一見非効率に見える場所にこそ、勝てる理由がある
ある地方の山間部に、従業員数名の小さな「手縫い革製品の工房」があります。
この工房の財布やバッグは「絶対に糸がほつれない」と評判で、全国から注文が殺到し、高い利益を出しています。
しかし、この工房のやり方は、常識から少し外れています。
・場所が不便すぎる: お客様が買いに来やすい都市部や、材料が手に入りやすい問屋街ではなく、周りに何もない山奥の集落にポツンと建っています。
・手間がかかりすぎる: ミシンを使えば数分で終わる作業を、あえてすべて手作業(手縫い)で行っています。
なぜ、わざわざこんな非効率なやり方をしているのでしょうか?
そこには、「こうしないと勝てない」という明確な理由(=筋書き)があるのです。
理由1:品質の肝は「熟練の職人技」だから
この工房の最大の武器は「何十年使っても壊れない品質」です。
これを実現するには、機械ではなく、熟練した職人が一針一針、力の加減を調整しながら縫う必要があります。
つまり、「人の腕」がすべてです。
理由2:都会では「職人」が育たないから
以前は都会に工房がありました。
しかし、都会には他にも楽で時給の良い仕事がたくさんあります。
厳しい修行に耐えられず、若手はすぐに辞めてしまい、技術が定着しませんでした。
理由3:山奥なら「辞めない」から
そこで、あえて周りに他の会社やお店が全くない山奥を選びました。
ここで地元の手先が器用な人を採用し、じっくり育てます。
周りに転職先がないため、一度就職すると定着率が非常に高くなります。
結果として、「超・熟練職人」が育ち、他には真似できない最高品質の商品が作れるようになったのです。
理由4:商品は「小さくて軽い」から
山奥で作ると出荷が大変そうに見えます。
しかし、財布や小物は「小さくて軽い」ため、宅急便で送ればコストは安く済みます。
家具のような重い製品ならこうはいきませんが、革小物なら場所のハンデは関係ないのです。
解説:このお話から学べる「経営のヒント」
いかがでしょうか。
一見すると「なんでそんな不便な場所に?」と思うことでも、「熟練した人を辞めさせないため」という目的を知ると、すべてのつじつまが合いますよね。
専門用語でこれを「戦略ストーリー(因果論理)」と呼びますが、要は「パズルのピースがピタッとはまっている状態」のことです。
この事例のポイントは以下の3つです。
1.「強み」を中心に考える
この工房の強みは「手縫いの技術」です。
だからこそ、一番大切な「職人」が辞めない環境を作ることを最優先しました。
2.弱点を強みに変える
「周りに何もない田舎」は、普通ならデメリットです。
しかし、「従業員がよそ見をせず、長く働いてくれる」という意味では、最高のメリットに変わります。
3.「つながらないこと」はやらない
もしこの工房が「重たい家具」を作っていたら、送料が高すぎてこの作戦は失敗していたでしょう。
「軽くて運びやすい商品」だからこそ成立する作戦です。
社長へのご提案
御社のビジネスでも、一見すると「業界の常識とは違う」「非効率に見える」ことでも、「御社の強み(こだわり)」を守るためなら、それが正解である場合があります。
・「他のお店はみんなこうしているから」
・「普通は便利な場所がいいから」
といった常識に流されず、「うちは〇〇が売りだから、あえて××をする」という、御社だけの勝ちパターン(ストーリー)を探してみませんか?

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