対話で強くなる組織づくり
はじめに:社長ひとりで全部決める時代は終わった
「うちは小さな会社だから、私が決めてみんながやればいい」
そう思っていらっしゃる経営者の方も多いかもしれません。
確かに、従業員が数名から10名程度の会社では、社長が方針を決めて、社員がそれに従うというやり方が一番シンプルで効率的に見えます。
しかし、この「社長が考え、社員が従う」というやり方だけでは、最近うまくいかないことが増えていませんか?
お客様のニーズが以前より複雑になった。
競合他社の動きが読みにくくなった。
新しい技術やサービスが次々と出てきて、何を取り入れるべきか判断に迷う。
こうした変化の中で、「社長ひとりの頭で考えて決める」ことの限界を感じている方も少なくないのではないでしょうか。
実は、この問題について30年以上前に警鐘を鳴らした人物がいます。
アメリカの経営学者ピーター・センゲです。
彼は1990年に出版した著書の中で、こんなことを述べています。
「世界はつながりを深め、ビジネスはより複雑になっていく。経営トップがひとりで考えて、みんなをその命令に従わせるやり方は、もう通用しなくなる」
インターネットが普及する前の時代に、すでにこのことを見抜いていたのです。
そして彼が提唱したのが、「学習する組織」という考え方でした。
「学習する組織」とは何か?
「学習する組織」と聞くと、なんだか難しそうに感じるかもしれません。
でも、考え方はとてもシンプルです。
従来の会社の多くは、「管理する組織」でした。
上が決めて、下がやる。マニュアル通りに動く。
ミスをしないように管理する。
これは、同じ製品を大量に作る時代には効率的なやり方でした。
しかし、お客様の求めるものが多様化し、市場が目まぐるしく変わる今の時代では、マニュアル通りにやるだけでは対応しきれません。
「学習する組織」とは、会社全体が一つのチームとして、常に学び、変化に対応していける組織のことです。
社長だけでなく、現場の社員一人ひとりが「どうすればもっと良くなるか」を考え、その知恵を出し合える。そんな会社のことを指します。
たとえるなら、サッカーチームのようなものです。
監督(社長)が戦術を決めるのは大切ですが、試合中にピッチで何が起きているかは、選手たち(社員)が一番よく分かっています。
相手チームの動き、芝生の状態、味方の調子。
そうした情報を選手同士が共有し、その場その場で判断できるチームが強いのです。
対話(ダイアローグ)という考え方
では、「学習する組織」を作るために何が必要なのでしょうか。
センゲが特に重視したのが、「対話(ダイアローグ)」です。
「対話なら、うちでも毎日やっている」と思われるかもしれません。
しかし、センゲが言う「対話」は、普段の業務連絡や会議とは少し違います。
普段の会議では、こんなことが多いのではないでしょうか。
・「で、結論は何?」とすぐに答えを求める
・意見が対立したら、どちらが正しいか決着をつけようとする
・声の大きい人や立場が上の人の意見が通りやすい
・時間がないので、深く考える余裕がない
これは「討論」や「議論」であって、「対話」とは異なります。
対話とは、お互いの考えの「背景」や「意味」を理解し合うことを目的としたコミュニケーションです。
すぐに結論を出そうとしない。
相手の意見を否定しない。
「なぜそう考えるのか」を深く聞く。
自分の考えも、結論だけでなく「なぜそう思うか」まで伝える。
こうしたやり取りを通じて、お互いの理解を深めていくのが対話です。
身近な事例:あるリフォーム会社での変化
ここで、対話を取り入れて会社が変わった事例をご紹介します。
従業員8名のリフォーム会社A社は、社長のBさんが営業から現場管理まで全てを仕切っていました。
社員は社長の指示通りに動き、それで会社は回っていました。
しかし、あるとき問題が起きました。
お客様から「打ち合わせで言ったことが現場に伝わっていない」「担当者によって対応が違う」というクレームが続いたのです。
Bさんは「もっとしっかり指示を出さなければ」と考え、マニュアルを増やし、報告の頻度を上げました。
でも、状況は改善しませんでした。
