中小企業のための『たった1人』ターゲティング戦略

たった１人に伝わればいい「ターゲティング」

なぜ「大企業」のマネをしてはいけないのか？

大企業は、例えるなら「巨大な巻き網漁」です。
何十億円もの広告費という巨大な網を投げて、市場の魚を（効率は悪くても）ごっそり獲りにいきます。
「30〜40代の女性」という大きな網でも、体力（お金）があるので成立するのです。

しかし、私たち小さな会社は、使えるお金も人も限られています。
私たちがやるべきなのは「巻き網漁」ではありません。
私たちがやるべきなのは「一本釣り」、あるいは「銛（もり）突き漁」です。

体力がない私たちが、大企業と同じように「みんな」に向けてぼんやりとした網を投げても、魚は一匹もかかりません。

「たった1人」とは誰のことか？

では、私たちが狙うべき「たった1人」とは誰でしょうか？
それは「平均的な人」の対極にいる、「顔と名前が思い浮かぶ、あなたにとって理想のお客さま」のことです。

相手が分からない（＝大勢）だと、当たり障りのない話しかできません。
でも、相手が「新しい部署の上司」や「親戚のおじさん」だと、何を話すべきかハッキリしますよね。

ビジネスも全く同じです。
「お客さま」というぼんやりした集団に話しかけるのはやめましょう。
それは、駅前広場で「誰か私の話を聞いてくださーい！」と叫ぶようなものです。誰も立ち止まりません。

そうではなく、たった1人、例えば「田中さん」（仮名）に向けて手紙を書くように、商品やサービスを考えるのです。

「田中さん」の見つけ方

この「田中さん」は、ゼロから想像で作り出す必要はありません。
（よく「ペルソナを作りましょう」と言われますが、これが専門用語で分かりにくい原因です）

多くの場合、「田中さん」は、すでにあなたのお店（会社）に来てくれています。

・あなたが一番「ありがとう」と言いたいお客さまは誰ですか？

・「こういうお客さまばかりだと最高だな」と思う方は誰ですか？

その方こそが、あなたが集中すべき「たった1人」です。

【例えば、町の小さなパン屋さんなら】

・ダメな例（みんなに伝えようとする）： 「美味しいパンあります！ お子様からお年寄りまで、どなたでもどうぞ！」
（→ 誰の心にも響きません。どこの店も同じことを言っています）

・良い例（たった1人に伝える）： まず、理想のお客さま「田中さん」を決めます。 「田中さん（30代・共働き）。
いつも夕方、保育園のお迎え帰りに寄ってくれる。アレルギーを気にしていて、子どもに安全なものを食べさせたいと思っている。」

この「田中さん」に向けて、こう伝えるのです。
「田中さん！ お仕事お疲れ様です。今日は、卵も牛乳も使っていない『お野菜パン』が焼きたてですよ。これならお子さんも安心して食べられますし、野菜も摂れます！」

こう言われたら、田中さんは「私のためのパンだ！」と感じてくれるはずです。
そして不思議なことに、「田中さん」に深く刺さるメッセージは、「田中さん」と似た悩みや価値観を持つ「鈴木さん」や「佐藤さん」にも届くのです。

まとめ：小さな会社の「たった1人」戦略

たった１人の「理想のお客さま」に届けばいい

「みんなに来てほしい」と考えてチラシやホームページを作ると、結局、誰の心にも響かないものになってしまいます。

私たちのような小さな会社が、日本中の人や、何十万もの「30代女性」全員を相手にするのは不可能です。
それは、莫大なお金を持つ大企業のやり方です。

大企業が「平均」を狙うのに対し、私たちは「個人」を狙います。
平均的な日本人、平均的な主婦という「人」は、どこにも存在しないからです。
そこにいるのは、一人ひとり違う好みや悩みを持った「個人」です。

私たちがやるべきことは、ぼんやりとした大勢の人に話しかけることではありません。
それは、相手の顔が見えないまま自己紹介をするようなもので、当たり障りのない、退屈な中身になってしまいます。

大切なのは、「あなたにとって、最も理想的なお客さま」をたった1人、思い浮かべることです。

・今、あなたのお店（会社）にいるお客さまの中で、一番「ありがとう」と伝えたい人は誰ですか？

・その人は、どんなことで悩み、何を喜んでくれましたか？

その「たった1人」に向けて、まるでラブレターを書くように、商品の良さやあなたの想いを伝えるのです。

「みんなに伝えよう」とすると、言葉はぼやけます。
「あの人（たった1人）に伝えよう」とすると、言葉は鋭く、深くなります。

そして、その「たった1人」の心に深く刺さった言葉だけが、結果としてその人と似た「他の誰か」にも届くのです。

いかがでしょうか？
まずは「理想のお客さま」が、どんな顔で、どんなことに困っているか、是非、考えてみてください。