利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

なぜ今、ブランドには「社会への貢献」が求められるのか

なぜ今、ブランドには「社会への貢献」が求められるのか

消費者の価値観の変化とブランドの役割

はじめに:商品の良さだけでは選ばれにくい時代

「うちの商品は品質がいいのに、なかなか売れない」「価格で勝負するしかないのか」—そんなお悩みを抱える経営者の方は少なくありません。

実は今、消費者が商品やサービスを選ぶ基準が、少しずつ変わってきています。
もちろん「品質が良いこと」「価格が手頃であること」は大前提です。
しかしそれだけでは、数ある選択肢の中から「この会社から買いたい」と思ってもらうことが難しくなっているのです。

では、何が違いを生むのでしょうか。
それが「この会社は何のために存在しているのか」「社会にどんな良いことをもたらそうとしているのか」という、会社やブランドの”志”です。
最近では「ブランドパーパス」とも呼ばれるこの考え方が、なぜ今注目されているのかを見ていきましょう。

背景:「エシカル消費」という新しい価値観

買い物で社会を良くしたい

「エシカル消費」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。
「エシカル」とは「倫理的な」という意味で、簡単に言えば「環境や社会に配慮した買い物をしよう」という考え方です。

たとえば、こんな経験はないでしょうか。
スーパーで買い物をするとき、「地元の農家さんが作った野菜」と「どこで誰が作ったかわからない野菜」が並んでいたら、少し高くても地元産を選びたくなる。
あるいは、「売上の一部が子ども食堂の支援に使われます」と書かれた商品に、思わず手が伸びる。

これがまさにエシカル消費の入り口です。
「どうせ買うなら、少しでも良いことにつながるものを選びたい」という気持ちは、特に30代から50代の消費者の間で年々強くなっています。

なぜこの傾向が強まっているのか

背景には、環境問題への意識の高まりや、SNSの普及があります。

以前であれば、企業がどんな姿勢で事業をしているかは、消費者からは見えにくいものでした。
しかし今は、企業の取り組みも、逆に問題のある行動も、すぐにSNSで拡散されます。
「あの会社は環境に悪いことをしている」という情報が広まれば、たちまち不買運動につながることもあります。

逆に言えば、「この会社は地域のためにこんな活動をしている」「環境に配慮した製法でものづくりをしている」といった情報も、消費者に届きやすくなりました。
良い取り組みをしている会社は、それが自然と応援につながる時代になったのです。

なぜ「ブランドの志」が差別化になるのか

商品だけでは違いが出せない

ここで、冒頭の問題に戻りましょう。
「商品の品質は良いのに売れない」という悩み。

実は、多くの業界で「商品そのもので大きな差をつけること」が難しくなっています。
技術が進歩し、情報も共有されやすくなった結果、どの会社も一定水準以上の商品を作れるようになりました。

たとえば、町のパン屋さんを考えてみてください。
どのお店も美味しいパンを焼いています。原材料にこだわっているお店も多い。
では、お客さんはどうやってお店を選ぶのでしょうか。

「あのパン屋さんは、地元の小麦農家さんを応援するために、少し高くても地元産の小麦だけを使っている」「売れ残ったパンは廃棄せずに、子ども食堂に届けている」—そういった”志”が伝わったとき、「このお店を応援したい」という気持ちが生まれます。

これが「ブランドパーパス」の力です。
商品の機能や品質という土俵で戦うのではなく、「何のためにこの事業をしているのか」という存在理由で、お客さんの心に響くのです。

「好き」の理由が変わってきた

少し前までは、「このブランドが好き」という理由は、デザインがおしゃれ、品質が良い、ステータスになる、といったものが中心でした。

しかし今は、「この会社の考え方に共感できる」「この会社を応援したい」という理由で選ばれることが増えています。
商品を買うことが、その会社の”志”を応援する投票のような意味を持つようになったのです。

ブランドの「ミッション」と「ビジョン」

会社の羅針盤をつくる

では、自社の”志”をどう整理すればいいのでしょうか。
ここで役立つのが「ミッション」と「ビジョン」という考え方です。

「ミッション」とは、会社の使命、つまり「私たちは社会の中でどんな役割を果たすのか」ということ。
「ビジョン」とは、将来像、つまり「私たちはどこに向かっていくのか」ということです。