むしろ、社員たちは「言われたことだけやればいい」という姿勢が強くなり、自分で考えて動かなくなってしまったのです。
困ったBさんは、知り合いの経営者から「対話の場を作ってみては」とアドバイスを受けました。
最初は半信半疑でしたが、月に一度、業務とは関係なく「最近感じていること」を話し合う時間を設けました。
最初のルールは3つだけ。
・相手の話を最後まで聞く(途中で口を挟まない)
・正解を求めない(「それは違う」と否定しない)
・「なぜそう思うか」を大切にする
最初の数回は、社員たちも戸惑っていました。
「こんなことを話していいのか」「社長に本音を言って大丈夫か」という空気がありました。
しかし、Bさんが自分から「実は最近、この仕事のやり方でいいのか迷っている」と本音を話したことで、少しずつ場の雰囲気が変わりました。
ある現場担当の社員が「お客様の要望を聞いても、どこまで対応していいか分からない。勝手に判断して怒られるのが怖い」と打ち明けました。
別の社員は「営業と現場で情報が共有されていないから、お客様に同じことを何度も聞いてしまう」と話しました。
これらは、普段の業務報告では出てこなかった声でした。
Bさんは「なぜそう感じるのか」を丁寧に聞いていきました。
すると、問題の根っこにあるのは「社員が自分で判断できる範囲が分からない」「情報共有の仕組みがない」という構造的な課題だと分かったのです。
その後、A社では対話の中で出た意見をもとに、現場で判断できる範囲のガイドラインを作り、情報共有のためのツールを導入しました。
これらは社長が一方的に決めたのではなく、社員たちと一緒に考えて作ったものです。
半年後、クレームは目に見えて減りました。
それだけでなく、社員から「こうしたらもっと良くなる」という提案が出てくるようになったのです。
なぜ今、対話が必要なのか
この事例が示すように、対話には時間がかかります。
すぐに結論を出す会議の方が効率的に見えるかもしれません。
しかし、今のビジネス環境では、対話の重要性がますます高まっています。
その理由は3つあります。
1つ目は、仕事の内容が複雑になっていることです。
お客様が求めるものは多様化し、「これをやれば正解」という決まったやり方が通用しにくくなっています。
現場で起きていることを一番よく知っているのは現場の社員です。
その声を引き出し、活かすことが必要です。
2つ目は、変化のスピードが速いことです。
市場も技術も、あっという間に変わります。
社長ひとりが全てを把握して判断するのには限界があります。
社員一人ひとりが「考える力」を持ち、変化に対応できる組織が求められています。
3つ目は、人材の確保が難しくなっていることです。
「言われたことをやるだけ」の職場では、優秀な人材は定着しません。
自分の意見が尊重され、成長できる環境を求める人が増えています。
対話のある職場は、社員のやりがいにもつながります。

まとめ:小さな会社こそ、対話の力を活かせる
「学習する組織」や「対話」というと、大企業向けの話に聞こえるかもしれません。
しかし、実は小さな会社の方が取り入れやすいのです。
大企業では、組織が大きすぎて全員が顔を合わせる機会すらありません。
でも、従業員10名前後の会社なら、全員が同じ場で話し合うことができます。
社長と社員の距離も近い。
だからこそ、対話を始めやすいのです。
もちろん、いきなり完璧にやろうとする必要はありません。
まずは月に一度、30分でもいいので「業務の話ではなく、お互いの考えを聞き合う時間」を作ってみてはいかがでしょうか。
大切なのは、社長自身が「聞く姿勢」を見せることです。
社員の意見にすぐ反論したり、結論を急いだりせず、「なぜそう思うのか」を丁寧に聞く。それだけで、少しずつ職場の空気が変わっていくはずです。
社長ひとりの力には限界があります。
でも、社員一人ひとりの知恵を引き出し、みんなで学び合える組織になれば、会社はもっと強くなれる。
対話は、そのための第一歩です。

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