組織が成果を出すための顧客の絞り込み
なぜ今、「顧客」の見直しが必要なのか
「お客様は神様です」という言葉を耳にすることがあります。
確かに、ビジネスにおいて顧客は大切な存在です。
しかし、実際に事業を進めていくと、「お客様」という言葉だけでは説明しきれない、さまざまな関係者がいることに気づきます。
従業員10名前後の中小企業や個人事業では、限られた人材と資金の中で最大限の成果を出すことが求められます。
そのためには、「誰のために、何を提供するのか」を明確にすることが不可欠です。
ところが、多くの経営者が「できるだけ多くの人に喜んでもらいたい」と考えるあまり、かえって力が分散してしまい、思うような成果が出せないという状況に陥っています。
ある経営学者は、組織が向き合うべき相手を二つに分けて考えることを提案しています。
これは、事業の焦点を絞り、限られた経営資源を効果的に使うための考え方です。
この視点を持つことで、「誰に力を注ぐべきか」が見えてきます。
二種類の「顧客」とは何か
組織が関わる相手は、大きく二つのグループに分けられます。
一つ目は「活動の対象となるお客様」です。
これは、あなたの会社の商品やサービスによって、実際に生活や人生が変わる人たちのことです。
たとえば、パン屋さんであれば毎朝パンを買いに来てくれる地域の方々、税理士事務所であれば税務や会計のサポートを必要としている経営者、美容院であれば髪を整えることで気分を一新したいお客様などが該当します。
この「活動の対象となるお客様」は、あなたの事業が存在する理由そのものです。
この人たちに満足してもらえなければ、事業は成り立ちません。しかし、ここで大切なのは、「すべての人を対象にしない」という決断です。
たとえば、パン屋さんが「あらゆる年代、あらゆる好みの人に喜ばれるパンを作ろう」と考えたらどうでしょう。
子ども向けの甘いパン、健康志向の方向けの全粒粉パン、高齢者向けの柔らかいパン、若者向けのおしゃれなパン……すべてを用意しようとすれば、材料も設備も人手も足りなくなります。結果として、どれも中途半端になり、「このパン屋さんといえばコレ」という特徴が生まれません。
むしろ、「健康を気にする30〜40代の女性」や「朝食に本格的なパンを求めるビジネスパーソン」など、ターゲットを明確にした方が、商品の質も上がり、お客様の満足度も高まります。
これが「顧客を絞る」ということです。
焦点を絞らなければ、エネルギーが四方八方に散らばってしまい、成果は上がりません。
二つ目は「パートナーとしての協力者」です。
これは、あなたの事業を支えてくれる人たちのことです。
具体的には、一緒に働いてくれる従業員、協力してくれる取引先、場合によってはあなたの事業を応援してくれる地域の方々や、資金面で支援してくれる金融機関なども含まれます。
この「パートナーとしての協力者」は、直接的に商品やサービスを受け取る相手ではありませんが、彼らの協力がなければ事業は成り立ちません。
たとえば、従業員が働きがいを感じられなければ、良いサービスは提供できません。
取引先との信頼関係が崩れれば、安定した仕入れができなくなります。
つまり、「活動の対象となるお客様」に最高の価値を届けるためには、「パートナーとしての協力者」にも満足してもらう必要があるのです。
具体的な事例で考えてみましょう
ある地方都市に、従業員8名の小さなクリーニング店がありました。
創業当初は「とにかくたくさんのお客様に来てもらいたい」という思いから、一般衣類のクリーニングから、革製品、着物、布団、カーテンまで、あらゆるクリーニングを請け負っていました。
しかし、品目が多いため専門的な技術を磨く時間がなく、仕上がりの品質にムラが出るようになりました。
従業員も「何でも屋」のような働き方で、達成感を感じにくくなっていました。
結果として、リピート率は低く、口コミも広がらず、売上は伸び悩んでいました。
そこで経営者は、思い切って方針を転換しました。
「活動の対象となるお客様」を「ビジネスシーンで高品質な衣類ケアを求める方々」に絞り込んだのです。
具体的には、スーツやワイシャツ、ブラウスといったビジネスウェアのクリーニングに特化し、シミ抜きや風合いの維持など、細部にこだわったサービスを提供することにしました。
同時に、「パートナーとしての協力者」である従業員への投資も行いました。
外部の専門研修に参加させ、繊維の知識やシミ抜き技術を学ばせたのです。
また、従業員同士で技術を共有する勉強会も定期的に開催し、全員が高い技術レベルを維持できるようにしました。
その結果、どうなったでしょうか。
まず、「ビジネスウェアのクリーニングならここ」という評判が地域に広がりました。
特に、地元の企業で働く方々や、営業職の方々からの支持を集め、リピート率が大幅に上昇しました。
「大切なプレゼンの前には必ずここでスーツをクリーニングする」というお客様も現れました。
従業員も、専門技術を持つプロフェッショナルとしての自覚が芽生え、仕事への誇りとやりがいを感じるようになりました。
離職率が下がり、チームワークも向上しました。
結果として、サービスの質はさらに高まり、売上も安定して成長するようになったのです。
このクリーニング店の成功は、「誰のために事業をしているのか」を明確にし、そこに経営資源を集中させたことにあります。
また、お客様だけでなく、従業員という「パートナーとしての協力者」にも目を向けたことが、持続的な成長につながりました。
あなたの事業に当てはめて考えてみる
では、あなたの事業ではどうでしょうか。
次の質問を自分に投げかけてみてください。
「活動の対象となるお客様」について
・自分の商品やサービスによって、本当に生活や人生が変わる人は誰ですか?
・その人たちは、具体的にどんな悩みや願望を持っていますか?
・現在、その人たちに十分な価値を提供できていますか?
「パートナーとしての協力者」について
・自分の事業を支えてくれている人は誰ですか?(従業員、取引先、協力者など)
・その人たちは、あなたの事業に関わることで、何を得たいと考えていますか?
・その人たちの満足度を高めるために、できることは何ですか?
この二つの視点を持つことで、「誰に何を提供すべきか」が明確になります。
そして、限られた時間とお金を、最も効果的な場所に投資できるようになるのです。

まとめ:焦点を絞ることが、成果への近道
「できるだけ多くの人に喜んでもらいたい」という思いは、とても素晴らしいものです。
しかし、小さな組織では、すべての人を満足させようとすると、かえって誰も十分に満足させられない結果になってしまいます。
大切なのは、「誰のために事業をしているのか」を明確にすることです。
まず、「活動の対象となるお客様」を絞り込みましょう。
あなたの商品やサービスによって、本当に人生が変わる人は誰でしょうか。
その人たちに焦点を当て、最高の価値を提供することに集中してください。
そして、「パートナーとしての協力者」にも目を向けましょう。
従業員、取引先、協力者など、あなたの事業を支えてくれる人たちが満足し、やりがいを感じられる環境を作ることが、最終的にはお客様への価値提供にもつながります。
焦点を絞ることは、選択肢を狭めることではありません。
むしろ、本当に大切なことに全力を注ぐことで、より大きな成果を生み出す戦略なのです。
今日から、「われわれの顧客は誰か?」という質問を、自分自身に、そして従業員と一緒に考えてみてください。
その答えが明確になったとき、あなたの事業は新しいステージへと進んでいくはずです。

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