商品の違いを伝える工夫
はじめに:真似されたとき、どう戦いますか?
「うちの商品は、品質には自信があるんです。でも、なぜか選んでもらえなくて……」
こんなお悩みを抱えている経営者の方は、少なくないのではないでしょうか。
良い材料を使って、手間をかけて、こだわりを持ってつくっている。
それなのに、安い類似品に負けてしまう。
あるいは、お客さまに「どこが違うの?」と聞かれても、うまく説明できない。
今回は、この悩みを乗り越えた愛媛県今治市のタオル産業の話を入り口に、「品質だけでは伝わらない価値」をどう届けるかについて、一緒に考えてみたいと思います。
「産地消滅」の危機に追い込まれた今治タオル
「今治タオル」と聞けば、多くの方が「高品質な国産タオル」をイメージされるのではないでしょうか。
贈り物や引き出物の定番として、今や全国的に知られるブランドです。
しかし、ほんの20年ほど前まで、今治のタオル産業は「産地消滅」の危機に瀕していました。
今治市は、明治時代からタオルの一大生産地として栄え、かつては国内生産の4割以上を占めていました。
ところが、1990年代後半から中国やベトナムなどからの安い輸入タオルが急増。
今治タオルの生産量は、ピーク時のなんと5分の1にまで落ち込んでしまったのです。
かつて600社近くあったタオルメーカーは、100社強にまで減少。
組合には「もうダメだ」という悲壮感が漂っていたといいます。
実は、今治のタオルは品質の面では非常に優れていました。
今治の温暖な気候と、蒼社川の軟水がタオルづくりに適しており、吸水性が高く肌触りの良いタオルをつくる技術が脈々と受け継がれてきたのです。
でも、その「良さ」が、消費者には伝わっていませんでした。
店頭に並ぶタオルを見て、「これが今治産なのか、中国産なのか」、お客さまには区別がつかなかったのです。
どんなに品質が良くても、それが伝わらなければ、結局は「安いほう」が選ばれてしまいます。
「品質が良い」だけでは、選ばれない理由
ここで少し立ち止まって考えてみましょう。
なぜ、品質の違いが伝わらなかったのでしょうか。
たとえ話で考えてみます。
あなたが初めて訪れた街で、タオルを買おうとしているとします。
お店には似たようなタオルがたくさん並んでいます。
どのタオルも「ふんわり」「吸水性抜群」と書いてあります。
さて、どうやって選びますか?
正直なところ、触っただけではわかりませんよね。
説明書きを見ても、どれも同じように見えます。
これが「スペック(性能や品質)だけでは伝わらない」という問題の本質です。
お客さまは専門家ではありません。
糸の太さや織り方の違いを、見ただけで判断することは難しい。
だから、どんなにこだわっていても、それを「言葉」や「数字」で伝えるだけでは、他との違いがわかりにくいのです。
今治タオルが見つけた「真似できないもの」
2006年、今治タオルの復活プロジェクトが始まりました。
プロジェクトを率いたクリエイティブディレクターの佐藤可士和さんは、まず今治のタオルを実際に使ってみました。
そして、そのあまりの心地よさに感激したそうです。
しかし同時に、ある重大な問題に気づきました。
タオルのどこにも「今治」と書いていない。
つまり、このタオルの良さに感動した人がいても、それが今治産なのか、他の産地のものなのか、区別がつかないのです。
そこで佐藤さんは考えました。「今治タオルにしかないものは何だろう?」
品質の高さは、時間をかければ他の産地でも追いつける可能性があります。
でも、真似できないものがありました。
それは「産地としての歴史と物語」です。
120年以上にわたってタオルをつくり続けてきた歴史。
蒼社川の軟水という恵まれた環境。職人たちが受け継いできた技術と誇り。
これらは、今治だけのものです。
他の産地がいくら品質を上げても、この「物語」までは真似できません。
「見えない価値」を「見える形」に変える
今治タオルプロジェクトでは、この「物語」を目に見える形にしていきました。
まず、今治タオルのロゴマークを作成しました。
青・白・赤の3色で構成されたシンプルなデザインは、今治の空と海と太陽を表現しています。
このロゴマークがついていれば、一目で「今治タオル」とわかるようになりました。
しかし、ロゴマークをつけるだけではありません。
「今治タオル」を名乗るためには、12項目の厳格な品質基準をクリアしなければなりません。
たとえば「タオル片が水に沈み始めるまでの時間が5秒以内」という吸水性の基準があります。
この基準を満たしたタオルだけが、あのロゴマークをつけることができるのです。
さらに、「タオルソムリエ」という資格制度も創設されました。
お客さまのニーズに合ったタオルを提案できる専門家を育成し、今治タオルの魅力を伝える役割を担っています。
また、あえて「白いタオル」をコアプロダクトに設定したのも印象的です。
当時、今治タオルの売りは高度な技術で織られた色柄のタオルでした。
