目標の意味がチームを変える
なぜ、同じ仕事をしているのに、あるチームは輝き、別のチームは沈むのか
「うちのスタッフ、なかなか自分から動いてくれなくて……」
そんな悩みを持つ経営者の方は、とても多いと思います。
指示したことはやってくれる。
でも、それ以上はない。
言われたことだけをこなして、アイデアも出てこない。
チームに活気がない。
実は、この問題の根っこは「やる気の問題」ではないことが多いのです。
原因は、「目標の立て方」にあります。
今回は、世界中から注目を集めた日本のある清掃チームの変革と、中小企業でも活かせる「目標設定の考え方」についてお伝えします。
「ただの掃除」が、世界が注目する「劇場」に変わった日
JR東日本グループに「テッセイ(TESSEI)」という新幹線の車内清掃を専門とする会社があります。
新幹線がホームに到着してから再び出発するまでの、わずか7分間で約1,000席の車内を清掃するチームです。
かつてのチームは、ご想像の通り「作業」をこなすだけの集団でした。
掃除の質はスタッフによってまちまちで、出発する新幹線へのお辞儀もバラバラ。
なかには「こんな仕事をしていると知られたくない」と感じているスタッフもいたといいます。
乗客が子どもに「勉強しないと、将来あんな仕事しかできなくなる」と言い聞かせる場面を目にすることもあったそうです。
チームの士気は低く、当然ながらパフォーマンスも上がりませんでした。
ここで会社が取り組んだのが、目標の「意味」を根本から変えることでした。
掲げた目標はこうです。
・意義目標:「『新幹線劇場』のキャストとして、お客様に感謝感激を与えよう」
・成果目標:「7分でお客様に温かな思い出を持ち帰っていただく」
・行動目標:「さわやか・あんしん・あったか」
「掃除をする人」ではなく、「日本の技術力を世界に体感させる劇場のキャスト」として自分たちを位置づけたのです。
この言葉の変換が、チームを劇的に変えました。
新幹線を黙礼で出迎え、ホームで乗客に向けて一列に並んでお辞儀をし、出発する車両に深く頭を下げる。
その姿に、思わず拍手を送る乗客が現れるようになりました。
さらに驚くべきことは、スタッフ自身がアイデアを出し始めたことです。
夏場にアロハシャツや浴衣を着るアイデア、季節の花をあしらった髪飾り、トイレの使い方の多言語表示、道具をまとめて運ぶための専用バッグ……。
これらはすべて、現場のスタッフから自発的に生まれたものです。
フランスの鉄道大臣が視察に訪れた際、「新幹線のシステムもほしいが、あの清掃チームこそ持って帰りたい」と語ったほどです。
「目標」には、3つの種類がある
テッセイの事例が教えてくれるのは、目標には3つの層があるということです。
①行動目標:「何をするか」を示す目標。
「毎朝9時にミーティングをする」「電話は3コール以内に出る」といったものです。
②成果目標:「何を達成するか」を示す目標。
「今月の売上を10万円増やす」「顧客満足度を上げる」などです。
③意義目標:「なぜやるのか」「何のためにやるのか」を示す目標。
これが、人の心に火をつける目標です。
多くの中小企業では、①と②だけが設定されています。
「売上目標を達成しろ」「ミスをなくせ」というメッセージだけでは、スタッフは「やらされている」という感覚から抜け出せません。
でも、③の意義目標が加わると、仕事の意味が変わります。
「なぜこの仕事が大切なのか」「自分はどんな価値を生み出しているのか」が見えてくると、人は自ら考え、動き始めるのです。
別の事例:地方の小さな印刷会社の変革
同じような変化は、規模の小さな会社でも起きています。
ある地方の印刷会社(スタッフ8名)の話です。
この会社では長年、「正確に、早く、安く印刷する」ことを目標に掲げていました。スタッフは技術的には優秀でしたが、仕事への情熱は薄く、新しいアイデアもなかなか出てきません。
離職率も高く、採用のたびに手間がかかるという状況が続いていました。
ある年、社長が取引先の葬儀社から「印刷した式次第を手にした遺族が、涙を流しながらお礼を言いにきた」という話を聞きました。
「こんな大事な場面に、うちの印刷物が使われているんだ」と、社長自身が初めて実感した瞬間でした。
そこで社長は、目標を言い直すことにしました。
「私たちは”印刷物”を作っているのではない。人生の大切な瞬間を、形にする仕事をしている」
この一言を社内で共有し、会社の理念として掲げました。
すると、少しずつ変化が起き始めました。
スタッフが自ら「結婚式の招待状のデザインをもっと温かみのあるものにしたい」と提案するようになりました。
卒業記念の冊子を作る際に、「写真の配置をもう少し工夫して、親御さんが見て涙が出るような仕上がりにしよう」と話し合いが起きるようになりました。
売上も徐々に上がりましたが、社長が最も喜んだのは「スタッフが仕事の話を楽しそうにするようになった」ことだと言います。
離職率も下がり、「ここで働くことに誇りを感じている」と言ってくれるスタッフが現れました。
意義目標が変わることで、仕事への向き合い方が変わった好例です。
あなたの会社の「意義目標」は、言葉になっていますか?
中小企業の経営者の多くは、心のどこかに「この仕事が誰かの役に立っている」という思いを持っています。
でも、それがスタッフに伝わっていないことが多い。
意義目標を作るために、難しい言葉は必要ありません。
次の問いに答えてみてください。
「うちの仕事が、お客さんの生活のどんな場面を支えているだろう?」
その答えが、あなたの会社の意義目標の種になります。

まとめ:目標の「意味」を変えると、人は変わる
今回のポイントを整理します。
目標には「行動目標・成果目標・意義目標」の3つの層があります。
多くの会社では行動目標と成果目標は設定されていますが、意義目標が言語化されていないことがほとんどです。
意義目標とは「なぜこの仕事をするのか」「自分たちは何のために存在しているのか」を示す言葉です。
これが明確になると、スタッフは「やらされている感覚」から「自分ごと」として仕事に向き合えるようになります。
新幹線清掃チームのテッセイも、地方の印刷会社も、変えたのは「仕事の量」でも「報酬の額」でもありませんでした。
変えたのは、仕事の「意味の言葉」だけです。
スタッフが自ら考え、動き、アイデアを出すチームは、ある日突然生まれるものではありません。
経営者がまず「この仕事には、こんな意味がある」と信じ、それをきちんと言葉にして伝えることから始まります。
あなたのチームには、どんな「意義目標」がありますか?
ぜひ、この機会に考えてみてください。
