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「見えないビジョン」は伝わらない─社員の心に響く伝え方とは

「見えないビジョン」は伝わらない─社員の心に響く伝え方とは

見えないビジョンは伝わらない

はじめに─なぜ、あなたの想いは届かないのか

「うちには明確なビジョンがあるのに、社員がついてこない」

経営者の方から、こんなお悩みを聞くことがあります。
売上目標も掲げている、将来の展望も語っている、それなのに社員の目に輝きがない。
会議で話しても、どこか他人事のような反応が返ってくる。

実は、これはとても多くの経営者が抱えている悩みです。
そして、その原因は「ビジョンがないこと」ではなく、「ビジョンの伝え方」にあることがほとんどです。

今回は、なぜ経営者の想いが社員に届かないのか、そしてどうすれば届くようになるのかについて、お話しします。

「自分の言葉」で話していませんか?

経営者と社員の間には、見えない壁があります。
それは「視点の違い」という壁です。

たとえば、お寿司の魅力を伝えるとき、「冷やした生魚はおいしいですよ」と言われても、食欲はそそられませんよね。
事実としては間違っていませんが、相手の心には何も響きません。

ビジョンを語るときも、同じことが起きています。

「3年以内に売上を2倍にする」「業界でトップ10に入る」─経営者にとっては、胸が躍るような目標かもしれません。
でも、この言葉を聞いた社員は、どう感じるでしょうか。

「それで、私にどんな良いことがあるの?」
「また社長が数字の話をしている」
「忙しくなるだけじゃないか」

社員の頭には、こんな言葉が浮かんでいるかもしれません。

これは社員が悪いわけではありません。
人は誰でも、まず「自分にとってどういう意味があるか」を考えるものです。
経営者の視点から語られた言葉は、そのままでは社員の心に届かないのです。

「見えない」ビジョンは、ビジョンではない

ここで大切なことをお伝えします。

誰にも「見えない」ビジョンは、ビジョンとは呼べません。

経営者の頭の中には、会社の未来の姿がありありと浮かんでいるかもしれません。
でも、その絵が社員の頭の中に浮かんでいなければ、それはビジョンとして機能していないのです。

厄介なのは、社員は経営者の前では「わかりました」「頑張ります」と言うものだということ。
本当は腑に落ちていなくても、そう言わざるを得ない空気があります。
だから、経営者は「伝わっている」と思い込んでしまう。
この「伝わっているつもり」が、問題を深刻にしていきます。

「うちの会社にはビジョンがない」と社員が言うのを聞いて、腹を立てる経営者は少なくありません。
「ビジョンははっきりしているじゃないか!」と。
でも、社員に見えていなければ、それは「ない」のと同じなのです。

ストーリーで「見える化」する

では、どうすればビジョンを「見える」形で伝えられるのでしょうか。

答えは、ストーリーを使うことです。

有名な話をひとつご紹介しましょう。

ある人が建設現場を通りかかりました。そこでは三人の職人がレンガを積んでいます。

・一人目の職人に「何をしているのですか?」と尋ねると、彼はぶっきらぼうに答えました。
「レンガを積んでいるんだ」

・二人目の職人に同じ質問をすると、こう答えました。
「壁を作っているんだよ」

・三人目の職人は、鼻歌を歌いながら楽しそうに作業をしていました。
同じ質問をすると、彼は胸を張り、にっこり笑ってこう答えたのです。
「大聖堂を建てているんだ」

三人とも、やっている作業は同じ「レンガ積み」です。
でも、仕事への向き合い方はまるで違います。

三人目の職人には、完成した大聖堂の姿が「見えて」いたのです。
自分の仕事が何につながっているのか、どんな意味があるのかが、はっきりと見えていた。
だから、同じ作業でも、やりがいを持って取り組めたのです。

経営者がすべきことは、まさにこれです。
社員の頭の中に「大聖堂」を描き出すこと。
抽象的な数字や目標ではなく、具体的で、心に響く絵を見せることなのです。

事例─小さな印刷会社が見つけた「大聖堂」

ある地方の印刷会社の話をご紹介します。
従業員は8名、創業30年の小さな会社です。

この会社の社長は、長年「売上を伸ばそう」「品質を上げよう」と社員に呼びかけてきました。
でも、社員の反応はいつも今ひとつ。
言われたことはやるけれど、どこか受け身で、新しいアイデアも出てこない。

あるとき、社長は一人の社員と雑談をしていて、こんな話を聞きました。

「この前、商店街のお祭りのチラシを刷ったじゃないですか。うちの子どもがそのチラシを学校からもらってきて、『お父さんの会社が作ったの?すごいね!』って言ってくれたんです。なんだか、嬉しかったですね」

社長は、はっとしました。

自分たちの仕事は「紙に印刷すること」ではない。
地域の人たちの「伝えたい」という想いを形にして、届ける仕事なのだ、と。

それから社長は、社員への語りかけ方を変えました。

「私たちは、地域の『届けたい想い』を届ける仕事をしている。お祭りの楽しさ、お店の新商品、学校の行事……誰かが誰かに届けたいと思っている想いを、私たちが形にしている。この町から私たちがいなくなったら、届かなくなる想いがたくさんある」

数字の目標は語りませんでした。
でも、社員の顔つきが変わりました。

ある社員は、納品先で「いつもきれいに刷ってくれてありがとう」と言われたエピソードを、朝礼で嬉しそうに報告するようになりました。
別の社員は、「もっと読みやすいレイアウトにしませんか」と自分から提案してくるようになりました。

「レンガを積んでいる」だけだった社員たちが、「大聖堂を建てている」という意識を持ち始めたのです。

ストーリーを語る勇気

ここまで読んで、「そんなことを言うのは恥ずかしい」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。

実際、ビジョンを語るストーリーには、「あざとい」「自己陶酔的だ」と思われるリスクがあります。
とくに日本では、大きな夢を堂々と語ることに照れを感じる文化があります。

でも、この恐怖心を乗り越えなければ、社員の心に響くビジョンは伝えられません。

大切なのは、「本物らしく」語ることです。
借り物の言葉ではなく、自分自身が本当に信じていること、心から実現したいと思っていることを語る。
その真剣さは、必ず伝わります。

もうひとつ知っておいていただきたいのは、同じ言葉でも、文字で読むのと、目の前で語られるのとでは、まったく印象が違うということです。
紙に書くと白々しく感じる言葉でも、経営者が真剣な表情で、社員の目を見て語れば、心に響くことがあります。

だから、朝礼で、会議で、あるいは飲み会の席で、恐れずに語ってみてください。

まとめ──社員の頭の中に「大聖堂」を

今回のポイントをまとめます。

ビジョンが伝わらない原因は、「経営者の視点」で語っているから。

売上目標や成長計画は、経営者にとっては興奮する内容でも、社員にとっては「自分ごと」になりにくいものです。

「見えない」ビジョンは、ビジョンではありません。

社員の頭の中に具体的な絵が浮かばなければ、どんな立派な言葉も空回りします。

ストーリーを使って「見える化」することが大切です。

抽象的な数字ではなく、「自分たちの仕事がどんな意味を持つのか」「どんな未来につながっているのか」を、具体的な物語として伝えましょう。

そして、語る勇気を持つこと。

恥ずかしさや、批判されることへの恐れを乗り越えて、自分の言葉で語ってみてください。

社員を動かしたければ、彼らの頭の中に「大聖堂」を描き出すこと。
明日から始められる、最も大切な経営者の仕事のひとつです。

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