目先のコスト削減に潜む、会社の「宝」を失うリスク

最近、海外の安い商品が増えて、値下げ競争が大変になってきた。
「うちもコストを削減するために、自社での生産はやめて、人件費の安い海外の工場に製造をお願いしよう」
――― このように考える経営者の方は少なくありません。
一見すると、とても合理的な判断に思えますよね。
しかし、これが典型的な「筋の悪い」話、つまり落とし穴のある考え方なのです。

確かに、海外の工場に製造をお願いすれば、目先の費用は安くなるかもしれません。
しかし、少し考えてみてください。その海外の工場は、あなたの会社だけが使える特別な工場でしょうか?
おそらく、ライバル会社も同じように利用できるはずです。
みんなが同じ方法で費用を安くしたら、結局また同じ土俵での価格競争に戻ってしまいます。
これでは、本当の意味でライバルに差をつけることはできません。

もっと深刻なのは、会社の「宝」とも言える技術を失ってしまう危険性です。

これは、人気のラーメン屋さんが、手間とコストを惜しんで、命である「秘伝のタレ」の作り方を外部の食品工場に丸投げしてしまうようなものです。

自社でのモノづくりをやめてしまえば、日々の改善や工夫の中で磨かれてきた現場の知恵や技術、つまり「秘伝のタレ」を育てる機会が失われてしまいます。
それどころか、海外の工場にうまく作ってもらうために、こちらの作り方のコツを細かく教える必要が出てくるでしょう。

その結果、独自の技術が外に漏れてしまい、いつの間にか誰でも同じ味が出せるようになってしまうかもしれません。
長い目で見れば、これまでお客様に選ばれ続けてきた「あの店ならではの味」、つまり会社の強みそのものを失いかねないのです。

もちろん、海外の工場と上手に連携すること自体が悪いわけではありません。
問題なのは、「コストを下げたい」という目の前の課題に対し、「海外に頼めば安くなる」という単純な原因と結果だけで飛びついてしまうことです。
短期的な視点だけで判断し、自社の「宝」である強みを軽視してしまうことこそが、会社の未来を危うくする「筋の悪い」話の本質なのです。