人生の充実感を見直す
はじめに
「毎日、同じことの繰り返しで、何のために働いているのか分からなくなることがある」
経営者の方とお話しすると、ふとこんな言葉が漏れることがあります。
売上を立て、従業員の給料を払い、取引先との関係を維持する。
目の前の仕事をこなすことで精一杯で、気づけば何年も同じような日々を過ごしている。
体調も万全とは言えず、将来への漠然とした不安を抱えながらも、立ち止まって考える余裕がない。
体の調子が優れない、思うようにいかないことが続く。
そんな状態でありながら、ただ日々をやり過ごしているだけで、本当の意味での充実感や「生き甲斐」を感じられない。
このことは、本来もっと真剣に向き合うべき問題のはずです。
にもかかわらず、多くの人がこの問題を先送りにしてしまう。
「忙しいから」「今は余裕がないから」と言い訳をしながら、気づけば何年も同じ状態を続けている。
なぜ、自分の人生についてもっと真剣に考えようとしないのか。
体調を崩している方や、物事がうまくいっていない方とお会いするたびに、私はそう感じずにはいられません。
この問いかけは、経営者として日々奮闘されている方にこそ、一度立ち止まって考えていただきたいメッセージを含んでいます。
背景 ─ なぜ「生き甲斐」が見えなくなるのか
経営者特有の「止まれない」プレッシャー
会社員であれば、体調を崩せば休むことができます。
しかし経営者は、自分が止まれば会社も止まるという感覚を常に抱えています。
従業員の生活を背負っている責任感、取引先との約束を守らなければという義務感。
これらが積み重なると、自分の健康や心の状態を後回しにしてしまいがちです。
たとえるなら、車を運転しながら、ガソリンの残量を確認する余裕がない状態です。
目的地に向かって走り続けることに必死で、燃料が切れかけていることに気づかない。
気づいたときには、道の真ん中で立ち往生してしまう。
経営者の健康問題や燃え尽き症候群は、まさにこのような形で起こります。
「成功」の定義が曖昧になる
事業を始めた頃は、明確な目標があったはずです。
「自分の腕で食べていきたい」「こんなサービスで人の役に立ちたい」「家族を養えるだけの収入を得たい」。
しかし、ある程度軌道に乗ると、その目標は達成されたことになります。
すると、次に何を目指せばいいのかが分からなくなる。
売上を伸ばすことが目標になり、それが達成されればさらに上を目指す。
終わりのないマラソンを走っているような感覚に陥り、「何のために走っているのか」という根本的な問いを見失ってしまうのです。
日常に埋没する危険性
問題なのは、肉体的には生きていても、本当の意味で「生きている」実感がない状態に陥ってしまうことです。
毎日を「こなす」ことはできても、そこに喜びや充実感がない。
これは、経営者に限らず現代人の多くが陥りやすい落とし穴です。
しかし、経営者の場合は特に深刻です。
なぜなら、経営者の心身の状態は、会社全体に影響を及ぼすからです。
リーダーが疲弊していれば、その空気は従業員にも伝わります。
判断力が鈍れば、経営上の重要な決断を誤るリスクも高まります。
事例 ─ 「走り続けること」をやめた印刷会社の社長
ここで、ある印刷会社の社長、Aさん(50代)のお話をご紹介します。
Aさんは、父親から会社を引き継いで20年。
従業員8名の小さな会社ですが、地元では信頼のある印刷会社として、堅実に経営を続けてきました。
しかし、デジタル化の波で印刷業界全体が厳しくなる中、新規顧客の開拓、既存顧客へのサービス強化、コスト削減と、やるべきことは山積み。
休日も頭の中は仕事のことばかりで、家族との時間も上の空でした。
ある日、健康診断で「このままでは深刻な病気になりかねない」と医師から警告を受けました。
血圧は高く、睡眠の質も悪い。
Aさんは初めて、自分の体が悲鳴を上げていることに気づきました。
しかし、Aさんを本当に変えたのは、医師の言葉ではありませんでした。
入院中、見舞いに来た古くからの従業員がこう言ったのです。
「社長、最近ずっと険しい顔をしていましたよ。昔はもっと、仕事を楽しそうにしていたのに」
この言葉が、Aさんの胸に刺さりました。
確かに、会社を継いだ頃は、新しい印刷技術を試すのが楽しかった。
お客様に喜ばれるデザインを提案することにやりがいを感じていた。
いつの間にか、数字を追いかけることだけが仕事になっていたことに気づいたのです。
退院後、Aさんは少しずつ働き方を変えました。
まず、週に一度は必ず定時で帰ると決めました。
その時間で、地元の異業種交流会に参加するようになりました。
最初は「営業のため」と思っていましたが、同じように悩む経営者仲間と話すうちに、自分だけが苦しんでいるわけではないと分かり、気持ちが楽になりました。
また、印刷の仕事そのものを見直しました。
ただ注文を受けて印刷するだけでなく、お客様の販促全体を一緒に考える「相談相手」としての役割を意識するようになったのです。
これは売上にすぐ直結するわけではありませんが、お客様から「Aさんに相談してよかった」と言われることが増え、仕事への手応えを取り戻すことができました。
Aさんは言います。
「売上が劇的に伸びたわけではないんです。でも、朝起きて会社に行くのが苦痛ではなくなった。それだけで、人生が変わったような気がします」

まとめ ─ 「生き甲斐」は自分で見つけるもの
自分自身の健康や人生の充実について、本気で向き合う時間を持てているでしょうか。
この問いかけは、厳しく聞こえるかもしれません。
しかし、その奥には「もっと自分自身を大切にしてほしい」という願いが込められているのではないでしょうか。
忙しい日々の中で、自分の健康や人生の意味について真剣に考える時間を取ることは、簡単ではありません。
しかし、それを「いつかやろう」と先延ばしにし続けると、気づいたときには取り返しのつかない状態になっていることもあります。
経営者にとっての「生き甲斐」とは何でしょうか。
それは人によって異なります。
事業を成長させることかもしれませんし、従業員の成長を見守ることかもしれません。
お客様に喜ばれることかもしれませんし、自分の技術を極めることかもしれません。
大切なのは、その答えを自分自身で考えることです。
誰かに与えられた目標を追いかけるのではなく、「自分は何のために働いているのか」「どんな状態が自分にとっての幸せなのか」を、定期的に問い直すことです。
そのためには、意識的に「立ち止まる時間」を作る必要があります。
週に一度でも、月に一度でも構いません。
日常の業務から離れて、自分自身と向き合う時間を確保することが、結果的に経営の質を高め、人生の充実感につながるのではないでしょうか。
「生きている」ことと「生き甲斐を感じて生きる」ことは、同じようで全く違います。
せっかく経営者という立場にいるのですから、自分の人生を自分でデザインする自由を、存分に活かしていただきたいと思います。
本日のポイント
一、経営者は「止まれない」プレッシャーから、自分の健康や心の状態を後回しにしがちである
二、日々の業務に追われると、「何のために働いているのか」という根本的な問いを見失いやすい
三、定期的に立ち止まり、自分にとっての「生き甲斐」を問い直す時間を意識的に作ることが大切である

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