利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

コーチングの落とし穴──「大きな質問」の前に必要なこと

コーチングの落とし穴──「大きな質問」の前に必要なこと

コーチングで相手を追い詰めない質問の仕方

はじめに:なぜ「良い質問」が逆効果になるのか

経営者の皆さんは、「部下の成長を促したい」「社員が自分で考えられるようになってほしい」と日々感じていらっしゃるのではないでしょうか。

そんなとき、「コーチング」という手法を学ぶ方が増えています。
コーチングとは、相手に答えを教えるのではなく、質問を通じて相手自身に「気づき」や「発見」を促す対話の技術です。

しかし、このコーチングには意外な落とし穴があります。
「相手の発見を促そう」と張り切るあまり、かえって相手を困らせてしまうケースが少なくないのです。

今回は、コーチングを職場で活かすために知っておきたい「質問の順番」についてお伝えします。

「目覚めた」上司がやりがちな失敗

コーチングを学ぶと、多くの方が「相手の発見を促すことが大切なんだ」と感銘を受けます。
そして「よし、さっそく実践しよう」と意気込むわけです。

ところが、ここに落とし穴があります。

たとえば、こんな場面を想像してみてください。

ある日の昼休み明け。
コーチング研修から戻ってきたばかりの課長が、部下の山田さんをミーティングルームに呼び出しました。

「山田くん、ちょっといいかな」

何の話だろうと思いながら席についた山田さんに、課長はこう切り出します。

「君はこの会社で、将来どんなことを実現したいと思ってる?」
「5年後、どんな自分になっていたい?」
「今の仕事に、本当にやりがいを感じてる?」

課長としては、部下の本音を引き出そうとしたのでしょう。
しかも「さあ、発見を促すぞ」という意気込みが顔に出て、身を乗り出しています。
山田さんは困ってしまいました。
急にそんなことを聞かれても、答えが出てこない。
「えーと……」と言葉に詰まるほど、課長の期待のこもった視線が重く感じられます。

質問自体は立派なものです。
でも、聞かれた側にとっては、ただただ息苦しい時間になってしまいました。

なぜ「深い質問」は逆効果になるのか

コーチングの基本は、確かに「相手の発見を促すこと」です。
しかし、いきなり相手の心の奥にあるものを引っ張り出そうとする質問は、効果的ではありません。

大きな質問に答えるには、自分の意識を深く内側に向ける必要があります。
「自分は本当は何がしたいのか」「将来どうなりたいのか」─こうした問いに向き合うには、心の準備が必要なのです。

これは、体のウォーミングアップと似ています。

たとえば、朝起きてすぐにフルマラソンを走れと言われたら、どうでしょうか。
体がまだ目覚めていない状態では、走ろうとしても足がもつれるだけです。

心も同じです。
普段、私たちの意識は基本的に「外」に向いています。
目の前の仕事、今日の予定、周囲の状況。
そこから急に「あなたの内面を見つめてください」と言われても、すぐには切り替えられないのです。

まして、相手との間に深い信頼関係がなければ、なおさら抵抗を感じます。

「小さな質問」から始める

では、どうすればいいのでしょうか。
大きな質問をする前に、まず「小さな質問」で相手の心を慣らす必要があります。
スポーツでいうストレッチのようなものです。

たとえば、こんな質問から始めてみてください。

「最近、仕事の調子はどう?」
「この前の〇〇の件、大変だったね。今は落ち着いた?」
「週末は何かした?」

こうした何気ない会話を通じて、相手の意識を少しずつ「内側」に向けていきます。
自分のことを話す状態に、徐々に慣れてもらうのです。

心のウォーミングアップができてから、初めて「大きな質問」に進む。
この順番を守ることで、相手は自然と心を開いてくれるようになります。

【事例】焦って失敗した工務店の社長

ある地方の工務店の話です。
社長の田中さんは、50代半ば。従業員8名の会社を20年以上経営してきました。

最近、若手社員の定着率が悪いことに悩んでいた田中さんは、経営セミナーで「1on1ミーティング」の重要性を学びます。
部下と定期的に一対一で話し合い、本音を引き出すことが大切だと知りました。

さっそく翌週、入社2年目の佐藤くんを会議室に呼び出しました。

「佐藤、お前さ、この会社で何を成し遂げたいんだ?」
「5年後、10年後、どうなっていたい?」
「正直に言ってくれ。会社に対して不満はないか?」

田中さんとしては、真剣に向き合おうとしたつもりでした。
しかし、佐藤くんは困惑するばかり。
「えっと…特に何も…」と曖昧な返事しかできません。

田中さんは「本音を言わないな」と感じ、佐藤くんは「急に何を聞かれているんだろう」と戸惑う。
1on1ミーティングは気まずい沈黙で終わってしまいました。

改善後の対話

その後、田中さんは別の勉強会で「質問の順番」の大切さを学びます。
次の1on1では、アプローチを変えてみました。

「佐藤、最近どう?現場は忙しいか?」
「この前の〇〇邸の工事、お客さんから褒められてたぞ」
「あの仕上げ、自分でもうまくいったと思った?」

雑談を交えながら、少しずつ佐藤くんの話を聞いていきます。
佐藤くんも次第にリラックスして、自分から「実は最近、設計にも興味があって…」と話し始めました。

田中さんが最初から聞きたかった「将来どうなりたいか」という答えは、小さな質問を重ねた先に、自然と出てきたのです。

まとめ:「小さく始めて、大きく広げる」が鉄則

コーチングで相手の発見を促すには、「小さな質問から始める」ことが鉄則です。
いきなり「ビジョンは?」「将来の夢は?」と聞いても、相手の心は準備ができていません。
まずは答えやすい質問で心をほぐし、徐々に深い話ができる状態を作っていく。この順番が大切です。

これは、スポーツの前にストレッチをするのと同じです。
準備運動なしにいきなり全力疾走したら、体を痛めてしまいます。
心も同じで、いきなり深いところに飛び込むと、相手は身構えてしまうのです。

今日から実践できること

大きな質問の前に、小さな質問を3つ以上する

「調子はどう?」「最近何か変わったことあった?」など、答えやすい質問から始める

相手が話し始めたら、まず聞く

発見を促そうと焦らず、相手のペースに合わせる

「前のめり」になりすぎない

身を乗り出して圧をかけるより、リラックスした雰囲気を作ることを優先する

部下やスタッフとの対話は、一朝一夕で深まるものではありません。
小さな会話の積み重ねが、やがて大きな信頼につながっていきます。
焦らず、少しずつ。それがコーチングを職場に活かすコツです。

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