創造的模倣による中小企業の成長戦略
はじめに:「人の真似」は恥ずかしいことではない
「人の真似をするのは恥ずかしい」—そう感じている経営者の方は少なくないでしょう。
独自のアイデアで勝負したい、という気持ちはとても自然なことです。
しかし、世界的に成功した企業の歴史をひもとくと、多くのビジネスが「真似ること」からスタートしています。
大切なのは、ただ「コピーする」のではなく、「自分たちの状況に合わせて変えていく」こと。
今回は、スターバックスとドトールという、日本人に最も馴染みのある二つのコーヒーチェーンを例に、「真似て、変えて、超える」 という考え方を解説します。従業員10名前後の中小企業や個人事業主の皆さんが、明日からの経営にどう活かせるか、一緒に考えていきましょう。
背景:同じヨーロッパを見て、なぜ真逆のビジネスが生まれたのか
スターバックスの創業者ハワード・シュルツ氏は、1980年代にイタリアを旅したとき、地元の人々がエスプレッソバーに集い、バリスタと会話を楽しみ、お互いに顔なじみになっていく光景に衝撃を受けました。
「この場の雰囲気をアメリカに持ち帰りたい」と直感したのです。
一方、ドトールの創業者・鳥羽博道氏は、フランスのカフェで気軽に立ち寄れる文化に注目しました。
さらにドイツやスイスも視察し、コーヒーの製法、働く環境の整備、価格設定など、複数の国から「いいとこどり」をしていきました。
ところが、二人が参考にしたモデルは、そのままでは機能しませんでした。
シュルツ氏はイタリアのエスプレッソバーを忠実に再現しようとしました。
立ち飲みスタイル、オペラのBGM、イタリア語のメニュー、バリスタが着る蝶ネクタイ—しかし、どれもアメリカのお客さんには受け入れられなかったのです。
なぜか。
スターバックスの本拠地シアトルは、アメリカで最も雨が多い街のひとつです。
人々は雨宿りできる温かい場所を求めていた。
「さっと飲んで出ていく」立ち飲みスタイルより、「ゆったりと長居できる空間」こそが求められていたのです。
ドトールも同様でした。
フランスでは、飲み物を運んでもらったときに同時に支払いを済ませる習慣があります。
しかし日本ではなじみがない。
また、低価格を実現するためには、セルフサービスと機械化が必要でした。
結果として、立ち飲みスタイルの「雰囲気」だけをフランスから借り、運営の仕組みはまったく別物を作り上げたのです。
どちらも、最初はそのままコピーしようとした。
しかし現地の文化、気候、習慣に合わせて変えていくうちに、独自のビジネスモデルが生まれた。
これが「真似て、変えて、超える」 の本質です。
事例:地方の整骨院が「都市型フィットネス」から学んだこと
少し身近な例で考えてみましょう。
ある地方都市で整骨院を営むAさん(従業員7名)は、都市部で流行していたパーソナルトレーニングジムのビジネスモデルに注目しました。
完全予約制・少人数制・高単価、という仕組みです。
「うちにも応用できるかもしれない」と思ったAさんは、まずそのモデルをそのまま再現しようとしました。
ところが、すぐに壁にぶつかりました。
地方の患者さんは「気軽に立ち寄れること」を重視していた。
完全予約制にしたら「面倒だ」と言われてしまったのです。
また、高単価のプランは、都市部ほど受け入れてもらいにくかった。
そこでAさんは立ち止まって考えました。
「真似るべきは仕組みそのものではなく、その裏にある考え方だ」と。
都市型ジムが大切にしていたのは、「一人ひとりに向き合う丁寧なケア」と「継続して通えるサポート体制」でした。
Aさんはそこだけを取り出して、地元の文化に合わせて変えていきました。
予約は任意にしながらも、定期的に通う患者さんには専任スタッフをつける「担当制」を導入。
高額パッケージは作らず、月ごとのケアプランを提案するようにしたのです。
結果、リピーター率が大幅に向上し、口コミで新規患者も増えていきました。
「いいところを見抜き、自分たちの状況に合わせて変えた」—スターバックスとドトールが辿ったプロセスと、まったく同じです。
実践:「真似て、変えて、超える」3つのステップ
ここまでの事例から、この考え方には共通する3つの流れがあることがわかります。
ステップ① 表面ではなく「本質」を観察する
シュルツ氏は500軒近いエスプレッソバーを歩き回り、ノートに書き、写真を撮り、動画を残しました。
観察していたのは店の「見た目」ではなく、「なぜこの空間は人を惹きつけるのか」という理由です。
鳥羽氏も、短い視察期間でありながら「立ち飲みスタイルが最終形になる」と予見できたのは、店の作りではなく、人々の時間の使い方や行動を観察していたからです。
他社のうまくいっている仕組みを参考にするとき、「何が人気なのか」だけでなく「なぜ人気なのか」を深く考えてみてください。
そこに真似るべき本質が隠れています。
ステップ② 自分たちの「お客さん」に照らし合わせて変える
スターバックスはシアトルの雨の多さに、ドトールは時間を大切にする日本人の習慣に合わせて変えていきました。
あなたのお客さんはどんな生活をしているか。何を面倒だと感じるか。
何を心地よいと思っているか。
そこをじっくり考えることが、「ただのコピー」と「真似て、変えて、超える」を分ける分岐点です。
ステップ③ 失敗を恐れず試し、そこから学ぶ
シュルツ氏もオペラのBGMや蝶ネクタイを実際に試して、うまくいかないと気づきました。
鳥羽氏もフランス式の支払い方法を導入してみて、日本では通用しないと学びました。
最初から完璧な答えはありません。
試してみて、お客さんの反応を見て、修正していく。
その繰り返しこそが、独自のビジネスを育てる土台になります。

まとめ:「恥じることなく真似て、堂々と変えよ」
ドトールの鳥羽氏はこんな言葉を残しています。
「優れた人物、優れたものがあったら、恥じることなく大いに見倣って勉強すべき」。
これは「何でもコピーしていい」という意味ではありません。
優れたものを徹底的に観察し、その本質を学び、自分たちの状況に合わせて変えていく—そのサイクルを繰り返すことが、オリジナルのビジネスを作る近道だということです。
スターバックスもドトールも、最初は「本場を忠実に再現しよう」という純粋な気持ちから始まりました。
試行錯誤の末に失敗を重ね、そこから学んだことを積み上げていった結果として、誰も想像しなかった独自のスタイルが生まれたのです。
従業員10名前後の中小企業や個人事業主の皆さんには、大企業のような研究開発費も専門チームもないかもしれません。
しかしだからこそ、この考え方は強力な武器になります。
同業他社のうまくいっている仕組み、異業種の接客スタイル、地域外の先行事例—観察する対象はどこにでもあります。
「そのまま真似よう」ではなく、「なぜうまくいっているのかを理解して、自分たちに合った形に変えていこう」。
その姿勢を持つだけで、日々の情報収集や他社への見方がガラリと変わってくるはずです。
あなたのビジネスで、「真似て、変えて、超える」 を試せるものは何かありますか?