たとえて言えば、ミッションは「船の目的」、ビジョンは「目指す港」のようなもの。
この二つが明確になっていれば、日々の判断に迷ったときも「うちの会社らしい選択はどちらか」がわかりやすくなります。

社内にも良い影響がある

ミッションやビジョンを明確にすることは、お客さんへのアピールだけでなく、社内にも良い影響をもたらします。

「なぜこの仕事をしているのか」が明確な会社では、従業員のモチベーションが高まりやすいという調査結果もあります。
特に若い世代は、給与だけでなく「社会に貢献できる仕事かどうか」を重視する傾向が強くなっています。
採用面でも、会社の志が明確であることは大きな強みになるのです。

事例:島根県の「石見銀山 群言堂」

過疎の町から全国へ

具体的な事例として、島根県大田市大森町にある「石見銀山 群言堂(ぐんげんどう)」をご紹介します。

大森町は、かつて銀山で栄えた町ですが、現在の人口はわずか400人ほど。
多くの古民家が空き家になり、過疎化が進んでいました。

そんな町で、松場大吉さん・登美さんご夫妻が1988年に創業したのが群言堂です。
最初は古民家を改装した小さな雑貨店でしたが、今では全国に30店舗以上を展開し、衣料品や生活雑貨のブランドとして知られるようになりました。

「根のある暮らし」という志

群言堂の特徴は、単に商品を売るだけでなく、「根のある暮らし」という明確な志を掲げていることです。

「根のある暮らし」とは、その土地に根ざし、自然と調和しながら、丁寧に日々を重ねていく生き方のこと。
大量生産・大量消費の反対にある価値観です。

この志は、商品づくりにも表れています。
着るほどに肌になじむ天然素材の服、長く使い込むほど味わいが増す生活道具。
「流行を追うのではなく、長く愛されるものをつくる」という姿勢が一貫しています。

町全体を「ブランド」にする

さらに群言堂は、自社の利益だけでなく、町全体の再生に取り組んでいます。
空き家になった古民家を次々と改装し、宿泊施設やカフェとして再生。
今では年間30万人以上の観光客が訪れる町になりました。

「うちだけが儲かればいいとは思っていない。この町の暮らしが続いていくことが大事」という松場さんの言葉は、まさにブランドパーパスの体現です。

この姿勢に共感した人たちが、商品を買うだけでなく、町を訪れ、暮らしを体験し、ファンになっていく。
商品の品質だけでは生まれない、深いつながりがそこにあります。

中小企業だからこそできること

大企業にはない強み

「そんな立派なことは大企業にしかできない」と思われるかもしれません。
しかし実は、中小企業だからこそできることがあります。

大企業は、株主への説明責任があり、短期的な利益を求められることも多い。
一方、中小企業やオーナー経営の会社は、経営者の判断で「利益よりも大事にしたいこと」を優先できます。

また、地域に密着した中小企業は、その地域の課題を肌で感じています。
「この町の高齢者が困っている」「地元の農業を守りたい」—そうした思いを事業に結びつけることは、大企業よりも中小企業のほうが得意な場合も多いのです。

小さく始めてみる

大げさなことを始める必要はありません。
まずは、自社が「なぜこの事業をしているのか」「どんな社会を目指しているのか」を言葉にしてみることから始めてみてはいかがでしょうか。

それをホームページに載せる、名刺に一言添える、お客さんとの会話の中で伝える。
小さな発信の積み重ねが、やがて「あの会社は〇〇を大切にしている会社だ」という認識につながっていきます。

まとめ

今、消費者は「何を買うか」だけでなく「誰から買うか」を大切にするようになっています。
商品の品質や価格で差がつきにくい時代だからこそ、「この会社は何のために存在しているのか」という志が、選ばれる理由になります。

会社の「ミッション(使命)」と「ビジョン(将来像)」を明確にすることは、お客さんへのアピールになるだけでなく、日々の経営判断の指針にもなり、従業員のモチベーション向上にもつながります。

大きなことを始める必要はありません。
まずは、「自分たちは何を大切にしているのか」を言葉にすることから始めてみてください。
その志がお客さんに伝わったとき、価格競争とは違う、新しい選ばれ方が生まれるはずです。

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