ものづくりの迷いを払う、20文字のコンセプト
はじめに:なぜ経営者は「迷う」のか
事業を営んでいると、毎日のように判断を求められます。
新しい商品を出すかどうか、値段をいくらにするか、どんなお客様に届けたいのか。
従業員を増やすべきか、設備投資をするべきか。
答えが一つに決まらない問いが、次から次へとやってきます。
特に従業員10名前後の会社や個人事業では、経営者自身がほとんどの判断を下さなければなりません。
大企業のように専門部署があるわけでもなく、相談できる相手も限られています。
そんな中で「本当にこれでいいのだろうか」と迷い、立ち止まってしまうことは、決して珍しいことではありません。
そんなとき、道しるべになってくれるものがあります。それが「コンセプト」です。
コンセプトとは「20文字の羅針盤」
コンセプトという言葉を聞くと、なんだか難しそうに感じるかもしれません。
しかし、その本質はとてもシンプルです。
「自分たちは何のために、誰のために、この事業をやっているのか」
この問いに対する答えを、たった20文字ほどの短い言葉にまとめたもの。
それがコンセプトです。
なぜ20文字なのでしょうか。
それは、人が一瞬で読み取り、心に刻める長さだからです。
長すぎると覚えられません。短すぎると想いが伝わりません。
20文字前後というのは、ちょうど「自分の胸に手を当てて、すぐに思い出せる」絶妙な長さなのです。
船乗りにとっての羅針盤を思い浮かべてみてください。
嵐の夜、波にもまれ、どちらに進めばいいかわからなくなったとき、羅針盤は静かに北を指し続けます。
コンセプトも同じです。
事業という航海の中で迷ったとき、「自分たちはどこへ向かっているのか」を思い出させてくれる。
それが20文字の羅針盤としてのコンセプトなのです。
コンセプトがあると何が変わるのか
コンセプトがしっかりしていると、日々の判断がぶれなくなります。
たとえば、新しい仕事の依頼が来たとします。金額は悪くない。
でも、なんとなく違和感がある。
そんなとき、コンセプトに立ち返ってみます。
「この仕事は、自分たちの目指す方向と合っているだろうか」と。
合っていなければ、勇気を持ってお断りすることもできます。
逆に、一見すると儲からなそうな仕事でも、コンセプトに合致していれば、長い目で見て価値があると判断できます。
また、従業員がいる場合には、コンセプトは「共通言語」になります。
社長の頭の中にだけある想いは、どんなに素晴らしくても伝わりません。
でも、20文字の言葉にまとまっていれば、朝礼で唱和することもできますし、迷ったときに「うちのコンセプトって何だっけ」と確認し合うこともできます。
事例:町の小さな文房具店の物語
ここで、一つの事例をご紹介しましょう。
ある地方都市に、創業40年の小さな文房具店がありました。
二代目の店主は、大型量販店やネット通販に押され、売上が年々下がっていくことに頭を悩ませていました。
「うちも安売りをするべきだろうか」「品揃えをもっと増やすべきか」「いっそネット販売に力を入れるか」
毎日のように迷い、いろいろな施策を試しては中途半端に終わる。
そんな日々が続いていました。
ある日、店主は常連のお客様から言われた一言を思い出しました。
「この店に来ると、なんだか学生時代に戻ったみたいで、わくわくするのよね」
その言葉をきっかけに、店主は自分の店の存在意義を見つめ直しました。
そして、たどり着いたコンセプトがこれです。
「書く喜びを、もう一度」
わずか9文字。でも、この言葉に出会ってから、店主の判断は明確になりました。
安売り競争には参加しない。
なぜなら、安さでは「書く喜び」は伝わらないから。
代わりに、試し書きコーナーを充実させました。
万年筆の書き心地を体験できるワークショップを始めました。
子ども向けに「手紙を書こう」というイベントも開催しました。
品揃えも変えました。
何でも揃う店ではなく、「書く喜び」を感じられる厳選したアイテムだけを置くようにしました。
量販店にはない、職人がつくった一点もののノートや、海外の珍しいインクなど。
結果として、売上は回復しました。
それ以上に、お客様から「この店があってよかった」と言ってもらえることが増えました。
従業員も、「うちは書く喜びを届ける店だから」と、自信を持って接客できるようになりました。
コンセプトという羅針盤が、店の進むべき道を照らしてくれたのです。
「冒険の旅」を支える誓いの言葉
事業を続けていくことは、まさに冒険の旅のようなものです。
平坦な道ばかりではありません。
予期せぬ困難が立ちはだかることもあります。
景気の変動、競合の出現、思いがけないトラブル。
そんなとき、心が折れそうになることもあるでしょう。
だからこそ、コンセプトが必要なのです。
困難に直面したとき、胸に手を当てて、自分の言葉を思い出す。
「自分は何のためにこの事業をやっているのか」と。
その瞬間、当初の想いがよみがえり、迷いが晴れていく。
コンセプトを聞いたり思い出したりする機会が増えるほど、創業当時の情熱に立ち返ることができます。
それは、騎士が出陣前に剣に誓いを立てるようなものかもしれません。
あるいは、登山家が山頂を目指すとき、心の中で唱える言葉のようなものかもしれません。
短い言葉だからこそ、いつでも思い出せる。
思い出せるからこそ、力になる。
コンセプトをつくるヒント
では、自分のコンセプトをどうやってつくればいいのでしょうか。
いくつかのヒントをお伝えします。
まず、「誰のために」を明確にすることです。
すべての人に届けようとすると、結局誰にも届きません。
自分の商品やサービスで、本当に喜んでくれるのは誰なのか。
その人の顔を思い浮かべてみてください。
次に、「何を届けたいのか」を考えます。
商品そのものではなく、その商品を通じてお客様が得られる「体験」や「感情」は何でしょうか。
先ほどの文房具店の例でいえば、売っているのはペンやノートですが、届けたいのは「書く喜び」でした。
そして、それを20文字程度にまとめてみます。
最初から完璧を目指す必要はありません。
何度も書き直し、声に出して読んでみて、しっくりくる言葉を探していきます。
従業員がいれば、一緒に考えてもいいでしょう。
お客様に聞いてみるのも一つの方法です。
大切なのは、借り物の言葉ではなく、自分の心から出てきた言葉であること。
そうでなければ、いざというときに力を発揮してくれません。
まとめ:想いを言葉にする勇気
事業を営むということは、毎日が選択の連続です。
そして、その選択に正解はありません。
だからこそ、自分なりの「正しさ」を持つことが大切です。
コンセプトは、その「正しさ」を言葉にしたものです。
たった20文字ほどの短い言葉ですが、そこには経営者の想いが凝縮されています。
冒険の旅は、決して楽ではありません。
嵐の夜もあれば、道に迷うこともあるでしょう。
でも、胸に羅針盤があれば、きっと前に進めます。
困難を前にしたとき、その言葉を思い出し、誓いを新たにする。そんな瞬間が、きっとやってきます。
あなたの事業の「20文字」は、何でしょうか。
もしまだ言葉になっていないなら、今日から少しずつ考えてみてください。
最初は曖昧でも構いません。
考え続けることで、必ず見つかります。
そしてその言葉は、これからの経営を支える、かけがえのない財産になるはずです。

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