新しいカテゴリーをつくる戦略
~新しい土俵をつくる「カテゴリー発想」のすすめ~
はじめに:二番手は覚えてもらえない?
大西洋を単独飛行で初めて横断したのは、チャールズ・リンドバーグです。
では、二番目に成功した人の名前をご存じでしょうか。
おそらく、ほとんどの方が答えられないと思います。
実は「バート・ヒンクラー」という人物なのですが、この名前を聞いたことがある方は少ないでしょう。
ところが、三番目の人の名前は多くの方が知っています。
アメリア・エアハートです。なぜ二番手より三番手のほうが有名なのでしょうか。
答えは簡単です。
アメリアは「大西洋単独横断の三番目の人」ではなく、「大西洋を単独で横断した最初の女性」として記憶されているからです。
つまり、彼女は「単独横断」という土俵では三番手でしたが、「女性として初めて」という新しい土俵をつくることで、一番手になったのです。
この考え方は、私たち中小企業の経営にも大きなヒントを与えてくれます。
なぜ「一番」が重要なのか
私たちの脳は、情報を整理するために「一番」を記憶しようとする性質があります。
日本で一番高い山は富士山。では二番目は?(北岳です)
日本で一番大きな湖は琵琶湖。では二番目は?(霞ヶ浦です)
このように、一番は覚えていても、二番以降はなかなか出てこないものです。
ビジネスの世界でも同じことが起きます。
お客様の頭の中で「○○といえば△△」という形で一番手のポジションを取れれば、それだけで大きなアドバンテージになります。
しかし、多くの市場ではすでに強い一番手が存在しています。
「うちの商品のほうが品質がいい」「うちのサービスのほうが丁寧だ」と主張しても、すでに一番手の座を確立した企業を追い抜くのは容易ではありません。
では、後発の私たちはどうすればいいのでしょうか。
「土俵を変える」という発想
ここで大切になるのが、「新しいカテゴリー(土俵)をつくる」という発想です。
コンピュータ業界の例を見てみましょう。
IBMがコンピュータ市場で圧倒的な一番手になったとき、多くの企業がその後を追って同じ市場に参入しました。
しかし、IBMを追い抜くことはできませんでした。
そんな中、デジタル・エクイップメント社(DEC)は違う道を選びました。
IBMと同じ大型コンピュータで戦うのではなく、「ミニコンピュータ」という新しいカテゴリーを切り開いたのです。
その結果、DECはIBMに次ぐ成功を収めました。
ポイントは、「競合より優れているか」ではなく、「何が新しいか」を考えたことです。
同じ土俵で「うちのほうが優れています」と言っても、お客様はなかなか聞いてくれません。
でも、「これは今までになかった新しいものです」と言えば、興味を持ってもらえるのです。
身近な事例で考えてみましょう
この「新しい土俵をつくる」という発想は、大企業だけのものではありません。
むしろ、私たち中小企業こそ活用すべき考え方です。
いくつか身近な例を挙げてみます。
【事例1】街の電器店の生き残り戦略
家電量販店が台頭する中、多くの街の電器店が苦戦を強いられました。
価格では大手にかないません。
品揃えでも勝てません。
そんな中、生き残った電器店の多くは「地域の高齢者向け家電サポート専門店」という新しいポジションを確立しました。
「テレビのリモコンの使い方がわからない」「エアコンの設定を変えてほしい」「インターネットの接続を手伝ってほしい」—こうした細かな困りごとに、すぐに駆けつけて対応してくれる。
これは大手量販店にはできないことです。
「家電を安く売る店」では勝てなくても、「高齢者の暮らしを支える家電の相談役」という土俵なら、一番になれるのです。
【事例2】美容室の差別化
美容室は競争が激しい業界です。
技術やサービスで差をつけようとしても、どこも一定以上のレベルがあり、お客様から見ると違いがわかりにくいものです。
ある美容室は、「働くお母さん専門の美容室」という新しいカテゴリーを打ち出しました。
店内にキッズスペースを設け、子どもを見守りながら施術を受けられる。
予約は育児の合間に取りやすいようLINEで完結。
施術時間も「お迎えに間に合う」ことを最優先に設計。
「カットが上手い美容室」という土俵では埋もれてしまいますが、「働くお母さんが安心して通える美容室」という土俵では地域で一番になれます。
【事例3】税理士事務所の専門特化
私の業界である税理士事務所も同様です。
「税務申告ならお任せください」では、どの事務所も同じに見えてしまいます。
そこで、「飲食店専門」「建設業専門」「医療機関専門」など、特定の業種に特化する事務所が増えています。
「税理士」という広い土俵では何万もの事務所と競合しますが、「飲食店経営に詳しい税理士」という土俵なら、その分野で一番手を目指せます。
新しいカテゴリーを見つけるヒント
では、自社にとっての「新しい土俵」はどのように見つければいいのでしょうか。
いくつかの切り口をご紹介します。
「誰に」を絞り込む
同じ商品・サービスでも、対象を絞ることで新しいカテゴリーが生まれます。
・「女性向け」「シニア向け」「子育て世代向け」
・「初心者向け」「プロ向け」
・「○○業界向け」「○○地域限定」
「いつ・どこで」を変える
提供する時間や場所を変えることで、新しい価値が生まれます。
・深夜営業、早朝営業
・出張サービス、オンライン対応
・短時間特化(10分カット、15分整体など)
「何を組み合わせるか」を考える
既存のものを組み合わせることで、新しいカテゴリーが生まれることもあります。
・「カフェ+コインランドリー」
・「書店+ビール」
・「美容室+ネイル+エステ」
「何をしないか」を決める
あえて機能を削ることで、新しいポジションが取れることもあります。
・メニューを絞り込んだ専門店
・接客を最小限にしたセルフサービス
・品揃えを限定した厳選ショップ
大切なのは「カテゴリー」を売ること
新しいカテゴリーで一番手になったら、次に大切なのは「カテゴリーそのものを売り込む」ことです。
例えば、先ほどの「働くお母さん専門の美容室」であれば、自分の店の宣伝をする前に、「子連れでも気兼ねなく美容室に行ける」という体験そのものの価値を伝えることが重要です。
なぜなら、新しいカテゴリーにはまだ競合がいないからです。
まずは「そういう選択肢があるんだ」とお客様に知ってもらうこと。
それができれば、そのカテゴリーの第一人者として自然と選ばれるようになります。
まとめ:後発でも勝てる道はある
今日お伝えしたかったことをまとめます。
同じ土俵で「うちのほうが優れている」と戦っても、一番手には勝てない
お客様の頭の中には、すでに「○○といえば△△」というイメージができあがっています。
これを覆すのは非常に困難です。
新しいカテゴリー(土俵)をつくれば、そこで一番になれる
「誰に」「いつ」「どこで」「何を」—切り口を変えることで、まだ誰も一番手になっていない領域が見つかります。
考えるべきは「どこが優れているか」ではなく「どこが新しいか」
お客様は「優れている」という主張には身構えますが、「新しい」ものには自然と興味を持ちます。
大企業と同じ土俵で戦う必要はありません。
自社だからこそ提供できる価値を見つめ直し、その価値が一番輝く土俵を自分でつくる。
それが、私たち中小企業の賢い戦い方ではないでしょうか。
ぜひ一度、「自社が一番になれる新しいカテゴリーは何か」を考えてみてください。
思いがけない可能性が見つかるかもしれません。

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