利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

お客様が本当に知りたいのは、実は商品そのものではない

お客様が本当に知りたいのは、実は商品そのものではない

「人」「思い」「こだわり」— 価格では測れない、選ばれる理由のつくり方

はじめに 良い商品やサービスだけでは、差がつきにくい時代

「うちの商品は、他よりも品質が良いはずなのに、なかなか選んでもらえない」。
そんなお悩みを抱えている経営者の方は、少なくないのではないでしょうか。

もちろん、品質や価格は大切です。
けれども、今の時代、少し探せば、似たような商品やサービスは、どこにでも見つかります。
おいしい料理を出すお店も、丁寧な仕事をする職人さんも、決して珍しい存在ではありません。

だとすれば、お客様が最終的に「この店にしよう」「この人に頼もう」と選ぶ決め手は、いったい何なのでしょうか。
それは、商品そのものの良さ以上に、「誰が」「どんな思いで」「何にこだわって」それを作っているのか、という部分にあるのではないかと考えられます。

お客様は、商品の向こう側にいる「人」を見ている

少し想像してみてください。
同じ味のコーヒーが飲めるお店が、二軒あったとします。
一方は、店主のことを何も知らないお店。
もう一方は、店主がどんな経緯でこの仕事を始めたのか、どんな思いで豆を選んでいるのかを知っているお店。
もし選べるとしたら、多くの方が後者を選ぶのではないでしょうか。

これは、決して特別なことではありません。
人は、モノやサービスそのものだけでなく、その向こう側にいる「人」に対しても、心を動かされる生き物なのだと思います。
誰が作ったのか分からないものよりも、顔の見える相手が心を込めて作ったものの方が、なんとなく安心できる。
そうした感覚を、多くの方がお持ちなのではないでしょうか。

だからこそ、経営を考えるときには、商品やサービスの中身を磨くことと同じくらい、「自分たちがどんな人間で、どんな思いで、何にこだわっているのか」を、お客様に伝えていくことが、大切な意味を持つのではないかと思います。

「人」「思い」「こだわり」という三つの言葉について

ここで、少し丁寧に、この三つの言葉について考えてみたいと思います。

まず「人」です。
これは、経営者自身、あるいはスタッフ一人ひとりが、どんな人間なのか、ということです。
どんな経緯でこの仕事に就いたのか。
学生時代はどんなことをしていたのか。
休みの日は何をして過ごしているのか。
そうした、いわば人柄が伝わる情報のことです。

次に「思い」です。
これは、なぜこの仕事をしているのか、何を大切にしたいと考えているのか、という部分になります。
「お客様の暮らしを少しでも楽にしたい」「地域の方に長く愛される店でありたい」といった、事業を続けていく上での、根っこにある気持ちのことです。

そして「こだわり」です。
これは、日々の仕事の中で、決して手を抜かない、譲らない部分のことを指します。
材料の選び方、作業の手順、確認の回数。
ほんの小さなことであっても、「ここだけは絶対に妥協しない」という部分が、きっとどんな仕事にもあるはずです。

この三つは、それぞれ独立しているようでいて、実はつながっています。
「人」があるからこそ「思い」が生まれ、「思い」があるからこそ、日々の「こだわり」が支えられる。
この一連のつながりを、お客様に伝えていくことが、他の店との違いを作っていくのではないでしょうか。

まずは、お客様の記録を残すことから

とはいえ、いきなり「人」や「思い」や「こだわり」を伝えようとしても、誰に届ければよいのか分からなければ、なかなか力が入りません。
そこで、まず土台として大切になるのが、お客様の記録です。

いつ、どのお客様が、何を、いくらくらい買ってくださったのか。
これを記録として残しておくことで、長くお付き合いくださっているお客様が、少しずつ見えてきます。
難しく考える必要はなく、ノートでも表計算ソフトでも構いません。
日付と金額だけでも、まずは記録を始めてみることが、一つの出発点になると思います。

記録がたまってくると、多くの場合、売上の大きな部分を、ごく一部のお客様が支えてくださっていることに気づかれるはずです。
限られた時間とお金を、すべてのお客様に均等に使うのではなく、「本当に大切にしたいお客様」に、気持ちを集中させていく。
この土台があってはじめて、「人」「思い」「こだわり」を届ける相手が、はっきりと見えてくるのではないでしょうか。

ある電器店の話

以前、あるお客様からうかがったお話をご紹介したいと思います。
仮に鈴木さんとしておきます。鈴木さんは、地方都市で小さな電器店を営んでいらっしゃいました。
従業員は数名。近くには大型の家電量販店ができ、価格ではとても太刀打ちできない、という状況が続いていました。

長年のお付き合いがあるお客様の記録を整理した鈴木さんは、月に一度、お便りを送ることを始めました。
ここで鈴木さんが意識したのは、まさに「人」「思い」「こだわり」を伝えることでした。

「人」については、鈴木さん自身のことを、少しずつ紹介していきました。
もともとは電気工事の見習いから始めたこと、修理の仕事に惹かれたきっかけが、子どもの頃に壊れたラジオを分解して直したことだったこと。
堅苦しい経歴ではなく、思わず微笑んでしまうような、素朴なエピソードとして綴られていました。

「思い」については、「まだ使えるものを、簡単に捨てさせたくない」という、鈴木さんの考えを伝えました。
買い替えを勧める方が、店としては儲かるかもしれない。
それでも、直して長く使っていただくことを選びたい。
そうした思いを、飾らない言葉で書き続けました。

