顧客の心をつかむマーケティング戦略
はじめに:良い商品なのに選ばれない理由
「うちの商品は競合より品質が良いのに、なぜかあちらのほうが売れている」―こんな悩みを抱えている経営者の方は少なくありません。
価格も適正、サービスも丁寧、それなのにお客様はライバル店を選んでしまう。
この理由の多くは、商品やサービスの「実際の質」よりも、お客様の「心の中のイメージ」が勝負を決めているからです。
今日は、マーケティングの世界で古くから知られる重要な法則「心の法則」について、中小企業の経営に活かせる形でお話しします。
この法則を理解すれば、限られた資源で戦う中小企業だからこそ、効果的な戦略を立てることができるのです。
「心の法則」とは何か ― 市場ではなく、心が戦場
マーケティングの世界には、こんな興味深い事例があります。
1970年代、個人向けの宅配サービス市場は、実はヤマト運輸が最初に始めたわけではありませんでした。
それまでも複数の運送会社が個人宅への配送サービスを手がけていましたし、郵便局の小包郵便も広く利用されていました。
しかし、ヤマト運輸が「宅急便」というサービスを展開し、クロネコのマークと「翌日配達」を前面に打ち出したとき、人々の心の中に「個人の荷物を送るならクロネコヤマト」というイメージが一気に形成されたのです。
技術的に最初だったかどうかではなく、お客様の心の中で「この分野といえばあの会社」と最初に強く認識されたほうが勝つ。
これが「心の法則」の本質です。
言い換えれば、マーケティングとは「商品の良し悪しを競う戦い」ではなく、「お客様の心の中でどう認識されるかを競う戦い」なのです。
どんなに優れた商品やサービスを提供していても、お客様の心の中で「この分野の専門家といえばあの会社」という認識が形成されていなければ、選ばれることは難しいのです。
なぜ人の心は変わらないのか ― 脳の仕組みから考える
ここで重要なのは、「一度形成された心の中のイメージは、ほとんど変わらない」という事実です。
人間の脳は、情報を整理して保存するために、物事を「カテゴリー」に分類します。
たとえば、「宅配便といえばクロネコ」「検索といえばGoogle」というように、ある分野と特定のブランドを紐付けて記憶します。
この紐付けは、まるで脳の中に「引き出し」を作って、そこにラベルを貼るようなものです。
そして厄介なのは、一度ラベルが貼られた引き出しは、そう簡単には貼り替えられないということです。
すでに「ラーメンといえばA店」と認識しているお客様に、「いや、実はB店のほうが美味しいですよ」と説得するのは、想像以上に難しいのです。
なぜなら、人は自分の認識が間違っていたと認めることを、本能的に避けようとするからです。
マーケティングで最も無駄な努力は、すでに形成された人の心の中のイメージを変えようとすることです。
それよりも、まだ誰も占有していない「心の引き出し」に、いち早く自社の名前を刻み込むほうが、はるかに効果的なのです。
身近な成功事例 ― 地域密着の保険代理店の戦略
ここで、皆さまにも身近な事例をご紹介しましょう。
ある地方都市に、従業員5名ほどの小さな保険代理店がありました。
この街には、すでに大手保険会社の支店や、歴史ある老舗代理店が複数存在していました。
後発の小さな代理店が、どうやって顧客を獲得したのか。
この代理店の社長は、考えました。
「総合的な保険代理店として勝負しても、お客様の心の中ではすでに『保険といえば○○生命』『保険の相談なら△△代理店』というイメージが出来上がっている。ここで正面から戦っても勝てない」
そこで彼が取った戦略は、「子育て世代専門の教育資金プランナー」という明確な看板を掲げることでした。
保険の販売だけでなく、学資保険の選び方、教育ローンの活用法、奨学金制度の比較など、子育て世代が抱えるお金の悩みに特化したサービスを展開したのです。
さらに、地域の幼稚園や小学校の近くで「教育資金セミナー」を定期的に開催し、SNSでも「子どもの教育費」に関する情報を発信し続けました。
そして半年後、この地域の子育て世代の間で、「子どもの教育費の相談といえば、あの代理店」というイメージが確立されました。
この事例のポイントは、「後から参入した小さな会社が、新しいカテゴリー(子育て世代専門)を作り、そこで一番手になった」ということです。
総合保険代理店としては後発でも、「子育て世代専門」という切り口では一番手になれたのです。
中小企業が実践すべき3つのポイント
この「心の法則」を、皆さまの事業にどう活かすか。3つのポイントをお伝えします。
「一番手になれる土俵」を見つける
大手企業が占有している市場で真正面から戦うのではなく、「この切り口なら自社が一番手になれる」という土俵を探しましょう。
たとえば飲食店なら、「この地域で一番」「この料理で一番」「この客層に対して一番」など、何らかの限定をつけることで、お客様の心の中で一番手になれる可能性が高まります。
「日本一美味しいラーメン」を目指すのは難しくても、「この町で唯一の○○ラーメン専門店」なら実現可能かもしれません。
最初の印象を強烈にする
お客様の心の中に、一気に飛び込む必要があります。
徐々に知名度を上げようとするのではなく、最初の接点で強い印象を残すことが重要です。
これは、お店の外観や広告のキャッチフレーズ、初回接客の質など、あらゆる場面で意識すべきことです。
「この店は他と違う」「この会社は○○の専門家だ」という印象を、最初の出会いで植え付けられるかどうかが勝負を分けます。
一貫性を保ち続ける
一度植え付けた印象を、ブレずに維持し続けることが大切です。
「先月は健康志向を打ち出していたのに、今月はガッツリ系メニューを推している」というように、メッセージがコロコロ変わると、お客様の心の中で混乱が生じ、印象が薄れてしまいます。
「うちの店といえばコレ」という軸を決めたら、少なくとも1〜2年は一貫して同じメッセージを発信し続けましょう。

まとめ ― 小さな会社だからこそできる戦略
「心の法則」は、一見すると大企業のマーケティング理論のように思えるかもしれません。
しかし実際には、限られた資源で戦わなければならない中小企業にこそ、重要な考え方です。
大手企業は広範囲に手を広げますが、その分、すべての分野で一番手になることはできません。
小さな会社は、自分たちが一番手になれる「小さな土俵」を見つけ、そこでお客様の心をつかむことができるのです。
明日からできる第一歩は、「自社が一番手になれるカテゴリーは何か」を考えることです。
業種、地域、顧客層、専門分野など、何らかの切り口で限定することで、あなたの会社が「この分野といえばあの会社」と認識される可能性が見えてくるはずです。
お客様の心の中で一番手になる。
それは決して簡単なことではありませんが、明確な戦略があれば、小さな会社でも十分に実現可能な目標なのです。

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