利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

STPが先、4Pは後―マーケティングの「順番」を知ると、商売が変わる

STPが先、4Pは後―マーケティングの「順番」を知ると、商売が変わる

顧客を絞り込むことが経営の第一歩

はじめに:なぜ「宣伝してもお客さまが来ない」のか

商売をしていると、こんな悩みを持つ方が多いのではないでしょうか。

「チラシを配ったけど、思うように反応がない」「SNSで発信を続けているのに、問い合わせが増えない」「値引きキャンペーンをやってみたが、売上が伸びない」

実は、こうした悩みの多くに共通する原因があります。
それは、誰に・何を・どんな価値で届けるかを決める前に、宣伝や値引きといった「手段」に先に手をつけてしまっているということです。

今回は、マーケティングの世界で長年使われてきた「STP」と「4P」というふたつの考え方を使って、この問題を整理してみましょう。

4Pとは何か?―マーケティングの「手段」4つ

1960年代、アメリカの研究者ジェローム・マッカーシーが著書『ベーシック・マーケティング』の中で提唱した「4P」というフレームワークがあります。

・Product(プロダクト):商品・サービスの中身
・Price(プライス):価格設定
・Place(プレイス):どこで売るか(販売チャネル)
・Promotion(プロモーション):広告・販促活動

これは、マーケティングに関わるあらゆる活動を4つのカテゴリーに整理したものです。
マッカーシーがこれを提唱したとき、とくに強調していたのは「広告(Promotion)だけにお金を使うのではなく、4つをバランスよく組み合わせなさい」ということでした。
だからこそ「マーケティング・ミックス」とも呼ばれています。

料理に例えるなら、「炒める・煮る・焼く・蒸す」という調理法のリストのようなものです。
どの調理法を使うかを知っていても、「何の料理を作るのか」「誰のために作るのか」が決まっていなければ、美味しい一皿は生まれません。

4Pだけでは「何のために」がわからない

4Pはあくまでも「手段の一覧」です。活動領域のリストであって、そこには「誰に売るのか」「どんな価値を提供するのか」という情報がありません。

手段だけ先行して動いてしまうと、こんなことが起きます。
「素晴らしい商品を作った。値段も手ごろにした。SNSでも宣伝した。でも売れない……」

なぜ売れないかというと、その商品が誰のどんな悩みを解決するのかが、お客さまに伝わっていないからです。
「何を売っているか」は伝わっていても、「あなたのための商品です」というメッセージが届いていないのです。

STPとは何か?―「誰に・何を・どう伝えるか」を決める地図

そこで登場するのが「STP」という考え方です。

・Segmentation(セグメンテーション):市場を細かく分けて見る
・Targeting(ターゲティング):その中で自分が狙うお客さまを絞る
・Positioning(ポジショニング):そのお客さまにとって、自分がどんな存在かを明確にする

わかりやすく言い換えると—「世の中にはいろんなお客さまがいる(Segmentation)。
その中で、自分のお店やサービスに最も合うお客さまはどんな人か(Targeting)。
そして、そのお客さまにとって、自分はどんな価値を提供できる存在なのか(Positioning)。」

地図で例えるなら、STPは「目的地と出発点を定めること」。
4Pは「その経路で使う交通手段を選ぶこと」です。
目的地を決めずに電車に乗っても、どこへも行けません。

事例:小さな整骨院が「誰かのための場所」になるまで

ある地方都市で整骨院を開いたAさんの話をご紹介します。

開業当初、Aさんは「どんな症状でも対応できます」と幅広く宣伝していました。
チラシを地域全体に配り、料金も相場より少し安めに設定。
しかしなかなか新規のお客さまが増えない日々が続きました。

あるとき、来院するお客さまをよく観察すると、「子育て中の30〜40代の女性で、肩こりや腰痛に悩んでいる方」が多いことに気づきました。
そこでAさんは考え方を切り替えました。

まずSTPで方向性を決めました。

・Segmentation:地域の整骨院に来る可能性のある人を、年齢・悩み・ライフスタイルで分類した
・Targeting:「子育て中で、身体のケアに時間をかけられない30〜40代の女性」に絞った
・Positioning:「子育て中のお母さんのための、短時間でしっかりケアできる整骨院」という立ち位置を決めた

そして4Pで手段を組み立てました。

・Product:30分の短時間コースと、赤ちゃんを連れて来られるキッズスペースの設置
・Price:単発より通いやすい回数券プランを中心に
・Place:子育て世代が多く集まる支援センターや保育園近くへのチラシ配布
・Promotion:「子育て中のお母さんへ」という言葉を前面に出したSNS発信と口コミ促進

結果、同じ地域への発信でも反応がまったく変わりました。
「自分のための場所だ」と感じてもらえるようになり、口コミも広がり、半年後には新規のお客さまの8割がその層になりました。

Aさんが変えたのは「誰に向けて発信するか」というたった一点だけでした。
でもその一点が、すべての手段(4P)を意味あるものに変えたのです。

STPが先、4Pは後―この順番が商売の土台になる

「誰に、どんな価値を届けるか」というセットを、マーケティングの世界ではバリュープロポジションと呼びます。
この考え方は、実は私たちの身近なところにも同じ構造があります。

たとえば、旅行の計画を立てるときのことを思い出してください。
「どこに行きたいか・誰と行くか・どんな旅にしたいか」を決めてから、新幹線か飛行機か、どのホテルに泊まるかを考えますよね。
目的地も決めないまま「早い新幹線があるから乗ろう」とはなりません。
ビジネスも同じで、「誰に・何を届けるか」という目的地を先に決めるから、手段がはじめて意味を持ちます。

この「目的地を先に決める」という順番は、お店の規模や業種に関わらず変わりません。
個人で営む小さなお店でも、スタッフが10人いる会社でも、まず「自分のお客さまは誰か」「そのお客さまにとって、自分はどんな存在か」を定めることが土台になります。

だからこそ、経営者がマーケティングを学ぶときに最初に身につけるべきは、広告のテクニックや価格戦略(4P)ではなく、STPなのです。
「誰のために、何を届けるか」という軸が決まれば、商品も、値段も、売り場も、宣伝のことばも、すべてが同じ方向を向いて動き出します。
逆に言えば、この軸がないまま手段だけ磨いても、力が分散するだけです。

まとめ:お客さまの顔を思い浮かべることから始めよう

・4P(商品・価格・場所・宣伝)はマーケティングの「手段」
・STP(市場細分化・ターゲット設定・ポジショニング)は「方向性を決めるプロセス」
・正しい順番は「STPが先、4Pは後」
・「誰に・どんな価値を」が決まって初めて、すべての手段が生きてくる

広告費を増やしても売上が伸びないとき、新しい販売チャネルを探す前に、まず一度立ち止まってみてください。

「自分のお客さまは誰か?」「そのお客さまにとって、自分の商品・サービスはどんな意味があるか?」

この問いに答えられたとき、マーケティングのすべての手段が、あなたのビジネスのための力強い武器に変わります。
難しい理論より、まずはお客さまの顔を思い浮かべることから。
それが、売れる商売への一番の近道です。

この記事をシェアする

記事一覧へ戻る

関連記事 Relation Entry

This website stores cookies on your computer. These cookies are used to provide a more personalized experience and to track your whereabouts around our website in compliance with the European General Data Protection Regulation. If you decide to to opt-out of any future tracking, a cookie will be setup in your browser to remember this choice for one year.

Accept or Deny