顧客との雑談が営業成功の鍵になる理由
はじめに
営業の現場で、こんな経験はないでしょうか。
商品の説明はバッチリ準備した。
資料も整えた。
それなのに、なぜか契約に至らない。
お客様の反応もどこかよそよそしい。
一方で、特別なことをしているわけでもないのに、不思議とよく売れる営業スタッフがいる。
その差は、「雑談力」にあるかもしれません。
ただし、ここでいう「雑談」は、天気の話や世間話のことではありません。
売れる営業が自然にやっている「意図的な雑談」のことです。
背景:なぜ「聞く力」が営業の鍵になるのか
日本の中小企業や個人事業の現場では、経営者やオーナー自らが営業を担うケースが少なくありません。
限られた人員の中で売上をつくっていくには、一件一件の商談を大切にする必要があります。
そうした環境の中で、「いかに多くの情報を伝えるか」を重視する営業スタイルが広まりました。
資料をしっかり作り、商品の特長を丁寧に説明し、価格の優位性をアピールする—これはこれで大切なことです。
しかし現代の消費者・購買担当者は変わっています。
情報はインターネットで簡単に手に入る時代です。
お客様はすでに商品のことをある程度知った上で、営業マンと向き合っていることが多い。
そんな時代に「情報を伝えるだけ」の営業では、なかなか差別化できません。
ではなぜ、お客様はわざわざ時間を取って面会に応じてくださるのでしょうか。
それは、「自分のことを理解してほしい」「自分の状況に合った提案を聞きたい」という気持ちがあるからではないでしょうか。
人は誰でも、自分の話をしっかり聞いてもらえると、心が開きます。
逆に、一方的に話されると、どんなに良い内容でも受け取りにくくなる。
これは営業の場面に限らず、人間関係全般に言えることです。
本文:「雑談」の本当の意味
お客様に話していただくことは、営業においてとても重要なことです。
目の前の営業マンにお客様がいろいろと話をすれば、当然、話題はお客様自身の欲求やニーズにも及び、さらに深く考えてもらえるのです。
ここで大切になるのが「雑談」です。
ただし、この雑談は天気の話や社会情勢の話ではありません。
大事なのは、お客様自身のことです。
お客様の仕事のこと、これまでの歩み、今感じていること—そういったことに興味を持って質問します。
営業とは直接関係のないような質問に見えますが、お客様からすると「この人は自分のことを気にかけてくれている」という感覚になります。
そして営業マンにとって、この雑談には明確な役割があります。
商談の流れをスムーズにし、提案に向けた「動機」をつくることです。
売れる営業の人は、商品やサービスを提案する前に、まずお客様自身のことに深く関わろうとします。
お客様の話を聞き、その人柄に触れ、「いい方だな」「この方のお役に少しでも立ちたい」という気持ちを自分の中につくり上げていくのです。
これを「純粋な動機」と呼びます。
この純粋な動機があってはじめて、現在の課題や状況を自然な流れで聞き出すことができ、自社の商品やサービスを押しつけがましくなく提案できるようになります。
「雑談」は、プレゼンテーションに入るための理由と動機をつくる、大切なステップなのです。
事例:工務店オーナーの「聞く営業」
ある地方の工務店のオーナー、田中さん(仮名)の話です。
田中さんはリフォーム営業を長年やってきましたが、なかなか成約率が上がらない時期がありました。
資料も充実していて、見積もりも他社より丁寧。
それでも「また考えます」と言われることが続いていたのです。
ある研修で「お客様の話を聞く時間を増やしてみてください」とアドバイスを受けた田中さんは、試しに面会の冒頭15分を「雑談」の時間にすることにしました。
「この家に何年住んでいらっしゃるんですか?」
「もともとどんなきっかけでこちらに越してきたんですか?」
「お子さんが巣立たれたとおっしゃっていましたが、今はどんな使い方をされているんですか?」
資料には一切触れない。
ひたすらお客様の話を聞く。
すると、お客様は少しずつ話してくれるようになりました。
「実は、息子夫婦が将来戻ってくるかもしれなくて……」
「妻が足を悪くしてから、お風呂に不安があって……」
「定年後は家でゆっくり過ごしたいから、もう少し居心地よくしたいんです」
田中さんはそこで初めて、自社のサービスと結びつけた提案を自然にできるようになりました。
「二世帯を見越したリフォームプランがあります」「バリアフリー対応の浴室にされているお客様が最近増えていますよ」といった形で。
以前は「うちの工務店の強みはこれです」と一方的に話していたのが、「このお客様に何が必要か」を起点に話せるようになったのです。
結果として、田中さんの成約率は6ヶ月で約1.5倍に伸びました。商品は何も変わっていません。
変わったのは、「聞き方」と「動機」だけです。

まとめ:売れる営業の「順番」を変えてみよう
今回の話を整理すると、次のようになります。
売れる営業は、「商品の説明」から入りません。
まず「お客様を知ること」から始めます。
そしてその「知ること」のプロセスが、雑談という形をとります。
天気や世間話ではなく、そのお客様自身の人生・仕事・状況に関心を持って聞く、意図的な雑談です。
この雑談を通じてお客様の人柄に触れ、「この方のお役に立ちたい」という純粋な動機が生まれたとき、はじめて提案に自然な説得力が出てきます。
「いいから早く本題に入れ」と思われないかと心配する方もいらっしゃるかもしれません。
でも実際には逆です。
最初に自分の話をしっかり聞いてもらったお客様のほうが、本題の提案もちゃんと聞いてくださいます。
まずは次の商談で、冒頭10分を「お客様のことを聞く時間」にしてみてください。
資料はいったん脇に置いて、目の前の方の話に耳を傾ける。
それだけで、商談の雰囲気はきっと変わるはずです。
営業の本質は「売ること」ではなく、「お客様の役に立つこと」です。
その入口にあるのが、雑談という名の「聞く力」なのです。
