利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「業界1位」と「小さな会社」では、取るべき戦略がまったく違う

「業界1位」と「小さな会社」では、取るべき戦略がまったく違う

市場の立場に応じた経営戦略

はじめに:同じ会社なのに、施設ごとに戦略が違う理由

「うちの会社は、どんな戦略を取ればいいのだろう?」

経営者なら誰もが一度は考えたことがある問いではないでしょうか。

実は、この問いに答えるヒントが「自分の会社が市場のどの位置にいるか」にあります。
業界トップの大企業と、小さいけれど個性的な会社では、成功するための戦い方がまったく異なるのです。

これを体系的に整理したのが、マーケティングの世界的権威であるフィリップ・コトラー氏が提唱した「競争地位別戦略」という考え方です。
難しそうな名前ですが、考え方はシンプル。
「自分のいる場所によって、最適な作戦は変わる」ということです。
日本でこの考え方を見事に実践しているのが、星野リゾートです。
同じ会社が運営するスキーリゾートでも、施設によって戦略をガラリと変えています。
その理由と具体的な方法を見ていきましょう。

4つのポジションと、それぞれの戦い方

コトラー氏は、市場での立ち位置を4つに分類しました。
これを身近な例えで説明してみます。

リーダー(業界1位)

その市場で最も大きなシェアを持つ会社です。
いわば「学年で一番人気のある子」のようなもの。
みんなが注目し、真似しようとします。

チャレンジャー(2位・3位)

1位を追いかける立場の会社です。
「1位の座を狙う挑戦者」として、積極的に攻めていきます。

フォロワー(追随者)

上位の会社のやり方を参考にしながら、無理な競争は避けて堅実に経営する会社です。

ニッチャー(すき間を狙う会社)

大きな会社が手を出さない「すき間市場」で、独自の強みを発揮する会社です。
小さくても、その分野では誰にも負けない存在を目指します。

星野リゾートの実例:同じスキー場でも戦略が違う

星野リゾートは、この考え方を実に巧みに使い分けています。

【ニッチャー戦略】北海道・トマム

北海道のトマムは、スキーリゾートとしては後発でした。
周囲には歴史あるスキー場がたくさんあります。
そこで星野リゾートは、「雲海テラス」や「氷の街 アイスヴィレッジ」など、スキー以外の体験価値を前面に打ち出しました。

これは典型的なニッチャー戦略です。
大手と同じ土俵で戦うのではなく、「ここでしかできない体験」という独自の領域を切り開いたのです。

【リーダー戦略】福島県・アルツ磐梯

一方、福島県のアルツ磐梯は、その地域で集客数トップのスキーリゾートです。
星野リゾートが運営を引き継いだとき、このポジションに合わせて戦略を大きく転換しました。

リーダーが取るべき戦略には、3つの柱があります。

需要の拡大

市場全体のパイを大きくすることです。
業界トップは、市場が成長すれば自然と恩恵を受けられます。

価格競争を避ける

1位の会社が値下げ競争を始めると、業界全体が疲弊します。
自分で自分の首を絞めることになるのです。

同質化対応

小さな競合が打ち出してくる新しいサービスを素早く取り入れることです。
「あの小さなスキー場にしかないサービス」をなくすことで、お客様が流れるのを防ぎます。

アルツ磐梯では、まず割引券の乱発をやめました。
価格競争から降りたのです。
同時に、周辺の小さなスキー場が独自に打ち出していたサービス(託児サービスや特別なゲレンデ企画など)を次々と取り入れていきました。

この「リーダーらしい戦い方」に切り替えた結果、以前の経営陣のもとで赤字続きだったアルツ磐梯は、見事に黒字化を達成したのです。

別の事例:小さな会社がニッチ戦略で大手に勝った話

この「ポジションに合った戦い方」は、どんな業界にも当てはまります。
ここで、中小企業の経営者にとって参考になる事例をご紹介しましょう。

群馬の小さな作業服メーカー「ワークマン」の原点

今でこそ全国に店舗を展開するワークマンですが、もともとは群馬県の小さな作業服専門店でした。

アパレル業界には、ユニクロやしまむらといった巨大企業がひしめいています。
普通に考えれば、小さな会社が太刀打ちできる相手ではありません。

しかしワークマンは、「職人さんが毎日着る作業服」という、大手があまり力を入れていない市場に徹底的に特化しました。
おしゃれさよりも「丈夫さ」「動きやすさ」「手頃な価格」を追求したのです。

建設現場で働く人、工場で働く人、農作業をする人。
こうした方々にとって、作業服は毎日の「仕事道具」です。
ワークマンはこのニーズに応え続けることで、「作業服といえばワークマン」という圧倒的なポジションを築きました。

大手アパレルが見向きもしなかった「すき間」を見つけ、そこで一番になる。
まさにニッチャー戦略の成功例です。

町の小さな豆腐屋さんの話

もう少し身近な例も挙げてみましょう。

ある地方都市に、小さな豆腐屋さんがありました。
スーパーには大手メーカーの安い豆腐が並び、価格では到底かないません。

そこでこの豆腐屋さんは、「地元の契約農家から仕入れた大豆だけを使った、昔ながらの製法の豆腐」という路線に絞りました。
価格は大手の3倍以上しますが、「本当においしい豆腐を食べたい」という層に支持されています。

さらに、料理教室とのコラボや、レストランへの直接卸しなど、スーパーとは違うチャネル(販売経路)を開拓しました。

大手と同じ売り場で価格競争をするのではなく、「自分だけの土俵」を作ったのです。
これも立派なニッチャー戦略といえます。

ニッチャー戦略で成功するための3つのヒント

中小企業や個人事業の経営者の多くは、「ニッチャー」のポジションにいることが多いでしょう。
そこで、ニッチャー戦略を成功させるためのポイントを整理してみます。

お客様ごとにカスタマイズする(注文製品専門化)

大手にはできない「あなただけの対応」を強みにする方法です。
「うちは数は少ないけれど、一人ひとりのお客様に合わせて作ります」というスタンスです。

品質で勝負する(品質・価格専門化)

安さでは大手に勝てなくても、「最高品質」なら勝負できます。
価格は高くなりますが、それでも選んでくれるお客様は必ずいます。

販売経路を絞る(チャネル専門化)

特定のお店やルートだけに集中する方法です。
「あのお店でしか買えない」という希少性が、かえって強みになることもあります。

まとめ:まず「自分の立ち位置」を知ることから

今回お伝えしたかったのは、「正しい戦略は、自分のポジションによって変わる」ということです。

業界1位の会社が取るべき戦略と、小さな会社が取るべき戦略は、まったく異なります。
星野リゾートのように、同じ会社の中でさえ、施設のポジションに応じて戦略を変えているのです。

大切なのは、まず「自分は今、どのポジションにいるのか」を冷静に見極めること。
そして、そのポジションに合った戦い方を選ぶことです。

小さな会社には、小さな会社ならではの勝ち方があります。
大手の真似をするのではなく、自分だけの「すき間」を見つけて、そこで一番を目指す。
それが、限られた経営資源で成果を出すための王道といえるでしょう。

あなたの会社は今、どのポジションにいますか?
そして、そのポジションに合った戦い方をしていますか?
ぜひ一度、振り返ってみてください。

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