限定性を活かした商品・サービスの価値向上
はじめに─同じ商品なのに、なぜ売れ方が違うのか
街を歩いていると、同じような商品やサービスを提供しているのに、繁盛しているお店とそうでないお店があることに気づきます。
品質に大きな差があるわけでもない。価格もそれほど変わらない。
それなのに、なぜこんなに差がつくのでしょうか。
その答えのひとつが、今回お伝えしたい「限定の力」と「言葉を変える力」です。
普段から目にしている商品やサービスでも、「誰に届けるか」「どこで届けるか」「いつ届けるか」を絞り込むだけで、お客様の目には「特別なもの」として映るようになります。
そして、その「特別さ」を表現するために言葉を工夫しようとすると、自然とビジネス全体の考え方が変わっていきます。
この記事では、中小企業や個人事業の経営者の皆さんに向けて、「限定」と「言葉」という二つの視点から、ビジネスを変えるヒントをお伝えします。
「限定する」と、なぜ特別になるのか
ありふれたものが輝き出す瞬間
たとえば「コーヒー」は、今やどこでも飲める、ありふれた飲み物です。
コンビニでも、ファストフード店でも、自動販売機でも買えます。
ところが、こんなコーヒーがあったらどうでしょう。
「毎朝5時に焙煎したての豆だけを使い、朝7時から9時までの2時間だけ提供する、働く人のためのモーニングコーヒー」
同じコーヒーでも、急に「特別なもの」に感じませんか。
ここで起きていることを整理すると、次の三つの「限定」が加わっています。
「時間」の限定:朝7時から9時までの2時間だけ
「人」の限定:働く人のため
「場所」の限定:(その店舗でしか飲めないという暗黙の前提)
この三つの限定が重なることで、「どこにでもあるコーヒー」が「ここでしか味わえない特別な一杯」に変わるのです。
人は「特別なもの」に引き寄せられる
私たちは日常的に、数えきれないほどの情報や選択肢に囲まれています。
その中で、すべてに注意を払うことは不可能です。
だからこそ、「これは自分のためのものだ」「今しか手に入らない」と感じたときに、初めて足を止めます。
限定することは、お客様の心に「これは見逃せない」という気持ちを生み出します。
逆に言えば、「誰にでも、いつでも、どこでも」という商品やサービスは、誰の心にも深く届かない可能性があるのです。
事例:地方の小さな和菓子店の挑戦
「普通のどら焼き」からの脱却
ある地方都市に、創業40年の小さな和菓子店がありました。
看板商品は昔ながらのどら焼き。
地元では知られた存在でしたが、近年は大手チェーンやコンビニスイーツに押され、売上は年々下がっていました。
三代目の店主は悩みました。
「味には自信がある。でも、お客さんが減っている。どうすればいいのか」。
そこで店主が取り組んだのが、「限定」という発想でした。
三つの限定で生まれ変わったどら焼き
まず、「人」を限定しました。
「受験生を応援するどら焼き」というコンセプトを打ち出したのです。
次に、「時間」を限定しました。
販売期間を、受験シーズンの12月から3月までの4か月間だけに絞りました。
そして、「場所」を限定しました。
店舗販売のみとし、通信販売は行わないことにしました。
商品名も「合格どら焼き」とし、包装紙には「頑張るあなたを応援します」というメッセージを添えました。
中身は従来と同じどら焼きです。
しかし、この三つの限定によって、商品の「意味」が変わりました。
結果として何が起きたか
最初の冬、地元の受験生を持つ親御さんの間で口コミが広がりました。
「あの和菓子店に、受験生向けの特別などら焼きがあるらしい」と。
やがて、塾の先生が生徒への差し入れに使うようになり、学校の先生が卒業生に贈るようになりました。
「期間限定」「店舗限定」という希少性が、さらに話題を呼びました。
翌年からは、受験シーズンになると行列ができるようになり、今では店の売上の三分の一を「合格どら焼き」が占めるまでになりました。
この事例から学べること
この和菓子店は、新しい設備を入れたわけでも、新しい材料を使ったわけでもありません。
やったことは、「誰に届けるか」「いつ届けるか」「どこで届けるか」を絞り込んだだけです。
「普通のどら焼き」を「受験生のための、期間限定の、この店でしか買えないどら焼き」に変えただけ。
それだけで、お客様の心に届く「特別な商品」が生まれたのです。
「言葉を変える」と、すべてが変わる理由
言葉は思考の「型」になる
ここからは、もうひとつの視点「言葉を変える力」についてお話しします。
私たちは、言葉を使って考えます。
頭の中で「こういう商品だ」「こういうサービスだ」と言葉にすることで、初めてそれを認識し、人に伝えられるようになります。
つまり、使っている言葉が変わると、考え方そのものが変わるのです。
たとえば、自分の仕事を「町の電気屋」と表現している人と、「地域の暮らしを電気で支えるパートナー」と表現している人では、日々の仕事への向き合い方が違ってくるはずです。
前者は「電気製品を売る人」という枠の中で考えますが、後者は「お客様の暮らし全体をどう良くできるか」という広い視野で考えるようになります。
言葉が変わると、行動が変わる
言葉を変えようと意識すると、自然と「なぜこの表現を使っていたのだろう」「本当はどう伝えたいのだろう」と考え始めます。
この問い直しが、ビジネスを根本から見つめ直すきっかけになります。
先ほどの和菓子店の例で言えば、「どら焼きを売る」という言葉から「受験生を応援する」という言葉に変えたことで、店主の意識が変わりました。
「どら焼きを売る」と考えていたときは、「どうやって多く売るか」「どうやって安く作るか」という発想が中心でした。
しかし「受験生を応援する」と考え始めてからは、「どうすれば受験生が元気になるか」「親御さんはどんな気持ちで買うのか」という発想に変わりました。
すると、接客の仕方も変わります。
包装の仕方も変わります。
お店の雰囲気も変わります。
言葉ひとつを変えようとしたことが、お店全体を変えていったのです。

明日から始められること
まず「三つの限定」を考えてみる
あなたの商品やサービスについて、次の三つの問いを立ててみてください。
「誰に届けたいか」(人の限定)
すべての人ではなく、特に届けたい人は誰でしょうか。
年齢、職業、悩み、状況など、具体的にイメージしてみてください。
「いつ届けたいか」(時間の限定)
その商品やサービスが、最も価値を発揮するタイミングはいつでしょうか。
季節、時間帯、人生の節目など、時間軸で考えてみてください。
「どこで届けたいか」(場所の限定)
その商品やサービスを届ける場所を絞り込むことで、特別感を出せないでしょうか。
次に「言葉を変えて」みる
自分のビジネスを、普段とは違う言葉で表現してみてください。
「◯◯を売る」ではなく、「◯◯を届ける」「◯◯を応援する」「◯◯の悩みを解決する」など、視点を変えた言葉を探してみましょう。
その新しい言葉がしっくりきたとき、きっとあなたの中で何かが変わり始めているはずです。
おわりに
「限定する」ことと「言葉を変える」こと。
どちらも、大きな投資や特別な技術は必要ありません。
必要なのは、自分のビジネスを見つめ直す少しの時間と、変わろうとする意志だけです。
普段から提供している商品やサービスの中に、まだ気づいていない「特別な価値」が眠っているかもしれません。
それを掘り起こすきっかけが、「限定」と「言葉」という二つの視点なのです。
ぜひ今日から、あなたのビジネスを新しい目で見つめ直してみてください。

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