そして「こだわり」です。
鈴木さんのお便りには、「修理した製品は、必ず三回、電源を入れ直して確認してから、お客様にお渡しする」という、地味だけれど欠かさない習慣が紹介されていました。
派手さはありませんが、「そこまでやってくれているのか」と感じたお客様は、少なくなかったようです。

その後の変化 一年、二年と続けてみて分かったこと

お便りを送り始めてから半年ほどは、鈴木さん自身も「本当に効果があるのだろうか」と半信半疑だったそうです。
しかし、一年ほど続けたところで、ある変化に気づきます。お客様が、鈴木さんのことを「人」として、名前で覚えてくださるようになったのです。
「鈴木さんに直してもらったから、安心」という言葉を、何度もかけられるようになったといいます。

「思い」についても、反応がありました。
「まだ使えるものを大切にしたい」という考えに共感してくださる方から、「うちも同じ考えだったので、嬉しかった」というお手紙が届くようになったのです。
商品を売り込まれるよりも、価値観が重なっていると感じられることの方が、お客様の心を動かすのだと、鈴木さんはあらためて実感したそうです。

「こだわり」の部分も、口づてに広がっていきました。
「三回確認してから渡してくれる店」という話が、お客様同士の会話の中で語られるようになり、それを聞いた方が、新しく来店してくださることもあったそうです。
広告を出したわけではないのに、「人」「思い」「こだわり」を伝え続けたことが、結果として新しいお客様を連れてきてくれたのです。

二年ほど経った頃には、近くにさらに大きな家電量販店ができ、価格の面ではますます厳しい競争にさらされることになりました。
それでも、鈴木さんのお店を長年支えてくださっているお客様の多くは、離れていくことはなかったそうです。
値段だけを比べれば、他に安い店はいくらでもあります。
それでも「あの店で買いたい」と思ってくださる方がいる。
これは、価格の勝負とは別の場所で、「人」「思い」「こだわり」を通じて、じっくりと育ててきた関係があったからこそなのだと思います。

なぜ「人」「思い」「こだわり」を伝えることが、売上につながるのか

このような話をうかがうと、不思議に感じられるかもしれません。
商品の案内をしていないのに、なぜ売上が上がるのだろうか、と。

一つには、人は、頻繁に接する相手に対して、自然と親しみを感じやすいという性質を持っているからだと考えられます。
毎月届くお便りは、いわば「顔を合わせる」ことの代わりを果たしているのかもしれません。
「人」を伝え続けることは、この親しみを育てる土台になります。

また、「思い」を伝えることには、もう一つの意味があります。
人は、単に良い商品を買いたいだけでなく、自分の価値観と重なる相手から買いたい、という気持ちも持っています。
「まだ使えるものを大切にしたい」という思いに共感したお客様は、単なる取引の関係を超えて、いわば「仲間」のような感覚を抱いてくださるようになるのではないでしょうか。

そして「こだわり」は、他店との違いを、具体的な形で示すものです。
おいしい料理や、良い商品を提供しているお店は、他にもたくさんあります。
しかし、「三回確認する」というような、地味だけれど一貫した「こだわり」まで伝えているお店は、それほど多くありません。
だからこそ、そこを丁寧に伝え続けることが、価格では測れない違いになっていくのではないでしょうか。

「人」「思い」「こだわり」は、どれも、価格競争とは別の場所にある価値です。
大きな量販店には真似のできない、その店ならではの強みだと考えられます。

自社の「人」「思い」「こだわり」を、どう見つけるか

ここまで読んでくださった方の中には、「うちには、特別に語れるような話はない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、多くの場合、それは「ない」のではなく、「まだ言葉にしていないだけ」なのではないかと思います。

「人」を見つけるためには、「なぜこの仕事を選んだのか」「これまでどんな経験をしてきたのか」を、あらためて振り返ってみることが、一つの手がかりになります。

「思い」を見つけるためには、「お客様にどうなってほしいのか」「何のためにこの仕事を続けているのか」を、自分自身に問いかけてみることが役立つと思います。

「こだわり」を見つけるためには、「他の人は省略するかもしれないけれど、自分は絶対に省略しない作業は何か」を考えてみることが、一つの入り口になるのではないでしょうか。

こうした問いに、すぐに立派な答えが出る必要はありません。まずはメモ程度で構いませんので、書き出してみるところから始めてみるのも一つです。

まとめ 明日からできる、小さな一歩

商品やサービスの質を高めることは、これからも大切な取り組みであり続けるでしょう。
けれども、それと同じくらい、あるいはそれ以上に、「自分たちがどんな人間で、どんな思いで、何にこだわっているのか」を、お客様に伝えていくことも、これからの時代の経営には欠かせないのではないかと思います。

まずは、今いらっしゃるお客様の記録を整えること。
そして、「人」「思い」「こだわり」という三つの視点から、自社のことを見つめ直し、少しずつ言葉にして届けていくこと。
大きな設備投資も、専門的な知識も必要ありません。今日からでも、始められることばかりです。

長年、多くの経営者の方々とお話をしてきた中で感じるのは、経営を良くする一歩は、必ずしも大きな決断や、多額の投資から始まるわけではない、ということです。
自分自身の「人」「思い」「こだわり」に、あらためて丁寧に向き合ってみる。
それだけのことが、少しずつ会社を変えていく力になることもあるのではないでしょうか。

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