しかし、「本当の品質の良さは、シンプルな白いタオルにこそ表れる」と考え、各社に「最高級の白いタオルをつくってくれ」と依頼しました。
すると、同じ白でも各社で微妙に風合いが異なる、品質の高さが一目でわかるタオルが揃いました。
「安心・安全・高品質」という本質的な価値が、白いタオルという形で表現されたのです。
「産地」が一つになって伝えた物語
このプロジェクトで特筆すべきは、100社以上のメーカーが「競争相手」ではなく「仲間」として協力したことです。
佐藤さんは、フランスのシャンパーニュ地方をモデルにしました。
シャンパーニュでは、各ワイナリーが競い合いながらも、「シャンパーニュ」という産地ブランドを一緒に育てています。
同じように、今治でも「今治タオル」というマスターブランドをまず確立し、その上に各社のブランドが乗るという戦略を立てたのです。
この「産地が一つになる」という物語自体が、今治タオルの価値になりました。
プロジェクト開始から4年目、今治タオルの生産量は回復に転じ、売上も増大し始めました。
以前は百貨店でも安い輸入品と同じ価格帯での競争を強いられていましたが、今では5,000円、10,000円のバスタオルが百貨店に並ぶようになっています。
品質は変わっていません。
変わったのは「伝え方」です。
でも、それだけでお客さまの見方が変わり、「選ばれる存在」になっていきました。
別の事例:町の豆腐屋さんが「選ばれる存在」になった話
この考え方は、大きな産地だけのものではありません。
もう一つ、小さなお店の事例をご紹介します。
ある地方都市に、家族経営の小さな豆腐屋さんがありました。
三代続く老舗で、地元の大豆を使い、昔ながらの製法でていねいに豆腐をつくっています。
しかし、スーパーには安い豆腐がずらりと並ぶ時代。
「美味しいけど、ちょっと高いよね」と言われることも増え、売上は年々下がっていました。
ご主人は「うちの豆腐は、本当に美味しいんだ」と思っていました。
でも、それだけでは選んでもらえない。今治タオルと同じ壁にぶつかっていたのです。
そこで、ご主人は「なぜ自分が豆腐屋を継いだのか」を振り返りました。
祖父が戦後に始めた店。
父が守り続けた味。
子どもの頃、毎朝5時に起きる父の背中を見て育った記憶。
地元の農家さんと「この土地の大豆を絶やしたくない」と語り合った夜のこと。
ご主人は、これを手書きの「おたより」にして、豆腐と一緒に届けるようにしました。
毎月一枚、季節の話や、豆腐づくりの裏側、大豆農家さんの紹介などを書いています。
すると、少しずつ変化が起きました。
「おたよりを読んで、応援したくなりました」
「孫に読み聞かせています」
という声が届くようになったのです。
価格ではなく、「この店から買いたい」という理由で選んでもらえるようになりました。
味や品質は変わっていません。
変わったのは、「伝え方」だけです。
でも、それだけでお客さまとの関係が変わったのです。
中小企業だからこそできる「物語の発信」
大企業は、広告に何億円もかけられます。
テレビCMを流し、有名タレントを起用し、圧倒的な認知度を獲得できます。
中小企業には、その力はありません。
でも、だからこそできることがあります。
それは「自分たちの言葉で、自分たちの物語を語る」ことです。
創業の経緯、商品へのこだわり、お客さまへの思い。
失敗談や苦労話。
地域との関わり。
これらは、その会社だけのものです。
大企業のように洗練されていなくても構いません。
むしろ、飾らない言葉のほうが、心に届くこともあります。
発信の手段も、お金をかけなくてもできることはたくさんあります。
商品に同封するお手紙、ホームページのコラム、SNSでの日常の発信、お客さまへの年賀状。
小さな積み重ねが、やがて大きな「信頼」になっていきます。

まとめ:スペックの先にある「選ばれる理由」
今回のお話をまとめます。
良い商品をつくることは、もちろん大切です。
品質は、ビジネスの土台です。
でも、品質だけでは「選ばれる理由」にはなりにくい。
なぜなら、お客さまは専門家ではないからです。
だからこそ、「なぜこの商品をつくっているのか」「どんな思いを込めているのか」という物語を伝えることが大切になります。
物語は、真似できません。
あなたの会社だけのものです。
今治タオルも、町の豆腐屋さんも、商品そのものは変わっていません。
変わったのは「伝え方」です。
でも、それだけでお客さまの見方が変わり、「選ばれる存在」になっていきました。
あなたの会社には、どんな物語がありますか?
創業のきっかけ、商品に込めた思い、お客さまとの忘れられないエピソード。
きっと、語るべき物語があるはずです。
それを言葉にして、少しずつ届けてみてください。
スペックの先にある「あなただけの価値」が、きっとお客さまに届くはずです。

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