
指示待ち部下を育てるコミュニケーション術
「これ、どうしたらいいですか?」
部下からこう質問されたとき、あなたならどう答えますか?
つい、「こうしてください」と具体的な指示を出してしまいがちではないでしょうか。
もちろん、それが一番手っ取り早い方法です。
しかし、それを繰り返していると、いつの間にか「指示がないと動けないチーム」になってしまいます。
ここでは、少し時間はかかるけれど、メンバー一人ひとりが自分で考え、成長し、やがては上司の意図を汲んで自ら動けるようになる、「強いチーム」の育て方をご紹介します。
ステップ1:ボールを投げ返す「あなたなら、どうする?」
部下から「どうしたらいいですか?」と指示を求められたら、まずは優しくボールを投げ返してみましょう。
「〇〇さんなら、どうするのが良いと思いますか?」
私自身、完璧な人間ではないので、いつも的確な指示が出せるわけではありません。
だからこそ、相手の意見を聞いて、考えるヒントをもらいたいのです。
最初は、この質問に戸惑う人も多いでしょう。
「いや、それが分からないから聞いているのに…」という顔をされるかもしれません。
そんな時は、こう付け加えてみてください。
「実は、私もすぐに良い答えが浮かばないんです。でも、一緒に考えたいので、何か気づいたことや、ちょっとでも『こうかな?』と思うことがあれば、何でもいいので聞かせてもらえませんか?」
これは、答えを求めるテストではなく、一緒に考える仲間を探すための質問です。
この姿勢が伝わると、相手も少しずつ意見を話してくれるようになります。
ステップ2:どんな意見も「宝物」として受け止める
相手が勇気を出して意見を話してくれたら、その内容がどうであれ、まずはその行動をしっかり受け止め、感謝を伝えることが大切です。
「なるほど、その視点はなかったです!ありがとう」
「そうか、そういう見方もあるんですね。話してくれて、すごく助かります」
これは、部下の意見という「宝物」を見つけて、一緒に喜ぶようなイメージです。
自分の意見が役立った、歓迎されたという経験は、「次も話してみよう」という自信につながります。
この小さな成功体験を積み重ねることで、意見を言うことへのためらいが消えていきます。
ステップ3:意見がズレたら「地図」を広げて目的地を共有する
もちろん、時にはあなたの考えとは少し違う、的外れに聞こえる意見が出てくることもあるでしょう。
そんな時、絶対にやってはいけないのが、頭ごなしに否定することです。
否定する代わりに、「地図」を広げて、今私たちがどこに向かっているのか(仕事の目的や優先順位)を一緒に確認するのです。
「面白い意見ですね、ありがとう。ただ、今回の仕事で一番優先したいのは〇〇なんです。そのゴールを目指すとしたら、何か別のアイデアはありますか?」
これは、カーナビの「ルート再検索」のようなものです。
間違った道を責めるのではなく、「目的地はこちらですよ」と、進むべき方向を優しく示してあげる。
これを繰り返すうちに、部下はだんだんとあなたの「地図」の読み方を覚え、目的地を自分で想像できるようになってきます。
最終ステップ:失敗は「成長痛」。責任は上司が引き受ける
このやりとりを続けていると、やがて部下は「〇〇さん(上司)が出張で不在だったので、このように処理しておきました。いかがでしょうか?」と、事後報告をしてくれるようになります。
そして、そのほとんどが、あなたの期待通りの結果になっているはずです。
たまに、あなたの考えと少しズレた処理をすることもあるかもしれません。
その時こそ、リーダーの腕の見せどころです。
「ありがとう、助かります。ああ、この件は私の指示が曖昧でしたね。責任は私が取りますので、気にしないでください。実は、私はこう考えていたので、次からはこの方向でお願いできますか?」
部下の判断による失敗は、いわば「成長痛」のようなもの。
そしてその責任は、曖昧な指示しか出せなかった上司にある、という姿勢を明確に示しましょう。
そうすることで、部下は失敗を恐れず、安心して次の挑戦ができます。
「机を拭いておいて」から始まる、チームづくりの分かれ道
考えてみてください。あなたが「机の上を拭いておいて」と指示したとします。この一言には、「どの布巾で」「どこにある布巾で」といった情報がありません。
部下は自分で考えて、「これかな?」と思う布巾で机を拭きます。その後のあなたの対応が、チームの未来を大きく左右します。
【Aの道】部下が萎縮するチーム
「なんで新品の布巾を使うんだ!少し探せば古いのがあっただろ!もったいない!」
→部下は「次からは、布巾の種類と場所まで細かく聞かないと怒られる…」と萎縮し、指示待ちになる。
【Bの道】部下が成長するチーム
「わあ、きれいにしてくれてありがとう! …ん?新品の布巾? ああ、いいんですよ。私が場所を言っていなかったですしね。次から使う布巾は、ここに置いておきましょうか」
→部下は「自分の判断で動いても大丈夫なんだ」と安心し、次も積極的に動こうとする。
どんな指示にも、どうしても曖昧な部分が残ります。
その隙間を、部下が自分の判断で埋めてくれた時、その結果を「違う!」と叱るのか、「やってくれて、ありがとう」と感謝するのか。
そこが、メンバーが自ら考えて動く「強いチーム」になるか、指示待ちの「弱いチーム」になるかの、大きな分かれ道なのです。