利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「他社と同じことを、もっと上手に」では勝てない理由―ポジショニング戦略の本質

「他社と同じことを、もっと上手に」では勝てない理由―ポジショニング戦略の本質

中小企業向けストラテジック・ポジショニング戦略

はじめに:なぜ頑張っても報われないのか

「うちの商品は品質がいい」「サービスが丁寧だ」「価格も頑張っている」。
こうした努力を続けているのに、なかなか業績が伸びない。
そんな悩みを抱えている経営者の方は多いのではないでしょうか。

実は、この「頑張っているのに報われない」という状況には、経営戦略上の大きな落とし穴が隠れています。
今回は「ポジショニング」という考え方を通じて、その原因と解決策を考えてみましょう。

ポジショニングとは「居場所を決める」こと

ポジショニングとは、簡単に言えば「自分の会社の居場所を決める」ことです。

たとえば、教室で席を選ぶ場面を想像してください。
すでに何人かが座っている教室に入ったとき、あなたはどこに座りますか?
 前の方が好きな人もいれば、窓際を選ぶ人もいるでしょう。
大切なのは「自分がどこに座るか」を意識的に選ぶことです。

ビジネスにおけるポジショニングも同じです。
業界という「教室」の中で、「自分の会社はどの席に座るのか」を明確に決めること。
それがポジショニング戦略の出発点です。

ここで重要なのは、「他の人が座っていない席を選ぶ」という発想です。
すでに誰かが座っている席の隣に無理やり座ろうとすれば、窮屈ですし、押し合いになってしまいます。
それよりも、空いている場所を見つけて、そこに堂々と座る方がずっと楽ですよね。

「違うことをする」と「同じことを上手にやる」の違い

経営戦略を考えるとき、二つのアプローチがあります。

一つは「他社と違うことをする」というアプローチ。
もう一つは「他社と同じことを、もっと上手にやる」というアプローチです。

この二つは似ているようで、実はまったく違います。

たとえば、町の理髪店を経営しているとしましょう。
「同じことを上手にやる」アプローチでは、カットの技術を磨く、接客を丁寧にする、店内を清潔に保つ、といった改善を重ねます。
これらはもちろん大切なことです。

しかし、こうした改善は、競合店も同じように取り組んでいます。
技術を磨けば相手も磨く。
接客を良くすれば相手も良くする。
結果として、どれだけ頑張っても「少しだけ良い」という程度の差しか生まれません。
これを専門的には「程度の違い」と呼びます。

一方、「違うことをする」アプローチはどうでしょうか。

有名な例として、1,000円カット専門店があります。
従来の理髪店が「丁寧なカット+シャンプー+髭剃り+マッサージ」という一連のサービスを提供していたのに対し、1,000円カット専門店は「カットだけを10分で仕上げる」という、まったく異なるサービスを打ち出しました。

シャンプーはしない。
髭剃りもしない。
予約も受けない。
その代わり、10分で終わる。
価格は1,000円。

これは「理髪店のサービスを少し良くした」のではなく、「そもそも違うサービスを提供した」のです。
狙う顧客も変わりました。
「ゆっくりくつろぎたい人」ではなく、「忙しくて時間がないけど、身だしなみは整えたい人」です。

このように、土俵そのものを変えることが、ポジショニング戦略の本質です。

事例:町の電器店が大型量販店に負けない理由

もう一つ、身近な例を考えてみましょう。

家電量販店が全国に広がり、ネット通販も普及した現在、昔ながらの町の電器店は苦しい立場にあります。
品揃えでは量販店に勝てません。価格でもネット通販には敵いません。

では、町の電器店はすべて廃業するしかないのでしょうか?

