営業向け質問技法
はじめに—「売り込み」が苦手な経営者へ
「営業は苦手」「お客様に商品を勧めるのが申し訳ない」—そんなふうに感じている経営者の方は少なくありません。
特に、技術や専門性を武器にしてきた方ほど、「売り込む」という行為に抵抗を感じることがあるようです。
しかし、本当に成果を上げている営業担当者を観察してみると、実は「売り込んでいない」ことに気づきます。
彼らがしているのは、お客様自身に「それが欲しい」「なんとかしたい」と気づいてもらうこと。
つまり、上手な質問を通じて、お客様の心の中にある欲求を引き出しているのです。
今回は、お客様の欲求を自然に引き出し、「ぜひ話を聞かせてください」と言ってもらえるようになる、2つの質問についてお伝えします。
人はなぜ行動するのか—「心」が先、「頭」は後
まず、人が行動を起こすまでの心の動きを整理してみましょう。
私たちの思考は、次のような順番で進んでいきます。
「心が動く」→「頭で整理する」→「体が動く」
たとえば、ダイエットを始める人のことを考えてみてください。
「最近、お腹が出てきたな」「健康診断の数値が気になるな」と心が動くことが最初にあります。
その後、「どんな方法がいいだろう」と頭で整理し、ジムに通ったり食事を変えたりという体が動く段階に移ります。
ここで重要なのは、最初の「心が動く」という段階です。
どれだけ優れたダイエット方法を知っていても、「痩せたい」という気持ちがなければ、人は行動しません。
逆に言えば、この「心が動く」という段階が強ければ強いほど、人は自然と方法を探し、行動に移すのです。
人間は「理屈の生き物」ではなく「感情の生き物」—この原則を押さえておくことが、営業を楽にする第一歩です。
2つの気持ち—「なんとかしたい気持ち」と「方法を知りたい気持ち」
感情の中でも、特に営業において重要なのが「欲求」です。
お客様の欲求には、大きく分けて2つの種類があります。
なんとかしたい気持ち
「それを実現したい」「その状態になりたい」という気持ちです。
例:「売上を伸ばしたい」「人手不足を解消したい」「もっと自由な時間が欲しい」
方法を知りたい気持ち
「それを実現するための方法やアイデアを知りたい」という気持ちです。
例:「売上を伸ばす具体的な方法を知りたい」「採用がうまくいく秘訣を教えてほしい」
ここで大切なのは、必ず「なんとかしたい気持ち」が先にあるということです。
いくら素晴らしい方法やアイデアを提示しても、お客様の中に「それを実現したい」という気持ちがなければ、行動には移してもらえません。
料理のレシピをいくら教えても、「料理を作りたい」という気持ちがない人は作らないのと同じです。
つまり、営業で成果を上げるためには、まずお客様の「なんとかしたい気持ち」を確認し、高めることが必要なのです。
お客様の欲求を引き出す2つの質問
では、具体的にどのような質問をすればよいのでしょうか。
お客様との対話の中で、次の2つの質問を使ってみてください。
質問①「〇〇さん、これをなんとかしたいと思いませんか?」
この質問は、お客様の「なんとかしたい気持ち」を確認し、高めるための質問です。
お客様が抱えている課題や悩みについて一通り話を聞いた後、このように問いかけます。
すると、お客様は自分の気持ちを改めて確認することになります。
「そうだ、私はこれをなんとかしたいんだ」「ずっとなんとかしたいと思っていたんだ」—そう自覚することで、なんとかしたい気持ちが高まるのです。
質問②「では、いい方法があればどうですか?」
この質問は、「方法を知りたい気持ち」を引き出すための質問です。
なんとかしたい気持ちが高まった状態で「いい方法があれば」と問いかけると、お客様は「そんな方法があるなら、ぜひ教えてほしい」という気持ちになります。これが、方法を知りたい気持ちです。
この2つの質問を順番に使うことで、お客様は自然と「話を聞きたい」というモードになっていきます。
売り込むのではなく、お客様自身が「聞きたい」と思ってくれる—これが、営業を楽にする秘訣です。
事例—リフォーム会社の営業担当Aさんの場合
従業員8名のリフォーム会社で働く営業担当のAさんは、以前は「お客様に断られるのが怖い」と感じていました。
見積もりを出しても「検討します」と言われて終わることが多く、成約率に悩んでいたのです。
あるとき、Aさんは質問の仕方を変えてみました。
お客様から「キッチンが古くなって使いづらい」という相談を受けたとき、以前のAさんならすぐに「では、こんなプランはいかがですか」と提案していました。
しかし、今回は違いました。
まず、「いつ頃からキッチンのことが気になっていましたか?」と聞きました。
お客様は「もう3年くらい前から気になっていたんです」と答えました。
次に、Aさんはこう聞きました。
「3年も気になっていたんですね。これをなんとかしたいと思いませんか?」
お客様は「そうなんです。ずっとなんとかしたいと思っていたんです」と、自分の気持ちを言葉にしました。
そこでAさんは続けました。「では、ご予算の範囲内で使いやすくなる方法があれば、いかがですか?」
お客様の表情が変わりました。「そんな方法があるんですか?ぜひ教えてください」
こうして、Aさんの提案を「聞きたい」という状態でプレゼンテーションに入ることができました。
結果的に、この商談は成約につながりました。
Aさんは言います。
「以前は、自分が売り込んでいる感覚がありました。でも今は、お客様が『聞きたい』と言ってくれるので、自然に提案できるようになりました」
質問するときの大切なポイント
これらの質問を使うときに、ひとつ注意していただきたいことがあります。
それは、「軽く、やわらかく聞く」ということです。
この段階は、まだ「アプローチ」の段階です。具体的な商品説明やプレゼンテーションはこの後に行います。
この質問の目的は、お客様に「話を聞いてみようかな」と思ってもらうこと。まだ契約を迫る場面ではありません。
ですから、真剣な顔で詰め寄るように聞くのではなく、自然な会話の流れの中で、さりげなく問いかけるようにしましょう。
圧をかけてしまうと、お客様は警戒してしまいます。
あくまでも「お客様の気持ちを一緒に確認する」というスタンスで臨むことが大切です。

まとめ—お客様の「欲しい」を引き出す
今回のポイントを整理します。
人は「心が動く→頭で整理する→体が動く」という順番で動きます。
行動を促すためには、まず心、特に「欲求」に働きかけることが大切です。
欲求には「なんとかしたい気持ち」と「方法を知りたい気持ち」の2つがあり、必ず「なんとかしたい気持ち」が先に来ます。
この2つの気持ちを引き出すために、次の質問を使いましょう。
・「〇〇さん、これをなんとかしたいと思いませんか?」(なんとかしたい気持ちを高める)
・「では、いい方法があればどうですか?」(方法を知りたい気持ちを高める)
質問するときは、軽く、やわらかく。
お客様が「話を聞きたい」と思ってくれる状態をつくることが目的です。
「売り込む営業」から「引き出す営業」へ—この視点の転換が、営業を楽にし、お客様との信頼関係を築く第一歩になるはずです。

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