利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「会社」は道具である—あなたの想いを世に届けるための、大切な器

「会社」は道具である—あなたの想いを世に届けるための、大切な器

心と体は人生を生きるための道具

はじめに

突然ですが、少し哲学的な問いかけから始めさせてください。
「あなたにとって、会社とは何ですか?」

「売上を上げる場所」「生活を支える手段」「雇用を守る責任の器」—いろいろな答えが浮かぶと思います。
どれも正解です。
でも、もし経営がうまくいかなくなったとき、あるいは毎日が忙しすぎて何のために働いているのかわからなくなったとき、この問いの答えがあやふやだと、人は迷子になってしまいます。

今回は、ある哲学的な考え方をヒントに、「会社と自分の関係」を整理し直すことで、経営者としての軸足をもう一度しっかりと踏み固めるお話をしたいと思います。

「体や心は道具である」という考え方

哲学の世界には、こんな考え方があります。

「体や心は、自分そのものではない。自分という本質的な存在が、この世界で活動するために使う”道具”である」

少し難しく聞こえるかもしれませんが、噛み砕いて言えばこういうことです。

私たちは生まれてくるとき、まず「自分という存在」があり、それが人間としてこの世界で生きていくために「体」と「心」を持ちます。
体も心も、あなた自身の奥底にある本質—本当の「あなた」—を表現し、行動するための器であるということです。

大工さんで例えてみましょう。
腕の立つ大工さんにとって、鑿(のみ)や鉋(かんな)は大切な道具です。
でも、その道具が大工さん自身ではありませんよね。
道具を使いこなして、美しい家を建てるのが大工さんの本質です。
道具が傷んでいたら手入れをする。
使い方を間違えれば思った形にならない。
道具は大切に扱わなければなりませんが、道具に振り回されてはいけない。
大工さんの頭の中には、常に「どんな家を建てたいか」というビジョンがあるはずです。

これと同じことが、経営者と会社の関係にも言えるのです。

「会社」もまた、あなたの想いを届けるための道具

少し視点を変えてみてください。

あなたにとって「会社」や「事業」は、あなた自身の本質的な想いや価値観を、この社会に届けるための「道具」だと考えてみてください。

「道具」と聞くと、冷たい感じがするかもしれません。
でもそうではありません。
体や心が、私たちの本質を生かすための「命の道具」であるように、会社もまた、あなたの志や使命感を形にするための「大切な器」なのです。

この視点を持てると、不思議と経営の見え方が変わってきます。

たとえば、売上が伸び悩んでいるとき。
「会社=自分そのもの」と思っていると、売上の数字が自分自身の否定のように感じてしまうことがあります。
でも「会社は道具」だと思えると、「この道具の使い方を工夫しよう」「この器をもっと磨こう」という前向きな発想に切り替えられます。

また、従業員との関係で悩んでいるとき。
「自分の会社なんだから、自分の思い通りに動いてほしい」という考えから、「この仲間たちと一緒に、自分の想いをどう実現するか」という発想に変わっていきます。
これだけで、職場の空気がぐっと変わることがあります。

事例:花屋から始まった「地域の居場所づくり」

群馬県のある地方都市で、小さな花屋を営む田中さん(仮名・42歳)の話をご紹介します。

田中さんは、もともと大手スーパーの生花売り場に勤めていましたが、40歳を前に「自分のお店を持ちたい」と独立しました。
開業当初は順調でしたが、3年目ごろから近くに大型ホームセンターの花売り場ができ、価格競争では到底太刀打ちできなくなっていきました。

「このままでは廃業するしかない」と追い詰められた田中さんが、あるとき自分に問いかけたのです。
「私はなぜ花屋をやっているのか?」

売上のためではない。
競合に勝つためでもない。
よく考えると、田中さんが花屋を始めたのは、亡き母が「花をもらうといつも元気が出る」と言っていたことがきっかけでした。
「花の力で、誰かの気持ちを明るくしたい」—それが田中さんの本当の想いだったのです。

この気づきをきっかけに、田中さんは事業の在り方を大きく変えました。
価格で勝負するのをやめ、「花を通じた体験」を売ることにしたのです。

具体的には、近所のお年寄りを対象にした「押し花アート教室」を月2回開催。地域の子育て世代向けに、親子で楽しめる「小さな花束づくりワークショップ」を始めました。
さらに、地元の老人ホームと提携して、季節の花を届けながら入居者さんと話す「花の訪問サービス」も立ち上げました。

売上だけで見れば、最初の1年は大きな変化はありませんでした。
でも、お客さんの顔が変わりました。
「あなたのお店に来ると元気が出る」「田中さんに会いに来ました」という声が増えてきたのです。

2年後、口コミで評判が広まり、遠方からもワークショップに参加する人が現れるようになりました。
法人からのギフト注文も増え、売上は以前の1.5倍に。
従業員も2名から5名に増えました。

田中さんはこう言います。
「昔は売上のことばかり考えて、毎日しんどかった。でも今は、お客さんの笑顔が見たくて毎朝店に来るのが楽しい。会社は、私の想いを届けるための場所なんだって、ようやくわかりました」

道具を正しく使うために——経営者が大切にしたい3つの問い

田中さんの話から学べることは、「会社という道具を、何のために使うか」が明確になったとき、経営に一本筋が通るということです。

では、あなた自身に問いかけてみてください。

問い①「なぜ、この事業を始めたのか(続けているのか)?」

お金のためだけではない、もっと奥底にある理由を探してみてください。
怒りでも、悲しみでも、誰かへの感謝でも構いません。
そこにあなたの本質的な動機があります。

問い②「この事業を通じて、誰を、どう喜ばせたいのか?」

会社という道具が届けたい相手と、届けたいものを具体的にイメージしてみてください。
顔が浮かぶほど具体的なほど、経営の判断がブれにくくなります。

問い③「今の経営は、その想いを届けられているか?」

日々の忙しさの中で、気づけば「道具の手入れ」ばかりになっていることがあります。
売上管理、資金繰り、スタッフのシフト—もちろん大切ですが、それは手段です。
本来の目的から離れていないか、定期的に確認することが大切です。

まとめ:あなたの会社は、あなたの「志」を形にする器

体や心が、自分という本質的な存在を生かすための道具であるように、会社や事業もまた、あなたの本質的な想いや志を社会に届けるための大切な器です。

会社が苦しいときも、道に迷ったときも、この視点に立ち戻ることで、「何をすべきか」が見えてきます。

道具は大切に扱わなければなりません。
でも、道具に振り回されてはいけません。
あなたが道具の主人公であることを忘れないでください。

鑿を握る大工さんが「どんな家を建てたいか」という夢を持つように、あなたが「この事業でどんな世界を作りたいか」という想いを持つとき、会社はその想いに応えて、必ず輝き始めます。

あなたの想いは、価値があります。
その想いを届けるための器として、今日も会社を大切に育てていきましょう。

この記事をシェアする

記事一覧へ戻る

関連記事 Relation Entry