利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「名選手が名監督とは限らない」—部下の力を引き出すことが、リーダーの本当の仕事

「名選手が名監督とは限らない」—部下の力を引き出すことが、リーダーの本当の仕事

部下の力を引き出す上司の役割

はじめに

「自分より優秀な部下を持つと、なんとなく不安になる」

こんな気持ちを抱えたことはありませんか?
特に、少人数で事業を営んでいる経営者や管理職の方は、「自分がすべての面でチームを引っ張らなければ」と感じがちです。
でも、実はその考え方が、チームの成長を知らず知らずのうちに妨げているかもしれません。

今回は、「上司・リーダーの本当の仕事とは何か」について、一緒に考えてみましょう。

背景:「教える側が、教わる側より優れていなければならない」という思い込み

学校の授業を思い出してください。先生は生徒よりも数学や国語が得意だから教えている、と私たちは自然にそう思い込んでいます。
だからでしょうか、職場でも「上司は部下よりも仕事ができなければならない」という空気が根強く残っています。

しかし、よく考えてみると、これは必ずしも正しくありません。

たとえばスポーツの世界を見てみましょう。「名選手、必ずしも名監督ならず」という言葉があります。
現役時代に輝かしい実績を残したアスリートが、引退後に監督になっても必ずしもチームを勝利に導けるわけではありません。
逆に、現役時代は平均的な成績だった人物が、名監督として長く活躍することもある。

これはなぜでしょうか。

選手として一流であることと、選手の力を最大限に引き出す指導者として一流であることは、まったく別のスキルだからです。
選手は自分自身の体を動かし、自分の感覚を磨くことに長けていればよい。しかし監督・指導者に求められるのは、相手の気持ちを読む力、弱点を見抜く観察眼、そしてやる気に火をつける声かけの技術です。

この構造は、職場のリーダーシップにもそのまま当てはまります。

上司の仕事は「舞台づくり」にある

「自分より仕事ができる部下は扱いにくい」という考えを手放すと、見えてくるものがあります。
それは、上司の本当の仕事は「部下が思い切り力を発揮できる舞台を整えること」だ、ということです。

そう考えると、上司はいわば「舞台監督」です。
主役はあくまでも部下。
舞台監督は表舞台には立ちませんが、照明・音響・段取りを整え、俳優が最高のパフォーマンスを披露できるよう、すべての準備を整えます。

そしてその根本にあるのは、部下の「意欲」を引き出すことです。

どんなに優れた能力を持っていても、やる気のない状態では人はその力を発揮できません。
逆に、少々経験が浅くても、「やってみよう」「この人のために頑張りたい」という気持ちがあれば、人は想像以上の成果を出すことがあります。
つまるところ、リーダーの仕事とは「人のエンジンに点火すること」と言ってもよいでしょう。

事例:工務店の現場監督・田中さんの変化

静岡県内のある小さな工務店(従業員8名)の話です。
現場監督の田中さん(45歳)は、20年以上の大工経験を持つ職人気質のベテランでした。
腕前は確かで、お客様からの信頼も厚い。
しかしその反面、「自分でやった方が早い」が口癖で、若い職人に仕事を任せることが苦手でした。

あるとき、会社の方針で新人の松本くん(23歳)が田中さんの現場に配属されました。
最初は田中さんもいつも通り、難しい作業は自分でこなし、松本くんには補助的な作業しか任せませんでした。
松本くんはいつも指示待ちで、なかなか成長しません。

転機は、田中さんが腰を痛めて一時的に重作業ができなくなったときです。
否応なく、松本くんに段取りを任せざるを得なくなりました。
田中さんは自分で手を動かす代わりに、横で声をかけることに専念しました。

「そこの水平、少し確認してみて」「ここはどうしたらよさそうか、一度考えてみて」

最初はぎこちなかった松本くんも、少しずつ自分で判断するようになっていきました。
田中さんも気づけば「教える」ことよりも「引き出す」声かけに変わっていました。

3か月後、松本くんは単独で簡単な現場を任されるまでに成長しました。
田中さんは振り返ってこう言います。
「腰を痛めてよかったかもしれない。あいつに任せて初めて、自分の仕事が変わった気がする」と。

田中さんが変えたのは技術ではなく、「関わり方」でした。
自分が主役として動くのではなく、部下が主役になれるように舞台を整える。
その姿勢のシフトが、チーム全体の底上げにつながったのです。

まとめ:「引き出す力」こそが、これからのリーダーに必要なもの

改めて整理しましょう。

上司・リーダーに求められるのは、「自分が一番優秀であること」ではなく、「メンバーの潜在能力を引き出すこと」です。
そのために大切なのは、次の三つです。

「環境づくり」を最優先にする

部下が仕事に集中できるよう、余計な障害を取り除き、必要な情報や環境を整えましょう。
「自分でやった方が早い」という誘惑を手放すことが、最初の一歩です。

「やる気の火」に敏感になる

人が力を発揮するかどうかは、技術よりも「気持ち」に左右されることが多くあります。
部下が「やってみたい」と思える仕事の渡し方、声のかけ方を意識しましょう。
小さな「ありがとう」や「よかったよ」が、大きな原動力になります。

「任せること」を恐れない

任せるということは、相手を信頼するということです。
最初から完璧にできなくてもよい。
失敗も含めた経験が、人を育てます。リーダーは「失敗させない人」ではなく、「失敗から立て直せる人を育てる人」です。

従業員が10名前後の規模では、一人ひとりの力が会社全体に直結します。
だからこそ、リーダーであるあなたが「引き出す力」を磨くことが、会社の成長に直接つながるのです。

名選手が名監督とは限らない。
この言葉を、ぜひ前向きに受け取ってください。
あなたが部下のすべてにおいて優れている必要はありません。
それよりも、「この人が輝ける場はどこか」を見つけ、整え、背中を押すこと。それがリーダーとしての最高の仕事です。

あなたのチームには、まだ眠っている力がきっとあります。

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