実は、しっかり生き残っている電器店があります。
そうした店の多くは、「量販店と同じ土俵で戦う」ことをやめています。

ある電器店の店主はこう言います。
「うちは電球一個の交換から引き受けます。エアコンのリモコンの使い方がわからない、テレビの録画予約ができない、そういう困りごとに電話一本で駆けつけます」

この店は、商品を売ることよりも、「電気まわりの困りごとを解決する」ことを自分たちの仕事として定義し直しました。

ターゲットも明確です。
自分で調べて安く買える若い世代ではなく、機械が苦手で困っている高齢者世帯。
量販店に行くのが大変な方、ネットで買い物ができない方です。

こうした顧客にとって、「電話一本で来てくれる」「顔なじみの店主が設置から使い方の説明までしてくれる」という価値は、価格差をはるかに超える安心感があります。

この電器店は、「量販店より少し安くする」「品揃えを少し増やす」といった「程度の改善」ではなく、「そもそも違う価値を提供する」という選択をしたのです。

なぜ「程度の違い」では勝てないのか

「程度の違い」を追いかける競争が危険な理由は、主に三つあります。

一つ目は、すぐに追いつかれること。

「うちの商品は競合より10%軽い」といった違いは、競合も努力すれば実現できます。
今日の優位性が、明日には消えてしまう。
これを繰り返していると、終わりのない消耗戦に巻き込まれます。

二つ目は、コストがかさむこと。

あらゆる面で「少しでも良くしよう」と努力すると、開発費や人件費がどんどん膨らみます。
しかし、その改善がお客様の購買につながるかどうかは別問題です。

たとえば、ある飲食店が「メニューの写真をもっときれいにしよう」「店内の照明をもう少し明るくしよう」「食器をもう少し高級なものにしよう」と改善を重ねたとします。
一つひとつは悪いことではありません。
しかし、お客様が本当にそれを求めているかどうかは、「うちの店はどんなお客様に、どんな価値を届けるのか」という軸がないと判断できません。

軸がないまま改善を続けると、お金と手間をかけた割に、売上は変わらないという事態に陥ります。

三つ目は、そもそも「良い」の方向がわからなくなること。

メニューは多い方がいいのか、少ない方がいいのか。
店は広い方がいいのか、狭い方がいいのか。
実は、こうした問いに「正解」はありません。

メニューが少ないことは、「選びやすい」というメリットになる場合もあれば、「選択肢が少なくて物足りない」というデメリットになる場合もあります。
どちらが正解かは、「どんなお客様を相手にするか」というポジショニングによって決まるのです。

「選択と集中」の本当の意味

よく「選択と集中が大切だ」と言われます。
この言葉の本当の意味は、「やることを決める」と同時に「やらないことを決める」ことです。

先ほどの1,000円カット専門店の例で言えば、「カットに集中する」と決めた瞬間に、「シャンプーはやらない」「髭剃りもやらない」「予約システムも持たない」と決めたことになります。

町の電器店の例で言えば、「困りごと解決に集中する」と決めた瞬間に、「品揃えでは勝負しない」「価格競争には参加しない」と決めたことになります。

「あれもこれも」ではなく、「これだけ」を選ぶ。それがポジショニング戦略の核心です。

これは勇気のいる決断です。
「やらない」と決めた瞬間に、その部分のお客様は競合に流れるかもしれないからです。
しかし、すべてのお客様を相手にしようとすると、結局は誰にとっても「まあまあの選択肢」にしかなれません。
特定のお客様にとって「最高の選択肢」になる方が、長い目で見れば強いビジネスを築けるのです。

まとめ:自社の「居場所」を見つめ直す

最後に、ポイントを整理しましょう。

・ポジショニングとは、業界の中で「自社の居場所」を明確にすること
・「他社と同じことを上手にやる」のではなく、「他社と違うことをやる」ことが大切
・「程度の違い」は追いつかれやすく、消耗戦になりがち
・「やること」と「やらないこと」を明確に決めることが、強い戦略につながる
すべてのお客様を狙うより、特定のお客様にとっての「最高の選択肢」を目指す

「うちは何が違うのか」と聞かれたとき、「品質が良い」「サービスが丁寧」という答えしか出てこないなら、それは危険信号かもしれません。
「○○なお客様にとって、□□という価値を提供している。だから△△はあえてやらない」と言えること。
それが、強いポジショニングを持っている証です。

ぜひ一度、自社の「居場所」を見つめ直してみてください。
競合がひしめく真ん中で押し合いをしていないか。
空いている場所、自分たちだからこそ座れる席はないか。
その問いが、新しい戦略を見つけるきっかけになるはずです。

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