいか」がわかりやすくなります。
次に、フィードバックも行動に対して行うことです。
「やる気が足りない」ではなく、「今日の会議では発言がなかったね。何か意見はあった?」と聞く。
「自信がついてきたね」ではなく、「最近、声が大きくなって、とても聞き取りやすくなったよ」と伝える。
行動に対するフィードバックは、受け取る側も納得しやすく、次に何をすればいいかが明確になります。

まとめ:明日からできる小さな一歩
「気持ちを変えろ」と言っても、人はなかなか変われません。
でも、「この行動をやってみよう」と伝えれば、一歩を踏み出すことができます。
今日お伝えしたことを、3つにまとめます。
「自信」や「やる気」は、行動の集まりに貼られたラベルである
心の中を変えようとするより、行動を一つずつ変えるほうが確実です。
求める姿を「具体的な行動」に翻訳する
「積極的に」ではなく「会議で1回発言する」のように、誰が見てもわかる形にしましょう。
フィードバックは行動に対して行う
性格や心の持ちようではなく、「何をしたか」「何をしなかったか」を話題にしましょう。
経営者として社員に何かを伝えるとき、「気持ちの問題」にしてしまうと、お互いにもどかしい思いをします。
でも、「行動の問題」として捉え直せば、具体的な改善策が見えてきます。
心理的安全性のある職場も、一人ひとりの小さな行動の積み重ねから生まれます。
まずは、ご自身の周りで「どんな行動が増えたらいいか」を考えてみてはいかがでしょうか。

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