利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

チームの空気は「行動」から生まれる―心理的安全性と柔軟なリーダーシップの話

チームの空気は「行動」から生まれる―心理的安全性と柔軟なリーダーシップの話

心理的安全性を行動から変える

なぜ「空気」を変えるのは難しいのか

「うちのチームは、なんとなく意見が出にくい雰囲気がある」「失敗を責める空気が染み付いている」―こんな悩みを抱える経営者の方は少なくありません。

「心理的安全性」という言葉を聞いたことがある方も増えてきました。
これは、チームの中で誰もが安心して意見を言える状態のことです。
失敗を恐れずに発言でき、ミスを素直に報告でき、新しいアイデアを出しやすい。
そんな「チームの空気」のことだと言い換えてもいいでしょう。

ところが、この「空気」を変えようとするとき、多くのリーダーが壁にぶつかります。
「もっとオープンなチームにしよう」「風通しをよくしよう」と心がけても、なかなか変わらない。それはなぜでしょうか。

答えは、「空気」や「文化」というものは、目に見えないものだからです。
壁に貼ってある標語を変えたり、朝礼でスローガンを唱えたりするだけでは、チームの根本は変わりません。
「文化を変えよう」と直接働きかけようとすることは、まるで「風を手でつかもうとする」ようなもので、そもそも直接触れることができないのです。

では、どうすればいいのでしょうか。
ここに、ひとつの大切な気づきがあります。

「文化」は行動の積み重ねでできている

チームの文化や雰囲気というものは、実は一日にして作られたものではありません。
毎日の小さな行動の積み重ね―それが長い時間をかけて「チームのあたりまえ」になっていったものです。

たとえば、誰かが会議でミスを正直に報告したとき、リーダーが「教えてくれてありがとう、一緒に考えよう」と返した。
こういう場面が繰り返されると、「このチームでは正直に話せる」という感覚が自然と根付いていきます。
逆に、「なんでそんなミスをしたんだ」と責める言葉が繰り返されれば、やがて誰もミスを報告しなくなる。
チームの文化とは、こうした「行動のパターンの蓄積」にほかなりません。

料理に例えてみましょう。
「この店の味」というものは、何年もかけてシェフが積み重ねてきたレシピ、調理手順、食材の選び方といった「行動のくせ」の集まりです。
「今日から味を変えよう」と思っても、一夜にして変わるものではありません。
しかし、毎日の仕込みや調理の方法を少しずつ変えていけば、半年後、一年後には確かに「味」が変わっている。
チームの文化も、これとまったく同じです。

つまり、「文化を変えたい」と思ったら、まずやることは一つです。
「行動に目を向ける」こと。
チームの中でどんな行動が起きているか、どんな行動を増やしたいか、そこにフォーカスすることが、文化を変える唯一の入口なのです。

事例:塗装業・中村工務店の場合

静岡県内で外壁塗装を手がける中村工務店(従業員8名)では、数年前まで職人同士の情報共有がほとんどできていませんでした。
現場で気になったことがあっても「余計なことを言って関係が悪くなるのが嫌だ」という空気があり、問題が表に出てこないまま、後から大きなトラブルになることが続いていました。

社長の中村さんは「もっと何でも言えるチームにしたい」と思いながらも、何から手をつければいいかわからずにいました。
そこで、ある日から一つだけ取り組みを始めました。
毎朝の朝礼の最後に「昨日気になったこと、困ったこと、ちょっとした発見、なんでもいいので一言ずつ話してほしい」と呼びかけるようにしたのです。

最初のうちは「特にないです」という返事ばかりでした。
しかし中村さんは焦らず、自分から「昨日、〇〇現場でこんなことがあって、私はこうしたけれど、もっといいやり方があったかも」と率先して話し続けました。一か月ほどすると、ベテランの職人がぽつりと「実は先週の現場、ちょっと気になるところがあって」と言い出しました。
中村さんはすぐに「それ、教えてくれてよかった!どんな感じだった?」と前のめりに聞きました。

この小さなやり取りが、チームの中で少しずつ広がっていきました。
「話してみたら怒られなかった」「むしろ感謝された」という経験が積み重なり、半年後には自然と「気になることはすぐ共有する」という文化が生まれていたのです。
クレームの件数も減り、現場での手戻り作業も明らかに少なくなりました。
中村さんが変えたのは、チームの「空気」ではなく、毎朝の「行動」だったのです。

「しなやかなリーダーシップ」が鍵になる

ここで大切なのは、「どんな行動から始めるか」は、チームの歴史や状況、そしてメンバーの個性によって変わるということです。
中村工務店のように朝礼での一言共有が効果的なチームもあれば、まずは個別の面談から始めた方がいいチームもある。
長年のベテランが多いチームと、若い世代が中心のチームとでは、同じアプローチが通じるとは限りません。

これが「心理的柔軟なリーダーシップ」の本質です。
「こうすればうまくいく」という一つの正解を押しつけるのではなく、チームのこれまでの歴史や、一人ひとりの性格や状況をよく見ながら、その場に合った形で行動を引き出していく。
竹のように、風を受けながらもしなやかに曲がり、折れることなく前へ進んでいく姿勢です。

「チームを変えること」は、大きなプロジェクトに聞こえるかもしれません。しかし実際には、今日の会議での一言、部下のミスへの反応の仕方、朝のあいさつのひとつひとつが、チームの文化を少しずつ形作っています。
リーダーとして今できることは、「文化を変えよう」と気負うことではなく、「今日、どんな行動をとるか」に意識を向けることです。

まとめ―行動という「小さな一歩」から始めよう

チームの雰囲気や文化は、直接変えようとしても変わりません。
でも、行動は変えられます。そして、行動の積み重ねが、やがて文化を変えていきます。

心理的安全性とは、「言ったもの勝ちの雑然とした職場」ではありません。
失敗を責めず、一人ひとりの声に耳を傾け、チャレンジを歓迎する行動が繰り返される中で、自然と生まれてくるものです。

今日から始められる「行動」は何でしょうか。
メンバーの発言に「それ、いいね」と返してみること、自分のミスを率直に話してみること、あるいは「最近どう?」と声をかけてみることかもしれません。
どれだけ小さくても構いません。
大切なのは、一歩踏み出すことです。

その小さな行動が、チームの明日を少しずつ、でも確かに変えていきます。

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