顧客との信頼を築く「興味→傾聴→肯定」のコミュニケーション
はじめに:なぜ「売り込み」は嫌われるのか
「いい商品なのに、なかなか売れない」「説明すればするほど、お客様の表情が曇っていく」—こんな経験はありませんか?
実は、多くの場合、商品やサービスの質が問題なのではありません。
問題は「伝え方」、もっと言えば「お客様との会話の進め方」にあるのです。
人は誰でも、「売り込まれている」と感じると、心のシャッターを下ろしてしまいます。
これは防衛本能のようなもので、どんなに良い提案でも、このシャッターが下りた状態では届きません。
では、どうすればお客様に心を開いてもらい、こちらの提案を素直に聞いてもらえるのでしょうか。
その答えが、今回ご紹介する「興味→傾聴→肯定」というコミュニケーションのリズムです。
「興味→傾聴→肯定」とは何か
このリズムは、お客様との会話を自然に深めていくための「型」のようなものです。
料理でいえばレシピ、音楽でいえば楽譜のようなもので、この流れに沿って会話を進めることで、誰でもお客様との良い関係を築きやすくなります。
それぞれの要素を見ていきましょう。
【興味】まずは相手を知りたいと思う
最初のステップは、お客様に対して純粋な興味を持つことです。
「この人のことをもっと知りたい」「この会社がどんな歴史を歩んできたのか聞いてみたい」という気持ちを持つことが出発点になります。
ここで大切なのは、「売るため」ではなく、「知りたいから」という純粋な動機です。
人は、自分に本当に興味を持ってくれている相手には、自然と心を開くものです。
【傾聴】耳を傾けて話を引き出す
興味を持ったら、次は傾聴です。
ただ聞くだけでなく、質問を交えながら、お客様の話を引き出していきます。
このとき、いきなり踏み込んだ質問をするのではなく、段階を踏んでいきます。
順番としては、「会社のこと→個人のこと→現状→課題」という流れが自然です。
たとえば、こんな具合です。
・「御社は創業何年になるのですか?」(会社のこと)
・「社長はどんなきっかけでこのお仕事を始められたのですか?」(個人のこと)
・「今、一番力を入れていらっしゃることは何ですか?」(現状)
・「何かお困りのことはありますか?」(課題)
また、一つの話題を深めるときには、「たとえば?」「なぜ?」「ということは?」という言葉が役立ちます。
これらの言葉を使うことで、お客様は自分の考えをより詳しく話してくれるようになります。
【肯定】受け止めて認める
お客様が話してくださったら、それをしっかりと受け止めます。
これが「肯定」です。
肯定とは、相手の言葉を認め、受け入れることです。
「なるほど、そうだったのですね」「それは大変でしたね」「素晴らしいですね」といった言葉で、お客様の話を認めます。
ここで絶対にやってはいけないのが、反論や否定です。
「でも、それは違うと思います」「いや、こうした方がいいですよ」といった言葉は、せっかく開きかけた心のドアを閉ざしてしまいます。
なぜこのリズムが効果的なのか
このリズムが効果的な理由は、人間の心理に沿っているからです。
人は、自分の話を聞いてもらえると嬉しくなります。
さらに、その話を認めてもらえると、「この人は自分のことを分かってくれている」と感じます。
そうなると、今度は相手の話も聞いてみたいという気持ちが生まれます。
つまり、「興味→傾聴→肯定」のリズムを繰り返すことで、お客様との間に自然な信頼関係が生まれるのです。
この信頼関係ができた状態で初めて、商品やサービスの提案をします。
すると、お客様は「売り込まれている」とは感じません。
「この人は自分のことを分かった上で、役に立つ情報を教えてくれている」と感じるのです。
実際の事例:町の工務店の場合
ある地方の小さな工務店の話です。
社長の田中さん(仮名)は、腕には自信がありましたが、新規のお客様を増やすことに苦労していました。
以前の田中さんは、お客様と会うと、すぐに自社の技術力や実績を説明していました。
「うちは創業30年で」「この工法は他社にはできない」「価格も良心的で」—熱心に話せば話すほど、お客様の反応は薄くなっていきました。
あるとき、田中さんは「興味→傾聴→肯定」のリズムを学び、試してみることにしました。
次にお客様のお宅を訪問したとき、田中さんは自社の説明をする代わりに、こう切り出しました。
「このお家、とても素敵ですね。築何年くらいになるのですか?」
お客様は少し驚いた様子でしたが、「もう25年になります」と答えてくれました。
「25年ですか。大切に住んでこられたのですね。何かこだわって建てられた部分はありますか?」
「実は、この縁側は妻がどうしても欲しいと言って……」
お客様は、家を建てたときの思い出を話し始めました。
田中さんは「そうだったのですね」「奥様、喜ばれたでしょうね」と相槌を打ちながら、話を聞きました。
話が一段落したところで、田中さんは「たとえば、今のお住まいで気になっているところはありますか?」と尋ねました。
すると、お客様は「実は、冬になると縁側の辺りが寒くて……でも、妻の思い入れがあるから、どうしたものかと思っていたんです」と、本音を話してくれました。
ここで初めて、田中さんは「実は、縁側の雰囲気を残したまま断熱性を高める方法があるんです」と提案しました。
お客様は身を乗り出して聞いてくれました。
そして、「ぜひ詳しく教えてください」と言ってくれたのです。
以前なら、いきなり断熱リフォームの説明をしていたかもしれません。
でも、それでは「営業トーク」に聞こえてしまいます。
お客様の話をしっかり聞き、気持ちを理解した上で提案したからこそ、「自分のための提案」として受け止めてもらえたのです。
よくある疑問:肯定しすぎると提案できなくなる?
「お客様の話を肯定してばかりいると、自分の提案ができなくなるのでは?」と心配される方がいます。
でも、実際は逆です。
しっかりと肯定することで、お客様は「この人は自分のことを分かってくれている」と感じます。
その信頼があるからこそ、提案を素直に聞いてもらえるのです。
肯定なしに提案をするのは、初対面の人にいきなり「こうした方がいいですよ」とアドバイスするようなもの。
たとえ正しいアドバイスでも、なかなか受け入れてもらえません。
反対に、十分に肯定していれば、多少踏み込んだ提案をしても、「自分のことを思って言ってくれている」と受け止めてもらえます。
明日からできる実践のヒント
最後に、このリズムを実践するためのヒントをお伝えします。
まず、お客様と会う前に、「この方のことを知りたい」という気持ちを意識してみてください。
売上のことは一旦脇に置いて、純粋に相手に興味を持つことから始めます。
次に、傾聴するときは「会社のこと→個人のこと→現状→課題」の順番を意識します。
いきなり「お困りのことは?」と聞くのではなく、まずは相手の背景を理解することが大切です。
そして、相手の話には必ず肯定の言葉を返します。
「なるほど」「そうだったのですね」「それは素晴らしいですね」といった言葉を、心を込めて伝えましょう。

まとめ
「興味→傾聴→肯定」のリズムは、お客様との信頼関係を築くための基本的な「型」です。
このリズムを身につけることで、あなたの提案は「売り込み」ではなく「お役立ち」として届くようになります。
お客様は心を開いて話を聞いてくれるようになり、結果として、お互いにとって良い関係が生まれます。
難しいテクニックは必要ありません。
相手に興味を持ち、耳を傾け、認める——この繰り返しです。
ぜひ、明日からのお客様との会話で試してみてください。

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