人は見たいものしか見ない
はじめに:あなたの商品は、お客様の「頭の中」で勝負している
経営者の皆さんは、こんな経験はないでしょうか。
同じような商品を扱っているのに、なぜかあちらのお店ばかりお客様が入っていく。
値段も品質も変わらないのに、「あそこは良い」と評判になる。
あるいは、一生懸命商品の良さを説明しても、なかなかお客様に伝わらない。
実は、この現象には理由があります。
それは、人間の脳が持つ「見たいものしか見ない」という特性です。
この特性を理解することは、従業員10名前後の中小企業が大手と戦っていく上で、極めて重要な武器になります。
なぜなら、限られた予算の中でも、お客様の「頭の中」に正しい印象を植え付けることができれば、大きな広告費をかけなくても選ばれる存在になれるからです。
人の脳は「入り口で選別する門番」がいる
まず、人間の脳の仕組みについて、分かりやすくお話しします。
コンピュータと人間の脳は、よく似ていると言われます。
どちらも情報を記憶し、処理する能力があります。
しかし、決定的な違いがあります。
コンピュータは、入力された情報を何でも受け入れます。
良いデータも悪いデータも、正しい情報も間違った情報も、区別なく保存します。
一方、人間の脳には「門番」がいるのです。
新しい情報が入ってきたとき、その門番は「これは受け入れるべきか、それとも拒否すべきか」を瞬時に判断します。
そして、自分の中にすでにある考えや信念と合わない情報は、なかなか受け入れようとしません。
これは、人間が効率的に生きるための防衛本能とも言えます。
毎日膨大な情報が溢れる中で、すべてを受け入れていたら、脳がパンクしてしまいます。
だから、脳は「すでに知っていること」「信じていること」に合う情報だけを優先的に取り込み、それ以外は排除しようとするのです。
「見たいものしか見ない」人間の本質
この脳の特性が、日常生活の中でどう現れるか、いくつかの例を見てみましょう。
先入観が味覚さえも変える
あるレストランで、「A」と書かれたグラスと「B」と書かれたグラスに、全く同じワインを注ぎます。
ただし、Aのグラスには「フランス産の高級ワイン」、Bのグラスには「国産のテーブルワイン」と説明します。
すると、多くの人が「Aの方が香りが豊かで、味わい深い」と答えます。
中身は全く同じなのに、です。
これは「高級ワイン=美味しいはずだ」という先入観が、実際の味覚体験まで変えてしまった結果です。
情報を自分の都合の良いように解釈する
また、こんな実験もあります。
賛成派と反対派に分かれて激しく議論されているテーマ(例えば、ある政策について)の記事を、両方の立場の人に読んでもらいます。
すると不思議なことに、賛成派の人は記事から「やはり賛成すべきだという証拠」を見つけ出し、反対派の人は「やはり反対すべきだという根拠」を見つけ出します。
同じ記事を読んでいるのに、です。
これは、人が情報を客観的に受け取るのではなく、「自分が信じたいことを裏付ける情報」だけを選んで受け取ってしまうという証拠です。
中小企業の現場で起きている「見たいもの」効果
では、この人間の特性が、私たちの商売にどう関係してくるのでしょうか。
具体的な事例で見てみましょう。
事例1:街の洋食店「キッチン山田」の場合
ある地方都市に、「キッチン山田」という小さな洋食店があります。
オーナーシェフの山田さんは、30年間修業を積んだベテランで、料理の腕は確かです。
しかし、お客様はなかなか増えませんでした。
一方、駅前に半年前にオープンした「欧風キッチン ラ・メゾン」は、連日満席です。
こちらのシェフは実は経験3年の若手。
しかし、店構えはおしゃれで、「フランス修業経験あり」という看板が掲げられています。
料理を食べ比べてみれば、キッチン山田の方が美味しいかもしれません。
でも、お客様は「ラ・メゾン」に並びます。
なぜでしょうか。
答えは、お客様の頭の中にすでに「おしゃれな店=美味しい洋食」「フランス=本格的」というイメージがあるからです。
そして、ラ・メゾンの外観や看板が、そのイメージを強く刺激するのです。
お客様は、実際に料理を食べる前から「ここは美味しいはずだ」と期待し、その期待通りの味を感じるのです。
事例2:町の電気工事店「サトウ電気」の変化
佐藤さんは、地元で20年電気工事業を営んできました。
技術には自信がありましたが、「仕事は口コミだけ」という状態で、売上は横ばいでした。
ある時、佐藤さんは思い切って会社の看板を変えました。
それまでの「サトウ電気」から「安心電気サービス サトウ」へ。
さらに、作業着を清潔感のあるブルーに統一し、車に「24時間対応」「創業20年の信頼」というステッカーを貼りました。
