利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「解決策を聞く質問」がお客様の心を動かす理由 ~欲求を深め、行動を促す会話術~

「解決策を聞く質問」がお客様の心を動かす理由 ~欲求を深め、行動を促す会話術~

顧客の潜在的なニーズを引き出す質問技法

はじめに

「商品の説明をしっかりしているのに、なかなか成約につながらない」

そんな悩みを抱える経営者や営業担当者の方は少なくありません。
実は、売れない原因の多くは「説明の内容」ではなく、「会話の順番」にあります。

お客様が「買いたい」と思う瞬間は、商品の魅力を伝えられたときではありません。
自分自身の「困りごとの深さ」に気づいたときです。
今回ご紹介するのは、その気づきを自然に引き出すための質問の技術です。

背景:なぜ「欲求を深める質問」が必要なのか

営業や商談というと、「いかに商品を上手く説明するか」に力を入れがちです。
しかし、お客様の立場から考えると、説明を聞いている間は「売られている」という感覚があり、自然と防衛本能が働きます。

一方、「あなたの状況を教えてください」「それに対して何か取り組んでいますか?」という質問を受けると、お客様は考え始めます。
自分の問題を自分の口で語ることで、その問題の深刻さを改めて実感するのです。

これは心理学でいう「自己説得」の効果です。
他人から言われたことより、自分が口にしたことのほうが、人は強く信じる傾向があります。
つまり、「うちの商品があなたの問題を解決します」と伝えるより、お客様自身に「これは何とかしなければ」と思ってもらう会話の流れを作ることが、実は最も効果的なアプローチなのです。

核となる会話の流れ

お客様の欲求(悩みや望み)を一通り聞いたあと、次の一言でフェーズを切り替えます。

「そのような中で、何か解決への行動はされているのでしょうか?」

この質問は、シンプルに見えて非常によく設計されています。
「そのような中で」という書き出しが、直前に話していた悩みや現状を自然に引き継ぎ、お客様に「そうそう、まさにその問題のことだ」と感じさせます。
そして「何か行動はされているか」と聞くことで、答えは大きく二つに分かれます。

「取り組んでいる」と答えた場合

まず、取り組んでいること自体を肯定し、「それは素晴らしいですね」と受け止めます。
そのうえで、次の質問に進みます。

「その成果はどんな感じですか?」

多くの場合、「まあまあです」「なかなか思うようにいかなくて」「やってはいるんですけど…」という、どこかモヤモヤした答えが返ってきます。
完全にうまくいっているなら、そもそもあなたとの相談が不要なはずです。

ここで大切なのは、その答えに対してしっかりと共感することです。
「そうですか、それは大変でしたね」「なかなか難しいですよね」という一言が、お客様との信頼関係を深めます。

そして「掘り下げ」に入ります。

・「たとえば、具体的にはどんな状況ですか?」
・「なぜ、うまくいかないとお感じですか?」
・「ということは、〇〇ということでしょうか?(オウム返し)」

この繰り返しによって、お客様は自分の問題をより明確に言語化できるようになります。
そして言語化すればするほど、「これは本当に何とかしなければ」という気持ちが強まっていきます。

「何もしていない」と答えた場合

こちらは一見ネガティブな答えに見えますが、実はチャンスです。

「なぜ、まだ動けていないのでしょうか?」

この質問で、「忙しくて時間がない」「何から手をつけていいかわからない」「費用が心配で」など、行動を妨げている本音が出てきます。
ここでも批判や否定は禁物です。
「それはそうですよね」とまず受け止める。
その共感が、次の提案を聞く耳を作ります。

事例:整体院オーナーの場合

ある整体院を一人で営む40代の院長先生が、新規患者の集客に悩んでいました。
チラシやSNSも試したものの、思うような効果が出ず、毎月の売上が安定しない状態が続いていました。

あるコンサルタントとの相談の中で、院長先生はこんな質問を受けました。

「そのような中で、何か集客に向けて取り組んでいることはありますか?」

「はい、Instagramを週に2〜3回更新しています」と答えた院長先生に、コンサルタントはさらに聞きます。

「その成果はどんな感じですか?」

「フォロワーは少し増えたんですが、実際に来院につながっているかというと、正直よくわからなくて…」

「なるほど、せっかく時間をかけて投稿しているのに、効果が見えにくいのはもどかしいですよね。たとえば、どんな投稿をしているときに反応が良いと感じますか?」

「そういえば、施術の”ビフォー・アフター”を載せたときは反応が良かったような気がします」

「ということは、専門性や効果が伝わるコンテンツに可能性があるということですね。それがなぜ続けられていないと思いますか?」

「写真を撮る手間と、何を書けばいいか迷ってしまって…」

この会話を通じて、院長先生は自分で「問題の核心」に気づきました。
「発信量が少ない」のではなく、「効果的なコンテンツの型ができていない」ことが本当の課題だったのです。

コンサルタントはその後、コンテンツのテンプレート化と投稿スケジュールの仕組み作りを提案しました。
院長先生は「まさにそれが必要だった」と、すぐに前向きに取り組み始めたそうです。

ポイントは、コンサルタントが最初から「SNSのやり方を教えます」と言わなかったことです。
質問を重ねることで、院長先生自身が課題を言語化し、解決策の必要性を実感できたからこそ、提案が自然と受け入れられたのです。

まとめ:質問は「売る道具」ではなく「気づきを届ける贈り物」

今回ご紹介した会話の流れを整理すると、次のようになります。

まず、欲求(悩みや望み)を丁寧に聞く。
そして「そのような中で、何か行動はされていますか?」と切り出す。
取り組んでいる場合はその成果を聞き、共感しながら掘り下げる。
まだ動けていない場合は、その理由を聞き、同じように共感する。

どちらの場合も、批判せず、焦らず、ただ「聞いて、深める」を繰り返します。

この会話の積み重ねがなぜ効果的かというと、お客様が「自分事」として問題を捉え直すからです。
人は、自分で気づいたことに対しては、自発的に動こうとします。
あなたが背中を押さなくても、「何とかしたい」という気持ちが自然と高まるのです。

忙しい中小企業の経営者ほど、日々の業務に追われて「大事な問題」を先送りにしがちです。
この質問の技術は、そんな方に「今こそ動くタイミングかもしれない」と気づいてもらうための、誠実なコミュニケーションの手段です。

売り込むのではなく、気づきを届ける。
その姿勢こそが、長期的な信頼と、本当の意味での「売れる営業」につながります。

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