利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

部下の力を引き出す「待つ勇気」—コーチングが変える、小さな会社の大きな可能性

部下の力を引き出す「待つ勇気」—コーチングが変える、小さな会社の大きな可能性

部下の力を引き出すコーチング

「答えを教える上司」より「答えを引き出す上司」

あなたは今日、何回「こうすればいい」と部下に答えを教えましたか?

忙しい経営者にとって、それはごく自然な行動です。
自分の経験と知識があるのだから、サッと答えを出してあげたほうが早い。
部下も喜ぶ。
会社も回る。
そう感じている方は多いでしょう。

ところが、その「親切な一言」が、知らず知らずのうちに部下の成長を止めているとしたら、どうでしょうか。

コーチングとは、一言で言えば「人の主体的な行動をうながす技術」です。
相手の中にすでに眠っているアイデアや力を、対話を通じて一緒に掘り起こし、その人自身が動き出すための原動力に変えていく—そういうコミュニケーションのあり方です。

難しそうに聞こえますが、その本質はとてもシンプルです。
「答えを与えること」をやめて、「答えを待つこと」を選ぶ。それだけです。

「待つ」ことの、想像を超えた力

たとえば、部下が「〇〇の件、どうすればいいでしょうか」と相談してきたとします。

あなたの頭の中には、すでに「こうすればいい」という答えが浮かんでいる。
でも、そこであえてこう聞いてみてください。

「きみは、どうしようと思っているの?」

すると、多くの場合、部下は「うーん……」と黙り込みます。
この沈黙の瞬間、多くの上司は不安になります。
「フォローしなきゃ」「気まずい」「時間が惜しい」と感じて、つい口を開いてしまう。

でも、ここが大事なところです。

この沈黙は「考えていない」のではなく、「深く考えている」サインなのです。
人は問いを立てられると、脳の中で無意識に情報を整理し始めます。
しばらく待つと、「あ、実はこういう方法が思い浮かんでいて……」という言葉が、ポツリポツリと出てきます。
そしてそのアイデアは、あなたが「教えて」あげようとしていたものとはまったく違う、その人ならではの発想であることが少なくありません。

コーチングの現場では、「待つ側がどんな気持ちで待つか」が非常に重要だとされています。
「この人はきっと何かを見つけられる」という信頼を心に持ちながら待つのと、「早く答えを言ってくれないかな」という気持ちで待つのとでは、相手への影響がまったく変わってしまうのです。

言葉は乗り物に例えられます。
同じ「どうしようと思う?」という言葉でも、そこに「あなたを信じている」という気持ちが乗っているかどうかで、相手の心への届き方がまるで違う。
信頼という燃料がなければ、どんな言葉の乗り物も走り出さないのです。

事例:工務店の若手現場監督が変わった話

静岡県で外壁塗装・リフォームを手がけるK工務店(従業員8名)では、数年前まで「なんでも社長に聞く」という文化が根付いていました。

社長の田中さん(仮名・48歳)は職人気質で、仕事の段取りから顧客対応まで、何でも自分でこなしてきた人物です。
若手の現場監督・山本くん(仮名・27歳)が何か問題にぶつかるたびに「社長、どうしたらいいですか?」と連絡してくる。
田中さんはその都度、的確な答えを教えていました。

でも、田中さんはある日、気づきます。
「山本はもう3年目なのに、いまだに一人で判断できない。このままでは自分がいなければ何もできない会社になってしまう」と。

そこで田中さんは、あるセミナーでコーチングの考え方に出会い、試してみることにしました。

次に山本くんから「どうすればいいですか?」と電話がかかってきたとき、田中さんはいつもと違う返し方をしました。

「山本、おまえはどうしたらいいと思う?」

電話口でしばらく沈黙が続きます。
田中さんは焦る気持ちをこらえながら、ただ静かに待ちました。
「山本はきっと自分で考えられる」と心の中で繰り返しながら。

すると山本くんは、おそるおそる自分の考えを話し始めました。
「えっと……お客さんにまず現状を確認してもらって、それから代替案を2つ提示するのはどうでしょう……」

田中さんは驚きました。
自分が教えようとしていた方法と、ほぼ同じだったからです。
「それ、いいじゃないか。やってみろ」。

その一言が、山本くんを変えました。
「自分の考えが通った」という体験は、彼の中に大きな自信を生みました。
それ以降、山本くんはトラブルがあるたびに「自分はどうすべきか」をまず自分で考えてから田中さんに相談するようになり、半年後には多くの現場判断を自分で下せるようになっていました。

田中さんは言います。
「あのとき黙って待ったのが、正直つらかった。でも、それが一番の部下育成だったと今はわかる」と。

まとめ:「答えを与える経営者」から「力を引き出す経営者」へ

従業員10名以下の中小企業や個人事業では、経営者自身が現場の最前線に立つことが多い分、「自分が引っ張る」スタイルになりがちです。
それは決して悪いことではありません。
でも、会社をもう一段成長させたいと思うなら、「人が自分で動ける仕組み」を作ることが欠かせません。

コーチングは、高価なツールも特別なスキルも必要ありません。
必要なのは、たった二つです。

一つ目は、「きみはどうしようと思う?」というシンプルな一言。
二つ目は、相手が答えを見つけると信じて、じっと待つ勇気。

この二つを組み合わせるだけで、部下の中に眠っていた力が動き出します。
最初はぎこちなくても構いません。
「待つ」ことに慣れていない自分に気づくことが、すでに大きな一歩です。

あなたの会社の中には、まだ引き出されていないアイデアや可能性が、きっとたくさん眠っています。
それを目覚めさせるカギは、実はあなたの「沈黙」の中にあるかもしれません。

次に部下が相談を持ちかけてきたとき、ぜひ試してみてください。
「きみはどうしようと思う?」—そして、信じながら、待つ。

その小さな実験が、あなたの会社を変える第一歩になるはずです。

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