すると、不思議なことに新規の問い合わせが増え始めたのです。
技術は何も変わっていません。
変わったのは「お客様が見るもの」だけです。
お客様は、「20年の実績=安心できる」「清潔な作業着=丁寧な仕事」と無意識に結びつけます。
そして、その期待を持って佐藤さんに仕事を依頼し、期待通りの満足を得るのです。
事例3:個人経営の美容院「ヘアサロンみどり」の挑戦
美容師の緑川さんは、住宅街に小さな美容院を開きました。
カット技術には絶対の自信がありましたが、開店当初は苦戦しました。
緑川さんは気づきました。
お客様は「技術」だけで美容院を選んでいないことに。
隣町の美容院は「インスタ映えするサロン」として人気で、実際にはカット技術は緑川さんの方が上なのに、若いお客様はそちらに流れていました。
そこで緑川さんは、店内の一角を「撮影スポット」に改装し、「仕上がりを撮影してインスタに投稿してくださるお客様には次回10%オフ」というサービスを始めました。
すると、若いお客様が増え始めました。
彼女たちは「インスタ映えする店=センスが良い美容師」と無意識に判断し、緑川さんの技術を「期待通り」以上に感じてくれるようになったのです。
なぜ広告が効果を持つのか
ここで、広告の役割について考えてみましょう。
もし人間が常に冷静で理性的だったら、広告はほとんど意味を持ちません。
商品のスペックと価格だけを比較表にして並べれば、それで十分なはずです。
でも、実際には広告は大きな効果を持ちます。
それは、広告が「期待をつくりだす」からです。
「このシャンプーを使えば、あなたの髪はCMのモデルのようにツヤツヤになるはずだ」
「この車に乗れば、あなたの生活はもっと豊かで楽しくなるはずだ」
「このサービスを使えば、あなたの悩みは解決するはずだ」
広告は、商品そのものの情報を伝えるというより、「この商品を使った未来のあなた」というイメージを売っているのです。
そして、人々はそのイメージに期待を膨らませ、実際に商品を購入したとき、その期待通りの効果を「感じる」のです。
中小企業経営者が今日からできること
では、この「人は見たいものしか見ない」という法則を、どう活用すれば良いのでしょうか。
お客様の頭の中にある「理想像」を理解する
まず、あなたの商品やサービスを買うお客様が、頭の中にどんなイメージを持っているかを考えましょう。
例えば、クリーニング店なら、お客様は「清潔」「丁寧」「信頼」といったイメージを求めています。
税理士なら「正確」「親身」「頼れる」といったイメージです。
そのイメージを「見える化」する
次に、そのイメージを、目に見える形で表現します。
店舗の外観、スタッフの服装、看板のデザイン、名刺の作り方、ホームページの写真―すべてが「イメージを伝える道具」です。
大金をかける必要はありません。
作業着を統一する、店頭を毎日きれいに掃除する、笑顔で挨拶する、といった小さなことでも、お客様の「期待」を作り出すことができます。
お客様の期待を裏切らない
そして最も大切なのは、作り出した期待を、実際のサービスで裏切らないことです。
「丁寧そうな店」というイメージで来たお客様に、雑な対応をしてしまったら、二度と来てくれません。
イメージと実態を一致させることが、リピーターを生む鍵です。

まとめ:小さな会社だからこそ、イメージ戦略が武器になる
人間の脳は、新しい情報を無条件に受け入れるわけではありません。
すでに持っている信念や期待に合う情報だけを選んで受け入れます。
だからこそ、お客様の頭の中に「良いイメージ」を植え付けることが、ビジネスの成功に直結するのです。
大企業は莫大な広告費をかけて、このイメージ作りをしています。
しかし、中小企業には中小企業の戦い方があります。
地域密着だからこそできる丁寧な対応、顔が見える関係性、一人ひとりのお客様を大切にする姿勢―これらすべてが、お客様の心に「この店は信頼できる」「ここなら安心だ」という期待を育てます。
そして、その期待を持ったお客様は、あなたのサービスを「期待通り」以上に感じてくれるのです。
商品やサービスの質を高めることは、もちろん大切です。
しかし同時に、お客様の「見たいもの」を見せてあげること、「期待したいこと」を期待させてあげることも、同じくらい重要なのです。
明日から、あなたのビジネスを、お客様の目線で見直してみてください。
お客様が「見たい」と思っているイメージを、きちんと伝えられているでしょうか。
その小さな工夫が、売上を大きく変える第一歩になるかもしれません。

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