なぜ、あの人は目標を立ててもやる気が出ないのか?

ビジョン型と価値観型

「部下のやる気を引き出したい」「チームを盛り上げたい」と考えたとき、多くのリーダーが「まずは目標を設定させよう!」と考えます。
しかし、それで本当に全員の心に火がつくでしょうか?

実は、5年後、10年後の大きな夢や目標をエネルギーに変えられる人は、全体のわずか2割しかいません。

もしあなたの部下の多くが、目標設定にピンと来ていないように見えても、それは彼らの意識が低いからではありません。
やる気のスイッチの場所が、そもそも違うだけなのです。

社員のタイプは2種類だけ!あなたの部下はどちらのタイプ?

人のやる気の源泉は、大きく2つのタイプに分けられます。
それぞれの特徴と、効果的なアプローチ方法を見ていきましょう。

未来の山頂を目指す「ビジョン型」(全体の2割)

このタイプは、未来に大きな旗を立てることで力を発揮します。

  • 特徴: 「3年後に独立して自分の店を持つ!」「全国展開する会社の社長になる!」といった、未来の具体的なゴールがモチベーションになります。
  • 例えるなら: 険しい山の頂上にある旗をめがけて、そこから逆算して最短ルートを考える登山家のようなタイプです。
  • 育て方: 「5年後、どんな自分になっていたい?」と未来のビジョンを語らせ、そこに向かうための具体的なステップや数値目標を一緒に作ってあげると、目の輝きが変わります。

「今」の充実感を力にする「価値観型」(全体の8割)

大多数を占めるこのタイプは、未来の目標よりも「今、この瞬間」をどう感じているかを大切にします。

  • 特徴: 「お客様からの『ありがとう』が嬉しい」「チームで一体感を感じられるのが好き」といった、日々の仕事で得られるポジティブな感情や実感がモチベーションになります。
  • 例えるなら: どこにたどり着くかよりも、目の前の美しい景色や仲間との会話を楽しみながら一歩一歩進んでいく冒険家のようなタイプです。
  • 育て方: 無理に未来の目標を語らせる必要はありません。
    むしろ、彼らの力を引き出す魔法の鍵は「過去」に隠されています。

8割の社員を輝かせる「過去」の活かし方

「価値観型」の社員のやる気スイッチを押すには、未来ではなく過去の体験に焦点を当てます。

  1. 最高の瞬間を思い出してもらう
    「最近の仕事で、一番『やった!』と思えた瞬間はどんな時だった?」
    「子供の頃、夢中になった遊びは何だった?」
    このように、過去の楽しかった記憶や成功体験を、ありありと思い出してもらいます。
  2. 「なぜ?」を問いかけ、価値観を掘り出す
    「部活の大会で優勝した時、なぜあんなに嬉しかったんだろう?」
    →「みんなで力を合わせた一体感がたまらなかったからです!」
    この「一体感」こそが、その人の行動の源泉となる「価値観」です。
  3. 「今日」の行動につなげる
    価値観が見つかったら、「その『一体感』を今日の仕事で味わうには、何ができるかな?」と問いかけます。
    すると、「〇〇さんに声をかけて、少し仕事を手伝ってみます」といった、未来の目標ではなく、今すぐできる具体的な一歩が見えてくるのです。

価値観型の人は、この小さな一歩の積み重ねによって「今日も充実していたな」と感じ、その結果として未来が拓けていきます。

最強のチームを作る秘訣は「頭」より「心と体」にあり!

ここまでタイプ別の接し方を見てきましたが、どちらのタイプにも共通する、最も重要なポイントがあります。それは、「感情」を動かすことです。

人の心を動かすとき、巧みな言葉(ロジック)の力は、実は全体の7%程度しかありません。
本当に大切なのは、「体」を使って感情を揺さぶることです。

  • うつむいて猫背のまま「よし、頑張るぞ!」と言っても、力が出ないのは当然です。
  • 逆に、胸を張ってガッツポーズをしながら、落ち込むことは難しいはずです。

心と体は、深くつながっています。
だからこそ、過去の成功体験を思い出してもらう時も、ただ紙に書かせるだけでは不十分です。

「その時、どんな場所にいた?」「周りには誰がいた?」「『やった!』って声に出して、ガッツポーズしてみて!」

このように、体ごと、五感でその瞬間を再体験させることで、感情が大きく揺さぶられ、それが「明日もやってみよう!」という強力なエネルギーに変わるのです。

朝礼で目標を語る時に少し身振り手振りを大きくしてみる、うまくいったことがあればチームでハイタッチをする。
そんな小さな工夫が、チーム全体の熱量を変えていきます。

社員のタイプを見極め、一人ひとりの心と体を動かすアプローチを試してみてください。
あなたのチームは、きっと今よりもっと強く、温かいチームになるはずです。