顧客インサイトを見つけることが小さな会社の武器になる
はじめに:なぜ「インサイト」が大切なのか
「広告を出してもなかなか反応がない」「SNSで発信しているのに、お客さんが増えない」—こうした悩みを抱えている経営者の方は多いのではないでしょうか。
その原因のひとつに、お客さんの「本当の気持ち」に届いていないという問題があります。
マーケティングの世界では、この「お客さんが自分でも気づいていない本音や隠れた動機」のことを「インサイト」と呼びます。
少し聞き慣れない言葉ですが、要するに「お客さんが買う本当の理由」です。
お客さんが口で言うことと、実際に財布を開ける理由は、必ずしも一致しません。
「健康のために買った」と言いつつ、本当は「家族に心配をかけたくない」という気持ちが動機だったりする。
そうした「心の奥にある本音」を見つけ、それに寄り添うメッセージを発信できると、お客さんの心に刺さる伝え方ができるようになります。
インサイトの見つけ方:「あれ、おかしいな」という感覚を大切に
では、どうすれば本音を見つけられるのでしょうか。
そのヒントは、日々のデータや出来事の中に潜む「違和感」にあります。
競合と比べたとき、去年と比べたとき、あるいは「こうなるはずだ」という自分の予想と実際がズレたとき——「あれ、なんでだろう?」と立ち止まれるかどうかが、本音を見つける第一歩です。
たとえばあなたが飲食店を経営しているとして、「ランチよりディナーのほうが儲かるはず」と思っていたのに、実際には平日のランチが売り上げの6割を占めていた—そんな感覚です。
なぜランチが売れているのかを掘り下げると、「このエリアのサラリーマンは、昼休みに会社の人間関係から離れて一人でゆっくりしたいと思っている」という本音が見えてくるかもしれません。
それがインサイトです。
【背景】インサイトを活かす際の「落とし穴」
インサイトを見つけても、うまく使えないと意味がありません。
実際にビジネスで活用するときにはいくつかの注意点があります。
落とし穴①:「うちだけの本音」を探しすぎる
競合他社と自社のサービスに大きな差がない場合、「うちだけに当てはまる独自のインサイト」を探しても、なかなか見つかりません。
そういう場合は、業種全体に共通する本音を見つけて、それを他社より先に、より鮮明に伝えることのほうが効果的です。
たとえばスポーツ用品であれば、ブランドに関係なく「自分に打ち勝ちたい」「ライバルに負けたくない」という気持ちは共通しています。
その感情にまっすぐ訴えかけることで、多くの人の心を動かせます。
落とし穴②:「誰も気づいていない本音」は、動く人も少ない
「これまで誰も見つけていない本音だ!」と意気込んでも、それがあまりにもニッチな心理であれば、そこに反応する人の数も限られます。
たくさんのお客さんを動かしたいなら、人間に共通する普遍的な心理—「ほめられたい」「ラクをしたい」「損をしたくない」「仲間はずれになりたくない」—といった、多くの人が持つ感情を探したほうがよい場合も多いです。
落とし穴③:ネガティブな本音をそのまま使ってしまう
人間の隠れた心理には、ポジティブなものだけでなく、ネガティブなものもたくさんあります。
コンプレックス、孤独感、罪悪感、「取り残されたくない」という焦り……実は、これらがモノを買う動機になっていることも多いのです。
しかし、ネガティブな本音を見つけたからといって、それをそのまま伝えると逆効果になります。
たとえば、シニア向けのスマートフォン教室を運営しているとします。
受講者の本音を調べると、「操作がわからないと、子どもや孫に迷惑をかけてしまう」という不安が申し込みの大きな動機になっていることがわかったとします。
だからといって「ご家族に迷惑をかけていませんか?」と広告に書いたらどうでしょう。
受講を検討している方は「そんなふうに思われているのか」と傷ついてしまいます。
でも「スマホを使いこなして、孫ともっとつながろう」というメッセージに変えれば、同じ本音から出発しながらも、前向きな気持ちへと引き出すことができます。
ネガティブな本音は、ポジティブな未来への橋渡しとして使う—これが大切な視点です。
【事例】地方の小さなお菓子屋さんが売上を伸ばした話
ある地方の小さな洋菓子店の話です。
店主は「うちのケーキは素材にこだわっている。だからおいしさをもっとアピールすれば売れるはずだ」と考え、SNSでも「地元産の果物を使用」「職人が丁寧に手作り」といった内容を発信していました。
しかし、反応はいまひとつ。
ある日、店主はお客さんのレビューや購入記録をじっくり見直しました。
すると不思議なことに気づきます。誕生日ケーキや記念日ケーキの注文だけが、他の商品に比べて圧倒的にリピート率が高かったのです。
「なぜだろう?」と考え、常連のお客さんに話を聞いてみると、こんな答えが返ってきました。
「ここのケーキを渡すと、相手がすごく喜んでくれる。『特別感がある』って言ってもらえるから、大切な人への贈り物はいつもここにしている」
これが本音でした。
お客さんはケーキの「おいしさ」だけでなく、「大切な人に喜んでもらえる自分」になりたいという気持ちで買っていたのです。
そこで店主は発信の方向を変えました。
「素材のこだわり」ではなく、「大切な人の笑顔をつくるお手伝い」をテーマにしたメッセージに切り替え、渡した相手が喜んでいる写真や感謝のメッセージをSNSで紹介するようにしました。
結果、フォロワーが増え、「記念日ケーキといえばここ」という口コミが広がり、来店者数が大幅に増加しました。
おいしさという「商品の特長」ではなく、「お客さんの心の奥にある本音」に寄り添ったことが、成功の鍵でした。
インサイトを確認する4つの問いかけ
「これがお客さんの本音かもしれない」と思うものを見つけたら、次の4つの視点で確認してみましょう。
それは、お客さんが「選ぶ気持ち」につながるか?
見つけた本音を前向きに活かすことで、自社の商品やサービスを選んでもらえる可能性が広がるかどうか。
「そうそう、そうなんだよ!」とハッとさせられるか?
お客さんや自分のスタッフが聞いたとき、「そういうことか!」と思わず膝を打つような発見があるか。
自社のビジネスと合っているか?
「うちだけの本音」でなくても構いません。
ただし、自社が語るにふさわしい内容かどうかは確認が必要です。
畳屋さんが「モテたい」という本音を語るのは、少し無理がありますよね。
主語は「お客さん」になっているか?
よく混同されますが、「このブランドは〇〇を大切にする」はお客さんの本音ではなく、会社側のビジョンです。
本音は必ず「お客さんが〇〇と感じている」「お客さんは〇〇したいと思っている」という形で描かれます。

まとめ:小さな会社こそ「本音」が武器になる
大手企業は広告費や商品開発に莫大なお金を使えます。
でも、小さな会社が大企業に勝てる領域があるとすれば、それは「お客さんとの距離の近さ」です。
毎日お客さんと顔を合わせ、声を聞き、表情を見ている。
そこには、大企業がどれだけお金をかけても手に入れにくい「生きた本音」が溢れています。
レジでの会話、Googleのクチコミ、リピーターとの雑談—そういった日常の中に「あれ、思っていたのと違うな」という違和感を感じたら、それを流さずに立ち止まってみてください。
その違和感こそが、お客さんの本音への入り口です。
本音が見つかれば、発信の言葉が変わります。
言葉が変われば、お客さんの反応が変わります。
そして、反応が変われば、売上も変わっていきます。
「何を伝えるか」より「誰の、どんな気持ちに届けるか」—それを意識するだけで、あなたのビジネスのメッセージは、ぐっと力強くなるはずです。
