利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

従業員に「なぜ」を伝えていますか? ストーリーで変わる人材育成

従業員に「なぜ」を伝えていますか? ストーリーで変わる人材育成

ストーリーで変わる従業員教育

はじめに:マニュアル通りに教えても、なぜ身につかないのか

「新しく入った社員に仕事を教えたのに、なかなか覚えてくれない」
「何度説明しても、同じミスを繰り返す」

従業員10名前後の会社を経営されている皆さんなら、こうした悩みを一度は経験されたことがあるのではないでしょうか。
人手不足が深刻化する中、せっかく採用した人材には早く戦力になってもらいたい。
そう願うのは当然のことです。

多くの経営者の方は、効率的に教えようと、手順をマニュアル化したり、箇条書きにしてわかりやすくまとめたりします。
確かに、手順を簡潔に伝えることは大切です。しかし、それだけでは十分ではありません。

なぜなら、人は「やり方」だけを教えられても、その重要性や意味を理解できなければ、本当の意味でスキルを身につけることができないからです。
そこで重要になるのが「ストーリー」を用いた教え方です。

「なぜ学ぶのか」を伝えることの重要性

新しいスキルや仕事のやり方を教えるとき、私たちはつい「どうやるか」ばかりに目が向きがちです。
「ここをクリックして」「これを入力して」「この順番で作業して」という具体的な手順の説明です。

しかし、考えてみてください。
もし誰かがあなたに「とにかくこうしろ」とだけ言って、その理由を説明しなかったら、あなたはどう感じるでしょうか。
おそらく、腑に落ちないまま作業することになり、やる気も湧かず、すぐに忘れてしまうのではないでしょうか。

実は、スキルを効果的に教えるには、「なぜそのスキルを学ぶべきなのか」を先に伝える必要があるのです。
そして、その「なぜ」を最も効果的に伝える方法が、実体験に基づいた「ストーリー」なのです。

ストーリーが持つ教育効果

ある会社での実例を見てみましょう。

新入社員のAさんは、ある日、先輩から「顧客情報は必ずこのシステムに入力するように」と指示されました。
しかし、Aさんは紙のメモでも十分だと感じ、入力を怠りがちでした。

そこで先輩は、こんな話をしました。

「実は3年前、うちで大きなトラブルがあったんだ。ある営業担当者が、お客様との打ち合わせ内容を紙のメモだけで管理していたんだけど、その社員が突然、体調を崩して1週間休むことになってしまった。
お客様から『以前話した仕様変更の件、進んでますか?』と電話があったんだけど、代わりに対応した私は何も知らなかった。メモは担当者の机の引き出しの中。お客様をお待たせして、結局、その案件は他社に取られてしまった。売上にして約300万円の損失だ。
それ以来、どんな小さな打ち合わせでも、必ず全員が見られるシステムに入力するルールにしたんだ。今では誰が休んでも、すぐに状況が分かるようになった。お客様を待たせることもなくなったし、チーム全体で情報を共有できるから、いいアイデアも出やすくなったんだよ」

この話を聞いた後、Aさんの行動は変わりました。システム入力の重要性が、単なるルールではなく、実際の失敗から生まれた意味のある仕組みだと理解できたからです。

なぜストーリーは効果的なのか

ストーリーを使った教え方が効果的な理由は、大きく3つあります。

記憶に残りやすい

人間の脳は、無味乾燥な情報よりも、感情や具体的なイメージを伴ったストーリーの方をはるかによく記憶します。
「顧客情報を入力しなさい」という指示は忘れても、「300万円の案件を失った話」は忘れません。

意義を理解できる

ストーリーを通じて、そのスキルがなぜ必要なのか、どんな問題を解決するのかが明確になります。
単に「やり方」を覚えるのではなく、「意味」を理解することで、応用力も生まれます。

当事者意識が芽生える

他人の失敗や成功の体験を聞くことで、「自分だったらどうするか」と考えるきっかけになります。
受け身の学習ではなく、主体的な学びにつながるのです。

「わかりやすさ」と「複雑さ」のバランス

私たちは、教える立場になると、できるだけシンプルに、わかりやすく伝えようとします。
確かに、複雑すぎる説明は相手を混乱させます。
しかし、シンプルにしすぎることにも落とし穴があります。

例えば、「この作業は必ずダブルチェックすること」という指示だけを伝えたとします。
これは確かにわかりやすい。
しかし、なぜダブルチェックが必要なのか、それをしないとどんなリスクがあるのか、実際にどんなミスが過去にあったのか—そうした「複雑さ」を省いてしまうと、相手は指示の重要性を理解できません。

忙しいときには「面倒だから今回は省いてもいいか」と判断してしまうかもしれません。

ストーリーを使えば、この「複雑さ」を自然に伝えることができます。
過去の失敗談を話すことで、なぜその手順が生まれたのか、どんなときに特に重要なのか、といった文脈を理解してもらえるのです。

実践のヒント:あなたの会社でできること

では、実際に自社で「ストーリーを使った教え方」を取り入れるには、どうすればよいでしょうか。

失敗談を共有する文化を作る

「失敗は恥ずかしいこと」という雰囲気があると、貴重な学びの機会が失われます。
朝礼やミーティングで、「今週の失敗談と学び」を共有する時間を設けてみてはいかがでしょうか。

マニュアルに「背景」の項目を追加する

手順だけでなく、「なぜこのやり方になったのか」「過去にどんな問題があったのか」という背景を一緒に記録しておきましょう。

ベテラン社員の経験を引き出す

長く働いている社員は、会社の歴史や過去のトラブルをたくさん知っています。
その経験を若手に伝える機会を意図的に作りましょう。

成功体験も共有する

失敗談だけでなく、「この方法でうまくいった」という成功のストーリーも効果的です。
モチベーションアップにもつながります。

まとめ:人を育てることは、物語を紡ぐこと

中小企業では、一人ひとりの社員が複数の役割を担うことが多く、それぞれが高いスキルを持つことが会社の成長に直結します。
しかし、限られた時間の中で効果的に人を育てるのは簡単ではありません。

「わかりやすく、手短に」という効率重視の姿勢も大切ですが、それだけでは人は育ちません。
なぜそのスキルが必要なのか、どんな価値があるのかを、実体験に基づいたストーリーで伝えることで、初めて相手の心に届き、記憶に残り、行動が変わるのです。

あなたの会社には、どんなストーリーがありますか?

創業時の苦労、乗り越えた危機、お客様に喜ばれた瞬間、痛い失敗から学んだこと—そうした一つひとつの物語が、実は最高の教材なのです。

次に誰かに何かを教える機会があったら、まず「なぜ」を伝えるところから始めてみてください。
手順の説明はその後で十分です。
ストーリーを通じて伝えることで、あなたの会社の知恵と経験が、次の世代へと確実に引き継がれていくはずです。

人を育てることは、会社の物語を紡ぎ、受け継いでいくことでもあるのです。

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